第10回けんちくとーろん(AF=Forumアーキテクト/ビルダー研究会Architect/Builder Study Group共催)
入札契約方式の多様化と建築設計 建築の設計と生産:その歴史と現在の課題をめぐって02
Divergence of Forms of Bid and Contract, and Architectural Design Architectural Design and Build: Its History and the Present Issues 02.

コーディネーター:安藤正雄
パネリスト:古阪秀三、森暢郎
コメンテーター:近角真一

 

参加者:深尾精一、平野吉信、志手一哉、小笠原正豊、吉田倬郎、斎藤公男、布野修司、広田直行、山岸輝樹、和田章、神田順ほか
記録:長谷部勉、船津友里亜

 

日時:平成28年5月31日(火)17時30分~
会場:A-Forum(東京都千代田区神田駿河台1−5−5レモンパートⅡビル5階)

 

主旨
「入札契約方式の多様化と建築設計」をテーマに、建築設計の立場から品確法がもたらしたインパクトと対応のあり方について討論を進めたい。論点は、建築設計界は入札契約方式の多様化をどのように受け止めるか、建築設計の専門性を尊重する多様化はいかに可能か、多様化を必要とする条件やプロジェクト/ビルディング・タイプとは何か、また、そもそも建築設計(デザイン)とはどの領域を指すのか等、数多い。一方、こうした議論を進めるためには、多様化推進の原動力となった品確法14条・ガイドラインの内容について、建築という立場での読解が不可欠である。土木分野を中心に発想された公共工事の入札契約方式の多様化はどこまで建築に展開可能か、また受発注者間のリスクや責任の布置から見た場合、設計施工一括方式やECI(Early Contract Initiative)方式は果たして「方式」といえるのかといった論点について、共通理解を深めたい。

 

斎藤:みなさんこんにちは、A-Forum代表をしております斎藤でございます。A-Forumは二年ほど前に発足しまして、皆様に活発に利用していただいています。ありがとうございます。平成28年2月9日には、このAF=Forum主催でアーキテクト/ビルダー研究会のキックオフのフォーラムを開催しましたが、布野先生、安藤先生はじめ大変盛り上がりました。フォーラムを持って研究会を発足しようということで、今日はその第2回の研究会となりました。だいぶ伸びやかなスペースなので、飲みながら自由に討論できればと思います。よろしくお願い致します。

 

安藤:斎藤先生に紹介していただいた通り、このシリーズの研究会としては第2回となります。布野先生と私は定年になったらアーキテクチュラルフォーラム(AF)っていうのをやりましょうねと話をしていたのですけれども、斎藤先生のA-Forumという地でこの形で発足できることとなって大変嬉しく思っております。布野先生と私の研究会ですから、やっぱりものづくりに近いものにしていきたいと思っています。建築設計・コンセプチュアル・施工に近いテーマを扱いたい。名前は、布野先生のこだわりでもあるアーキテクト・ビルダーという言葉を使って“アーキテクト「・」ビルダー”ではなく、“アーキテクト「&/or」 ビルダー”研究会ということで、A-Forumの活動の一環としてスタートしようとしています。
いずれは町場のことも扱っていきたいと思っていますけれども、とりあえずデザインビルドをテーマとしてスタートしたいと思っています。

安藤正雄

安藤正雄

安藤:第一回目はデザインビルドということと絡め、新国立競技場の話を題材に取り上げて議論をしました。今回はりさらに深めて議論するために、二人のパネリストをお呼びしております。一回目の議論で明らかになったことですが、結局は発注者の機能不全ということが第一に大きい。それから、リスクとか契約の責任というところに日本は理解がない、という問題がある。多様な発注契約方法と言いながら、設計施工一括に他ならないとか、外形的なところばかり、欧米のデザインビルドとかをあてはめようとしているようだけど、社会的には重要視されていないとか、いろいろな問題がある。

