《本町の集合住宅》
■作品解説
賃貸集合住宅のプロジェクトである。
敷地は陶磁器産地の愛知県常滑市の中心市街地にあり、敷地周辺にも窯屋の煙突や工場が多く残る。
地方特有の条件として成人一人に一台の駐車場が必要とされるが、各戸の北側に一台、南側に2台目の駐車場も兼ねる「前庭」を配し、親密なスケールの南側の通りに面して玄関をもつ長屋形式の建物とすることで、大きな面積の駐車場を作らず、周辺環境との調和を図るような配置計画とした。外構床には常滑焼のレンガ(水野製陶園製)を全面に敷いているが、この「レンガ舗装」によって「駐車場を兼ねる庭」が成立している。
各住戸の内部は敷地の高低差に合わせ南北で半階ずれたスキップフロアの断面構成とすることで、開口部からは様々な角度で外の景色を見ることができ、また各戸が専有の外部空間(前庭、屋上テラス)をもつことで“この場所に住んでいること”をより強く感じられるようになっている。
■データシート
建物名称/本町の集合住宅
所在地/愛知県常滑市
主要用途/賃貸集合住宅
主体構造/RC造
竣工/2006年6月
設計/水野太史
施工/嶋工務店
《トコナメレポート2010》
■作品解説
「トコナメレポート2010」は、「中部国際空港」の開港(2005年)を機に、まちの構造が大きく変わりつつある愛知県常滑市常滑地区において、「独自の魅力と活気のある暮らしやすいまち」をいかにつくるか、その考え方と方法を、都市建築デザインの視点から追求する試みである。
常滑地区には、常滑駅にも近く古くからの窯業のまちの景色が色濃く残る「やきもの散歩道地区」と、新たな埋め立て地である「りんくう町」の大きなポテンシャルを持つ新旧二つのエリアがある。そこで「やきもの散歩道地区」をテコにして、まちのポテンシャルを引き出すための提案をした。またその中で地域の窯業技術や文化のポテンシャルを引き出すような個別の建築(やきものの浴場など)の提案もしている。
■データシート
名称/トコナメレポート2010
対象地区/常滑市常滑地区
用途/提案書
発表/2009年10月
設計/水野太史
《水野製陶園ラボ》
■解説
株式会社水野製陶園(1941年創業)の主な製品は、湿式のレンガやタイルと、粘土や釉薬で、原料づくりから焼成まで一貫製造している。過去には坂倉準三や吉村順三などの建築家や、日本画家の片岡珠子などの芸術家とも協働してきた。
2014年に、製陶園の技術・資材・空間を活かし、世に開いていくプロジェクトである「水野製陶園ラボ」をスタートさせた。
「技術」の面では、土づくりや釉薬の高い技術を活かすべく、焼きものの質感を大切にした湿式の施釉タイルや陶器を開発しているほか、建築家の注文に応えたオリジナルタイルの制作もしている。「資材」の面では、景気が低迷し、注文が大きく減少してもリストラをすることなく、つくり続けたためにできた巨大なレンガの山を活かすべく、建築家の視点から販促に取り組んでいる。「空間」の面では、50年以上前に陶製ブロックを用いて社員が手づくりした10棟の元社宅を再活用するプロジェクトを始めた。有志参加のワークショップも開き、場の可能性を探りながら整備を進めている。
水野製陶園の環境には、自由で合理的な精神とDIY精神が息づいている。じぶんたちの手でつくった気持ちの良い環境で、窯業を営み生きること。この延長線上に、環境とテクノロジーと人間の理想的な未来を見ている。
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