建築家の自邸訪問
ぼっこでっこ建築隊、永倉町の住宅へゆく。
Bokko Dekko kenchikutai goes to `A House in Nagakura-cho`

連載第4回/2015年7月26日/設計:魚谷繁礼

10代の頃、通っていた学校に1人だけ京都から通っている同級生がいて彼の家に遊びに行くというか、それに託けて京都の町で夜な夜な遊んでいたことがあります。京都の街は楽しくて週末など朝方まで遊ぶときは彼の親御さんに叱られるので更に市街地にある彼のおばあちゃんの家を拠点にして色々と出歩く日々を重ねていました。
同級生のおばあちゃん家は通りから少し上ったところにある長屋で、入ると左側に細長い土間があって上部は吹き抜けていたのだけど暗く、湿っぽい匂いを感じながら歩くと徐々に明るい場所が見えてきて、そこに辿り着くと2坪ほどの庭があり空からの光がシャワーのように注がれて気持ち良かったのです。おばあちゃんは更にその庭の奥に住んでいて「いらっしゃい、遊んできなさい」と優しく僕たちを送り出してくれていました。
庭が明るかったのでその奥は暗く感じ、おばあちゃんの全体像はいつも見えてなくて顔しか覚えてないけど「元気にしているのかな、おばあちゃん家もう一度行きたいな」など京都の市街地の内側に入ったそんな昔の記憶を思い出しながら、2015年の夏は ぼっこでっこ建築隊 で京都の永倉町へと大阪から電車で向かっていました。

ぼっこでっこ建築隊とは、建築家が設計した住宅に料理と酒を持参し、食事のひとときを通じて住空間をも味わおうと目論むパーティ。メンバーは、ヤベ隊長、ブン隊員、オオタ隊員、そして僕オクワダ隊員の4人。

この日は建築家の魚谷繁礼さんの自邸でもある永倉町の住宅編で13時からスタートだったのだけれど僕は出遅れてしまい14時くらいの到着だったのです。

住所を頼りに近くへ行くと路地があり、そこを通ると永倉町の住宅が見えてきました、右手には先ず「オモヤ」が現れ、更に足を進めると「ハナレ」1階土間の開口部からその奥にある「アキチ」よりの光が漏れていて、自然と僕を街区の中央であるその場へ導いてくれました。

「遅いぞ、オクワダちゃん」と、ヤベ隊長から叱責があり
「すいません…」と謝ると
「どうぞ、まず一杯」と缶ビールが出てきました
振り返ると、そこには魚谷さんの先輩である森田一弥さん(第2回ぼっこでっこ訪問)と、後輩の池井健(次年度訪問)さんの顔が
「あれっ、何で来ているのですか?」
「だって楽しそうじゃないですか、ギターとか音楽とか、あはは」
「うわぁ、みんな仲良いのですね」
「ぼっこでっこ建築隊もでしょ?」
「はい、そうですけど…」
時々、ギターの弾き方や音楽性の問題で討論することはありますが、互いを許しあっていると言うか、許してもらわないと存在できない個の集合体と言うか、そんな「ぼっこでっこ建築隊」なのだけれど、この日の「オモヤ」「ハナレ」「アキチ」は優しく許容してくれたのです。

「そう言えばこの場所も様々な存在(連棟長屋・マンション・ミニ開発)の中に面していて、それが現代の京都市街地の状況なのですよ」と魚谷さんが教えてくれました。

(配置ボリューム:魚谷繁札建築研究所)

永倉町の住宅は伝統的軸組工法で建てられた路地奥の連棟長屋2軒と別棟1棟を改修した住宅で既存不適格建築物の再生。魚谷さんの他の改修住宅と同じく伝統的なボキャブラリーを駆使しつつ新しい空間をうみだす手法で京都の都心で安く土地と建物を購入して快適に住みつつ、建築の再生だけではなく路地や地割の再解釈がされていて、それらにより不動産の価値も高まるのではないかと考えられます。

京都における数々の既存不適格建築物のリノベーションを通して建築に関連する法律とも向き合いながら最近は法整備にも尽力もしつつも、魚谷繁礼という建築家は(僕たちのように)旺盛な造形欲に頼らずに新しい空間をつくれる希有な存在だと、この永倉町の住宅に入って再認識したのです。

「では案内しますよ」と全ての部屋に魚谷さんが連れて行ってくれました。

(1階平面図:魚谷繁札建築研究所)

(2階平面図:魚谷繁札建築研究所)

ハナレ2階は少し籠れたり、来客者が宿泊できたりする場所。写真では解りづらいがオモヤとエキスパンションのようなデッキでつながっていて僅かな時間の内外内の移動が心地よいのです。

ハナレの1階土間は路地からアキチへと向かうときに通ったのですが、路地側の開口には戸が設えてありアキチ側は建具がない。
土足のまま使える縁側のような場所で外が内へと延長している感じ。

オモヤの縁側は、やはり少し腰を掛けられる高さで、奥行きが半間なのだけれど「一の間」とつながっていて、こちらは内が外へと延長している感じ。

このオモヤの縁側とアキチそしてハナレの土間は、一体的に使う人がその状況で場所を選んで寛げるようになっていて、行動を限定しない懐の深さを感じるところなのです。

オモヤの一の間
真夏でも長袖を嗜むソファー手前のブン隊員

三の間
実はオオタ隊員が以前壊したギターを森田さんに修理してもらったのだが、それを森田さんに点検してもらっている。

一通り案内頂いた最後に「どうぞ、風呂入ってくださいよ」魚谷さんから声をかけてもらうも、着替えを持ってきておらず断念。今度は風呂そして宿泊と思いつつ永倉町の住宅を後にしました。

そういえばこの後、ヤベ隊長とオオタ隊員が仲良く話し出したかと思えば討論になったり、皆で中華料理を食べたりしながら帰ったように思うのだけど、僕たちの記憶の殆どは昼夜ソフトドリンクで過ごすブン隊員の記録(ブンエモンレコーダー)に頼っているので今度また答え合わせをしないと。

同級生のおばあちゃん家とはまた違ったけれど京都の市街地の内側で多分25年ぶりに過ごすことが出来て、表通りから入った場の寛容さを再認識できました。
魚谷さん案内頂きありがとうございました。

ぼっこでっこ建築隊とは、建築家が設計した住宅に酒と料理を持参し、食事のひとときを通じて住空間をも味わおうと目論むパーティである。
隊員:矢部達也(隊長)、岡文右衛門、奥和田健、太田康仁、石井良平(顧問)

奥和田 健

建築家。1970年生まれ。2004年 奥和田健建築設計事務所設立。

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