まずは京都大学の古阪先生にお話ししていただきたいと思いますけれども、古阪先生は、実は新国立競技場のザハ案撤回についての検証委員会で中心的な役割をされており、その報告書が出されておりますのでご興味のある方はフォローして頂ければよいと思います。「設計施工一括方式」が東京都のオリンピック関連施設について問題となっていますが、そのことについて、また、土木と建築でどう違うのかということについてお願いしております。第1回目に、深尾精一先生から、「設計施工一括は土木が主導しているからだ」という発言がありましたが、その点について解説して頂ければと思います。広島大学の平野吉信先生も本日お見えですが、日本建築学会の発注契約ワーキングで、設計施工一括方式について明日議論をすることになっています。平野先生にも発言をよろしくお願い致します。

それから建築家の立場からということで、山下設計特別顧問の森先生にお話していただきます。第一回のときに斎藤先生も私も用意したのですが、森先生のお作りになった図表を十分に説明・理解することができなかったので、今日は改めてお話いただこうと思っています。森先生は日本建築学会の副会長そして日本建築家協会JIAの副会長も務められ、設計施工一括方式あるいは約款にからむ問題について広い立場から公の場に出られておられますが、本日は、建築家一個人の立場でお話をしていただくようにお願いしております。

それぞれ30分くらいお話をいただきます。そしてさらに、集工舎代表の近角さんにもデザインビルドについてコメントをお願いしております。そのあと議論の時間があると思いますので、活発な議論の場にできればと思います。

 

「建設プロジェクトの実施方式―土木と建築の違い―」(古阪秀三)

古阪:ただいまご紹介いただきました古阪です。今日の注文は、建築と土木の違いというところを簡単に話してもらいたいとのことでした。

古阪秀三

古阪秀三

お手元にお配りした資料は2001年のものです。この時代から発注についてはかなり変わってきましたが、性格的にはあまり変わっていないというところを見ていただければと思います。当時、建築学会の雑誌と、土木の雑誌に全く同じ記事を書かせていただきました(配布資料:土木と建築の違い-建設マネジメント)。

まず土木と建築の違いということなんですが、その前提というところも含めてお話しします。基本的にはいろんな発注方式のこと、最後に、新国立のことでは技術提案・交渉方式を使おうとして大失敗したのはなんで?ということを話します。多様な入札契約方式モデル事業は、国交省の土地・建設産業局でやっています。もともと地方公共団体の土木工事が多かったんですが、現在は建築工事を主体に「私のところで変わったやり方でやりたい」ということで手を挙げると、モデルとなる地方公共団体とその事業を国交省が選んで、その事業を支援する組織をプロポーザルで募集してやらせるという施策です。後ほど一部紹介します。最後に設計と施工の関係の変遷はどのようになっているかを若干紹介して私の務めを果たしたいと思います。

これまで一貫して設計と施工の連携とか民間工事について考えて来ました。学位論文は1987年で、集合住宅を対象に建築プロジェクトの最適化の支援方法について書いたのですが、土木の先生から建築プロジェクト全般を対象にすると批判がいっぱい出て大変だから、たぶん集合住宅くらいでこぢんまりした方がいいよというアドバイスを受けて、集合住宅の最適化というテーマにしたんです。1990年に、設計と施工の統合に向けた予備的検討に関する論文で奨励賞、1999年には設計と施工の統合に関する研究ということで学会賞をいただきました。

最近の研究は、「建築プロジェクトの実施方式とマネジメントに関する国際比較研究」「日中韓の建設産業における法制度と品質確保のしくみに関する比較研究」などです。続いて同じようなタイトルですけれども「建設プロジェクトの発注・契約方式と品質確保のしくみに関する国際比較」ということで、日本・中国・韓国・台湾・シンガポール・アメリカ・イギリスの比較を行っています。今日お見えの平野先生、安藤先生、浦江先生もメンバーでやっていただいているプロジェクトです。

