応募作品
官民連携によるタウンマネジメントのまちづくり
~ARAI DESIGN CENTERを拠点として~

荒井東地区

荒井東地区

仙台駅から6㎞ほど東に離れた荒井東地区は2015年12月に開業した地下鉄東西線荒井駅の南側に位置する。地下鉄の開業前からまちづくりのための区画整理事業が進められており、仙台東部地区の新たな中心市街地として開発が進んでいる。この事業は東日本大震災前から始まった事業であるが、震災後、荒井東地区は震災者を受け入れる復興住宅が早期に整備され、仙台市震災復興計画(2011年11月策定)ではエコタウンとしても位置づけられており、震災復興先導地区としても大いに期待されている。

まちづくり

荒井東地区は市民が中心となり民間企業・行政と連携した手法を用い、従来のトップダウン型ではない新しいまちづくりを実践している。具体的には5つの基本方針「交流・賑わいづくり」「低炭素なエコタウンづくり」「減災拠点づくり」「コミュニティづくり」「協働まちづくり」の具現化と民間企業からなる「荒井タウンマネジメント」(以下荒井TM)によるまちの運営である。2013年5月に設立された荒井TMは、仙台市の特別措置法に基づき、2016年1月に行政の補完的機能を担う都市再生推進法人に指定され、事業型組織が行う「育てるまちづくり」を実現しようとしている。

メインファサード

ARAI DESIGN CENTER

私は2013年から荒井東地区の設計にかかわり、区画整理によってつくられる新しいまちのデザインに寄与してきた。初めに荒井東地区を運営していく荒井TMの拠点づくりが求められた。アライデザインセンターは荒井東地区のちょうど真ん中に計画された。2~4階に荒井東地区を運営する荒井TMとそれに関係する民間企業が入居する。荒井TMはこの建物を利用してコミュニティ形成事業を行うことを想定し、1階はコミュニティカフェと情報発信するメディア関連企業、そして様々なイベントができる多目的オープンスペースが計画された。

グラフィカルウォール

建物が媒介となり人と人、人とコミュニティがつながっていく、そして建物のいたるところで様々なイベントが企画されることを目指し、コンセプトをつくっていった。区画整理事業の中心的施設であり、まちづくりのランドマーク的な存在になるよう特色のあるデザインと、周辺環境に溶け込み、長期的に持続可能なデザインとすることが求められた。また建物内部で行われる積極的な活動が可視化されることも期待された。
建物のファサードは異なる素材をグラフィカルにパターン化することで特色をもたせた。パターンには目の錯覚を生むカフェウォール錯視図形を参照し、2次元の静的なパターンの中に錯覚による動的なモーションが生まれ、静と動という相反する要素が混在することを期待した。また内部の廊下とオフィスの間の壁も外壁と同一のパターンを用い、外部から見た時にレイヤー効果による奥行感をもたせた。内装は対象物を可視化しやすい白を基調とし、人の水平の動きと奥行感を外部から見えるようにした。

ウイング

もう1つ特徴的なデザイン要素として、北側ファサード面に連続しながら機能を変化させるウイングを設けた。このウイングは1F屋外階段から垂直に壁状に立ち上がり、2Fで庇に変化し、北西端部で垂直に上り、頂部でパラペットとして東側屋外階段まで連続する。このウイングは風の強い荒井東地区の雨風を遮りながらファサードの動的な要素を強調させた。

コミュニティカフェ

コミュニティカフェは地域住民の憩いの場としての役割をもつため、居心地の良さ、オープンな雰囲気、集いやすさをテーマに木、コンクリートブロック、コミュニケーションを円滑にする効果のある黄色で塗装された壁で構成した。このカフェはまちづくり事業の宣伝ツールとしてつくられた映画の舞台にもなっている。地域の人々や仙台出身の俳優を使ってコミュニティカフェがオープンするまでのストーリーを映画化し、実際の建設とスケジュールを合わせながら映画撮影を行った。公開された映画を見た人々が実際にカフェに訪れたりして新しい地域交流が生まれている。

多目的オープンスペース

タウンマネジメントにおける建築の可能性

現在、荒井TMはこの建物を拠点にし、計画コンセプトを十分に生かしながら、ファシリティを最大限活用して、多目的オープンスペースやコミュニティカフェにて月1回のマルシェ開催、コミュニティカフェを舞台にした映画製作、電力の見える化、風力発電、太陽光発電事業など、様々な活動を展開し、賑わいの創出とコミュニティの形成などに努めている。今ではそれらの活動により、住民主体のイベントや活動が行われ、住民同士のつながりや交流も生まれてきており、アライデザインセンターが最大限に活用されていることがうかがえる。アライデザインセンターが拠点施設として長期的にも活用され、デザインも含めて周辺住民にとってよりどころとなる施設になることを期待したい。

1階平面図

2~4階平面図

・建築概要
作品名:アライデザインセンター
所在地:宮城県仙台市若林区荒井字御散田3
主な用途:事務所、カフェ、TVスタジオ、店舗
規模:鉄骨造 地上4階建て
敷地面積:1,015.56㎡
建築面積:297.16㎡
延床面積:1,037.53㎡

・都市デザインワークスHP, http://www.udworks.net/works/future/arai-higashi
・一般社団法人荒井タウンマネジメントHP, http://www.arai-tm.com/

渡邊詞男

建築家。メタボルテックスアーキテクツ代表。博士(工学)。1968年福岡県生まれ。1994年早稲田大学大学院修士課程修了後、山下設計、南カリフォルニア建築学校(SCI-Arc)大学院修了、コープ・ヒンメルブラウ、早稲田大学大学院博士後期課程を経る。2013年メタボルテックスアーキテクツ設立。著書:『格差社会の住宅政策 ミックスト・インカム住宅の可能性』(早稲田大学出版部)、『深化する居住の危機 住宅白書2014-2016』(共著)(ドメス出版部)など。http://metavortex.com

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