建築作品小委員会選定作品 フィリピン人建築家Encarnacion-Tan, Rosarioインタビュー
バンブー・アーキテクチャー——竹建築の未来
Future of Bamboo Architecture

—なぜ竹で建築をつくり始めたのですか?

1980年に、私が大学を卒業して数ヶ月後、フィリピン中部ビサヤ諸島のパナイ島で活動を始めました。
パナイ島には竹が多く生育する四つの州があります。私たちはここで幸運にも100以上の小さな竹の家を実測できる機会に恵まれました。私は『Folk Architecture』(GCF Books 1990)が出版されるまで断続的に10年間、竹の建築について研究し続けました。1990年に結婚したパートナーのJujuと一緒に生活のロードマップをつくりました。そして私たちはどちらも、自発的で単純な物事を実践したいと望みました。それはシンプルな家で暮らすことも意味していました。 そこで、私は「竹の家に住むのはどうだろう?」と問いかけたところ、彼は完璧なアイデアだと言ってくれました。私は初めデザイナーとしてではなく、施工者としての10年間の経験がありました。そして竹の建築をつくり始めたのです。

—フィリピンの竹の特徴について教えてください。

フィリピンには100種以上の竹があります。現在、世界中の竹の愛好家の間で盛んに交流がおこなわれています。そのなかでも建設に使用される竹は5種があります。構造的にも審美的にも最も満足のいくものは「bambusa blumeana」です。 そのほかに「kawayang tinik」は尖った竹として知られています。(以下、ktと略記)。ktは引張および圧縮の両方に対して構造的に安定していると実証されています。インドネシアの有名な竹の植物学者Elizabeth Widjajaは、フィリピンの土壌のほとんどがインドネシアの土壌ほど豊かではないと指摘しましたが、それでもktは家を建てるのに非常に役立っています。 ktは約14-16mの高さまで成長し、直径は約75mm-100mmです。そして山竹は川竹よりも強いのです。これらの竹は人間によって植えられています。
20世紀になると、フィリピンには、400万ha程の竹が植生していました。しかし現在では100ha以下にまで減少しています。 (悲しいことに森林破壊はフィリピンでは90%も高い)

—Encarnacion-Tan, Rosarioさんによって開発された竹の構造について教えてください。

竹は柱や梁、小屋組などの構造材に使われます。竹の取り扱いについては、伐採したばかりの新鮮な竹を10%のホウ酸の溶液に浸します。葉っぱが溶液を吸い取ることで、幹にもホウ酸が行き渡ることを発見しました。この方法はBoyd Alexanderの助けで見つけました。また私は鉄の釘を使用しません。銅の釘、ビスなどを試しましたが、もっとも良い方法は、竹そのものから釘をつくることです。孔をあけ、そこにボンドと竹の粉を混ぜて埋めていきます。
ボートに乗っている時のことです。アウトリガー(カヌーの一種)で使われる竹材はナイロン製の紐で結ばれてつくられていることに気づきました。船乗りにこのアウトリガーの紐の耐久性はどのくらいなのか聞きました。彼は30年と答えました。この時にナイロンの釣り糸を使うアイデアを得たのです。この技術によって、漁民や農民である建設労働者でも簡単に施工することができるようになりました。
数年後、このナイロンの紐を解いて元の戻そうとした時に、まっすぐにならないことに気づきました。紫外線と熱が長年にわたり、ナイロンの紐を収縮させ、より緊密に竹どうしを固定することができていたのです。
竹の基礎について、最初は竹の柱をコンクリートの基礎に埋め込んでいました。しかし今ではスチールシリンダーの中に入れています。シリンダーはフーチング(基礎の底版部)の部品に溶接されます。
私は、竹の建築を織物のように認識しています。構造全体を織り構造として解析することができます。そのことで、それぞれの部材がお互いに相互作用しているとみることができます。そう認識することで、竹が裂けたり、極度に曲がっていても、恐れないようになりました。私は祖先から伝わる従来の方法、例えば竹を平面にし、格子状に組むという方法で空間をつくります。祖先の知恵から学んでいるのです。

—竹の建築のつくり方において、他の地域や建築家との違いはありますか? たとえば他の東南アジアの国々、あるいは南米、オーストラリアなどの建築と比べると違いますか?

確かに、彫刻+技術が、竹によってアジア、アフリカ、中南米で新しいかたちをつくり出すのを見ることは魅力的で素晴らしいことです。
そうした状況で、私がおこなった最大の貢献は、伝統的な竹の構法の教訓から竹でつくり続けることです。建築家として、施工者としてのコンストラクションの知識によって、竹の構造をより大きく、より多くすることができました。1997年に国際会議で私の論文を発表したとき、聴衆はフィリピン人が竹の家に住んでいることに驚きました。私はむしろ彼らが驚いたことにショックを受けました。その後、私はコロンビアの建築家Simon Velezに驚いた理由を尋ねました。Velezは、クライアントがたとえ100万ドルをかけて竹の家をつくったとしても、そこには住まないと答えました。バンブーハウスは展示や一時的に宿泊するための別荘でしかないのです。またバンブーハウスは開放的なために誘拐の危険性もあります。そして竹でつくられた建築は、貧しいと受け取られることが多いので、ほとんどの人は住みたがらないのです。しかしながら、すでに試みられているように、住民が自宅を全て竹の構造でつくる技術がわずか10年以内に指数関数的に発展しました。

—竹の建築の今後の可能性はどのようなところにあるでしょうか?

世界的に竹の建築は、新たなデザインと技術を組み合わせることで、かつてないほどのレベルの高さに達しています。海外のデザイナーの才能に感謝します。竹のデザインと建設の可能性を新しい物理学と融合させれば、竹の建築は未来においてエキサイティングな素材/構法になると思います。そして何よりも、設計者は地元の竹職人たちと協力することが不可欠です。エンジニアは「数学」を言語とし、大きな科学的根拠を生み出します。そして建築家は大きな想像力を見せてくれていると思います。彼らがコラボレートしていくことは、とても刺激的で創造的なことです。

(聞き手:能作文徳)

Encarnacion-Tan, Rosario

1956年1月生まれ。建築家、研究者、デザイナー。これまでに24のバンブープロジェクトに関わる。主な著書 : Philippine Ancestral Houses; Folk Architecture; Encyclopedia of Vernacular Architecture of the World; 100 Things about Building with Bamboo 主な受賞:the Patnubay ng Sining at Kalinangan para sa Arkitektura (2010)

能作文徳

建築家。1982年富山県生まれ。2012年東京工業大学大学院博士課程修了。博士(工学)。現在、東京工業大学大学院建築学系助教。2010年「ホールのある住宅」で東京建築士会住宅建築賞受賞。2013年「高岡のゲストハウス」でSDレビュー2013年鹿島賞受賞。主な著書に『コモナリティーズ ふるまいの生産』(共著、LIXIL出版、2013)、『シェアの思想/または愛と制度と空間の関係』(共著、LIXIL出版、2015)。第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築出展(審査員特別賞)。

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