社会的な活動でいうと、日本CM協会を2001年6月に立ち上げました。初代会長として結構苦労しました。苦労話しをすると皆さんびっくりされると思うのでしませんけれども。現在は、民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款委員会の委員長を2013年よりしております。それから国交省総合評価の活用・改善等による品質確保に関する懇談会委員。これは土木の技調が事務局をしているもので、様々な発注方式、とりわけ総合評価落札方式の推進について、土木系の工事を中心に検討しているもので、委員会の中で建築的な立場から議論に参加しています。さきほど安藤先生からご紹介いただいた新国立競技場の白紙撤回の検証委員会にも参加しました。それから最後に、名古屋城天守閣整備計画も技術提案・交渉方式でやろうとことになったので、審査員になりましたが、その後熊本の震災があったにも関わらず強行突破的に進めようとしたので、辞任しました。

 

建設投資における土木と建築

資料(図-1)は建設投資に関する統計(2014年度)です。資料の中で、民間と政府の建設投資の割合は、54.2%:45.8%になっています。また、全体の投資額の中で民間土木は9%、政府系土木は40.6%を占めます。建築は民間が中心で、政府系の建築というのはわずか5%しかありません。

図-1

図-1

図-2

図-2

結局何が言えるかといいますと、図-2の折れ線が建築工事の割合となりますが、大雑把に言うと建築工事の割合は民間工事の推移とほぼ同じ割合となっているということです。建築投資の割合は、輝かしきバブルの頃は50%を超えていました。土木は逆でした。特に公共工事の場合でいうと建築と土木は1:10の割合でした。

 

公共事業の発注方式

公共工事における様々な発注方式の研究は技術調査課の担当ですが、土木系の発注の方法が中心です。建築営繕も参加しますが、なかなか発言権がないようです。建築の営繕は、民間の発注には関係ないわけですから、官庁施設のお守役でしかない、発注方式を検討するにはなかなか至らない、そういう状況があります。

①発注者・設計者・施工者の関係

土木にも設計はありますが、土木コンサルタントに設計を委託し、それを買い取るものです。政府側である発注者は設計の責任も持って施工者と二者間契約を結びます。建築は設計が独立してあり、建築士法や建築基準法の下で契約を結ぶので、発注者、設計者、施工者の三者の関係になります。土木に設計の資格があるか?というと技術士以外の資格はありません。発注者は技術士を持っている人間に経験はあるのか?という質問を投げ、経験の度合いで設計を任せるかを判断します。土木の場合は技術調査課で決めるさまざまな発注方式が前提ですので、設計者ではなく発注者が責任をもちます。設計を外に出すということをやろうとするケースもありましたが、そのリスク、責任の取り方の問題から設計施工一括方式でやる方向は弱まり、今は技術提案・交渉方式の下での選択肢の一つになっています。詳しくはあとでお話します。

本省土木の場合、設計を外部委託し、それを買い取って国の設計にします。そうしますと、設計責任は内部になります。一方、設計を外部に出すと、その瞬間に法的な責任は設計者が持つことになります。そうすると、何かあったときにどこまで設計者は責任を取るのかという議論になります。あとで触れますが、土木の技術提案・交渉方式の場合は、どこまで設計者が責任をとるのか、発注側の責任がどこまであるのかということを必ず契約書に書きます。そういうところが土木と建築は圧倒的に違います。

②設計関係の法・契約体系

土木では設計関係の法律は特にないので、発注者が自由に決めればいいということになっています。同じ川にかかる鉄橋でも、発注者によって全然違う。やじろべえ型の橋も、トラスの橋も出てくるわけです。

③指定仮設と任意仮設

土木の場合は全て指定仮設です。工期も含めて発注者が決めてその通りやっていきます。もちろん、最近では任意仮設もありますが。建築の場合はすべて任意仮設ですので、建設会社は上手くやれば儲かるし、下手にやれば失敗する可能性があります。例えば、様々な地下鉄工事がありますが、土木で請けるか建築で請けるかで仮設の違いが如実に出てきます。

④設計図書の位置

建築工事の場合は数量書を契約の一部にしようという動きが出ていますが、あくまでも参考資料として扱われます。土木は始めから数量書が契約図書の一部になっています。

⑤専門工事業者の重層構造

土木の場合の専門工事業者は材工共であって、型枠工と言ったら型枠工事、コンクリート工と言ったらコンクリート工事、労務と材料が全て一体になっています。建築工事で型枠工といえば型枠大工のことで、工事のことではありません。そして材料等が細かく分かれているものと材工共といったものが混在しています。ですから、20〜30億円の工事だと建築の場合は契約相手が150〜200社、土木の場合は15〜20社くらいと、サイズが大幅に異なってきます。土木には重層下請構造というのがほとんどありませんが、建築の場合は受注調整もありますし、重層下請構造が一般的です。設備については、ゼネコンは、設備専門の技術者を雇い現場を管理しますが、設計はほぼ外注になっています。

⑥契約自由の原則・公契約の縛り

土木は主として民間工事ではなく公共工事です。ですので、予定価額よりも高い価額ではダメですし、ある限度以下の安値でも無理です。建築は民間が圧倒的に多い。民間工事でいうと、発注者がゼネコンに、地位や立場を使って安値や無理な工期を要求することもあります。しかしそれは建設業法違反です。一方で、どんなに安値であったり、工期が短くとも、競争入札にして、安値や短工期でも応札してくるところと契約することは、契約自由の原則により許されるのです。建築と土木にはこのように違いがありますし、業法上の問題と契約責任とはかなり違ってきます。この限りでは、土木の発注方式の方がまともだと言えます。

⑦施工条件明示

発注者が工事を出す時に、設計図書や現場説明がありますが、土木ではかなり細かく施工条件を決めており、30年以上前から施工条件明示が実施されています。それに対して建築は、施工条件明示する努力はしていますが未だに出来ていません。地盤状況の悪さ等は建築でも契約以前に明示すべき項目はありますし、発注者は施工者に競争させる項目かどうかをきちんと区別する必要があります。建築に施工条件明示がないというのは様々な問題を抱えていることになります。

⑧設計変更等

建築の場合は基本的には公共工事において設計変更は認められないことが多い。むしろ地方公共団体の方が設計変更はやりやすい。土木の場合は発注者が数量書も契約図書の一部としているため、数量や施工計画の間違いは全て設計変更により対応できるんです。

 

国土交通省における事業段階と調達の範囲

土木は発注者と施工者の二者間契約ですから、施工者が契約を結ぶために行き過ぎた行動をして、過去には問題を起こすこともあった。だから、色々な発注方式を採用して、施工者にさまざまな競争状態を作りだすことで、行き過ぎた行動などの防止策にもなっていると考えると理解しやすいです。建築の場合は、設計者が独立して存在していることに意味があるといえます。公共工事の入札契約方式の適用に関するガイドラインの中に、国土交通省における事業段階と調達の範囲の例(図-3)があります。土木の例ですので、概略設計・予備設計・詳細設計と土木用語が出てきております。

図-3

図-3

①工事の施工のみを発注する方式。
これは今までよく行っていた方式で、発注者は詳細設計が完了するまでを行い、施工者には工事の施工のみを任せます。

②設計・施工一括発注方式。
発注者が工事の予算取りのために若干の計画設計をし、そのあと一括で施工者に任せますので、施工者は予備設計から取りかかる方式です。

③詳細設計付工事発注方式。
発注者が予備設計までして、施工者は詳細設計から取りかかる方式です。

④施工者に設計段階での技術協力を調達する方式
いわゆるECI方式です。国立競技場は技術提案・交渉方式と言いながら、全く工事の前例がないためにある時期からECIと言い出して、言っている方も言われている方もECIがわかっていないからとんでもないことになった。ECI方式は施工者を設計段階の早期より参加させる方式です。例えばですが、日本の民間工事で工事を特命で出す場合、特命を受けた施工者はいつの時期からでも発注者や設計者に対して技術協力をします。これがわかり易い日本的ECIです。違いは契約をするか否か、対価が有償か無償かであり、一見さんの発注者には施工者は協力的にはならないですし費用面でも吊り上がります。つまり発注者に力があるかどうかが一番重要なところです。土木は公共工事ですので、“よろしく頼むな”の一言はありえないことですので難しい方式です。契約方法の入念な研究が必要です。

⑤維持管理付工事発注方式
施工者に維持管理業務を付けた発注方式です。トンネルの天井が老朽化のために剥がれたり事故が起こりだして問題になったために出来た方式です。

 

国土交通省における技術提案・交渉方式

以上のようなさまざま方式から選択して、2014年に国土交通省が技術提案・交渉方式のガイドラインを作りました。資料(図-4)は2015年の6月の改正版です。

図-4

図-4

設計・施工一括発注方式、ECI方式、分離発注方式のこの3つの方式を採用しましょうとなりましたが、土木工事には曖昧すぎて採用出来ませんでした。そして、さらに詳細を詰めたものが出来ました。(図-5)

図-5

図-5

要は施工者をどこからどういう形で参入させるかの違いです。設計・施工一括タイプは早い段階から施工者を参入させます。契約を結ぶのは設計・施工の時点です。ですから、施工者は設計・施工に対する責任を負います。技術協力・施工タイプは技術協力・見積り前に契約を結びます。そして施工の段階でもう一度契約を結びなおします。つまり二段階の契約になります。設計者は設計に対する責任を負い、施工者は技術協力と施工に対する責任を負います。設計交渉・施工タイプも技術協力・施工タイプと同じ段階での契約となりますが、設計者がおりませんので、施工者は設計及び施工に対する責任を負います。このように、契約タイプにより設計者の責任と施工者の責任が変わります。ここがキーポイントになっております。留意事項に、“必要に応じて建設コンサルタントの活用等により、発注者側の体制を補完する。”とありますが、これは設計時のさまざまで大きな責任はコンサルタントに任せて発注者が引き取り、それ以外の設計は施工者側に任せます、という意味です。土木はダムなどの大規模なものだと工事費も大きくなりますので、この一文が重要になります。

では、三つの方式をどう選ぶかが資料図-6です。公示段階で仕様が確定し、技術提案に左右されることなく工事目的が達成できる工事は総合評価落札方式や価格競争方式になります。それ以外の場合は技術提案・交渉方式になります。その中で、公示段階で仕様の前提となる条件がさほど不確定でない場合は、設計・施工一括タイプでやります。前提となる条件が不確定で、設計の品質確保又は効率的な設計に施工者による設計が必要ない場合は技術協力・施工タイプでやります。同じく前提となる条件が不確定で、設計の品質確保又は効率的な設計に施工者による設計が必要な場合は設計交渉・施工タイプでやります。

図-6

図-6

 

建築プロジェクトへの適用

結局、これらの方式を建築工事ではどうやって導入するかですが、この資料(図-7)の方法/方式については、発注者・設計者・施工者の契約関係、契約図書の密度、設計責任の範囲、監督/監理の関わり方、仮設の決定方法、下請契約の多寡など、土木と建築とではさまざまな違いがあります。ですので、建築を土木と同じような発注方式で考えるには無理があります。そう言った意味で建築、とりわけ公共建築ではこれらの発注契約方式の採用には十分な研究が必要だと思います。

図-7

図-7

 

技術提案・交渉方式―新ガイドライン

2014年にガイドラインが出てから2年経って初めて採用されたのが近畿地方整備局の国道2号淀川大橋床版取替工事です。これらは2016年4月に記者発表された時の資料(図-8,9,10)です。設計交渉・施工タイプはまだ検討中であります。興味を持って私も見ております。

 

図-8

図-8

図-9

図-9

図-10

図-10

新国立競技場における技術提案・交渉方式(建築)

この資料(図-11)は新国立競技場ですが、簡単に申しますと、技術提案・交渉方式で進めようとしました。大事なことは実施設計がどの段階で、施工者を選定したのかですが、2014年10月末にプロポーサルで大成建設と竹中工務店が選定され、この時点で既に実施設計は進んでおります。大臣認定などが降りたところでした。問題としては、大臣認定が降りている段階では技術協力といっても構造的なことを提案することは出来ません。また、公共工事ですので予定価格を施工者に見せてはいけませんし、詳細図面を渡すこともできません。技術協力といっても協力出来ないジレンマがたくさんありました。積算に関しても、有名になったキールアーチですが、設計者は平均的な単価で見積もりをしますが、施工者側は本当に工事を請け負うわけですし、実際に工事をしてくれる相手方を決め、具体的な施工計画を立て、詳細に工事費を出したいわけですが情報が出てこない。しかも、東京は70%の確率で30年以内に直下型地震が起こるとされていますし、簡単に行くはずがない。技術提案・交渉方式は、土木ですら今年(2016年)の4月に第1号が始まったわけで、当時の国交省営繕課はこれらの問題を検討したが、解くべき課題が複雑すぎるとの判断で踏み込み改善するつもりはありませんでした。新国立競技場の技術提案・交渉方式には無理があったと思います。

図-11

図-11

 

多様な入札契約方式モデル事業

先程、土地・建設産業局で色々な入札契約方式を実施するといいました。多様な入札契約方式モデル事業の概要(図-12)とは、多様な入札契約方式の導入・活用を促進するために、国土交通省が、地方公共団体の中で新しく取り組む建設事業に適切な入札契約方式を採用したいと手を挙げる地方公共団体とその事業を選んで、さらに、その事業を支援者する組織をプロポーザルで募集・選定して当該地方公共団体を支援させるというものです。こうして選ばれた地方公共団体と専門的知見を有する支援事業者は共同して、具体的な発注方式や工事の分割の仕方、設計との連携をどうするかなどの発注条件を決めます。この事業の実施事例と資料は国土交通省のHPにも載っています。経緯も書いてありますし参考になると思います。

http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk1_000102.html

図-12

図-12

このモデル事業の最初は、雪害対策、公共下水道など土木が多かったのですが、2015年・2016年と建築が続いております。その中で主として使われた発注方式は、昨年は完全ではないですがECI方式、今年はCM方式です。このモデル事業の成果の一つは、地方公共団体が多様な入札契約方式の中から適切なもの選ぶのに、支援事業者に頼ることが重要だと分かります。CM会社やPM会社だけでなく、設計事務所でも設計とは別にどういうサポートができるかを考えますと、支援事業者としてトレーニングを積まれると仕事のチャンスも広がるのではないかと思います。

発注方式の多様化についての私の考えは、次のようなことです。

①専門分化・分業化には、一方で全体を統合する理念と役割が必要であります。

それが、CM一つで良いということではなくて設計と施工の連携もそうですし、もう少し違う業務での連携でもそうです。

②発注・契約方式ごとに、建築主のみならずプロジェクトに関係する主体のR(risk)&R(responsibility)の移転/配分方法が明確に規定された契約約款の整備。

責任とか役割を日本人は相互依存とか相互信頼の中でやっていますが、それだと段々とずるい人間が勝つようになります。そのずるさをセーブするためには、きちんと契約で決めるかリスクを開示した上で進めるかが必要になってきます。全てを明確にするような視点を持った契約約款はもっと作らないといけません。民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款委員会の委員長の立場から言うと悩ましいことですが、色々な方々と一緒になって変えていかなくてはなりません。

建築主・受託側双方にとって、多様な建築プロジェクトの発注・契約方式の選択肢をデザインすることが必要です。方式の良し悪しではなく、色々な選択肢を作った上で発注者が選ぶ、選べなかったらサポートするコンサルが必要となる形作りが必要だと思います。ここにいらっしゃる平野さん、安藤さんとイギリスのディベロップメントマネジメントで全体の統括をする方にあったことがありますが、そのプロジェクトは確か総額200億円位でしたが、フィーが2%でした。2年前の話しですが、ロンドンは再開発のところだけロンドンバブルです。急に出てきたビジネスモデルです。後ほど質疑はお受け致しますけれども、これで終わりにします。

 

安藤:議論は後回しとしまして、いまの古阪先生のお話しの中で、もし分かりにくいところがありましたら、それに関しての質問だけ受け付けたいと思います。よろしいですか。古阪先生ありがとうございました。それでは森さん、よろしくお願いいたします。

 

建築家からみた設計施工一括方式 (森 暢郎)

:森でございます。よろしくお願いいたします。古阪先生・平野先生とは「五会」[1]の多様な発注方式の研究会でご一緒していて、精緻なアカデミックなお話がないといけないのはわかっていますが、今日は、ラフなお話でお許しいただきたいと思います。

森 暢郎

森 暢郎

 

建築界の現況

古阪先生と同じの図(図-14(図1))を使いたいと思います。何故この図を使いたかったかというと、建築は民間中心ということを示すためです。25.9兆円の建築の内、住宅が15.4兆円で全体の中の約3割を占めています。民間の非住宅は8.8兆円、公共の非住宅は1.7兆円ですから、合わせて10.5兆円が非住宅で、今回のテーマの多様な発注方式に関わってきます。住宅にはマンションも入っていますから、それを非住宅と合わせると12兆から13兆円、つまり建設投資の約1/4くらいが、今日の議論の対象になります。

図-14

図-14

先ほど、古阪先生から話があったように公共工事は土木が約9割という非常に大きい市場で、住宅を外すと非住宅建築の倍以上で、土木主体になっていることがよくわかります。このことから国の制度設計が土木中心で策定されているのです。もう一つ申し上げたいのが、この図(図-15)からもわかりますが最近は改修が増えているということです。

図-15

図-15

また、国土交通省の大手ゼネコンの経営に関する展望(図-16)では、大手ゼネコンが新たな事業領域への参画として、設計施工一貫を推進するということをはっきり言っています。

図-16

図-16

もう一つは、利益率の問題があります。儲けることはビジネスとして当然のことです。国交省の資料(図-17)によると、利益率が向上しています。まだ利益率が全産業平均値より下回っていますが、そろそろ利益の一部を下請重層構造の改善に使う必要があると思います。

図-17

図-17

最近の新聞記事にあった日建連の生産性向上推進要綱の抜粋(図-18)を見てわかるように、はっきりと「産業構造と生産方式」「土木分野」「建築分野」の三分野で、アクションプランが立てられていて、建築分野での設計施工一貫方式を促進する期間が2016年から5年間と目標設定されています。会員約100社の3割くらいが日建連の建築設計委員会に属していると聞いたことがありますが、その参加会社が設計施工を推進していることになっています。

図-18

図-18

次に業務モデルの違いを図(図-19)に示します。建築家・専業設計者とゼネコン・ハウスメーカーとはお互いに協働しますが、利益相反の関係になります。建築家がフィービジネスなのに対して、ゼネコンとハウスメーカーは利潤追求するビジネスで、企業活動として当然です。ただ、大手ハウスメーカーの業態は多様で、ファイナンスから不動産事業まで広げています。建設業所属の設計者とは、設計能力と言うより、どういう立ち位置かというところで、違いが生まれています。

図-19

図-19

これから、建築設計界も変わってくることで需要も変わってくると思っています。この図(図-20)に変化の要点をまとめました。

図-20

図-20

 

多様な発注方式の実情

建築生産のあり方の変容(図-21)を個別に見ていくと、様々な動きになっています。建築の質を確保するには、知識の統合化が大事になってくるということと、契約方式の多様化に対して、どのように対応していくかということがポイントになってくると考えます。

図-21

図-21

申し上げるまでもないことですが、伝統的に設計施工分離方式と設計施工一貫方式がある中で、最近になって多様な発注方式の採用が増えてきています。特に地方自治体で目立つのはゼネコン単独実施設計・施工のワンパッケージではないかと思っています(図‐22)。

図-22

図-22

発注方式の分類(図-23)ですが、分離と一貫があって、その間にいろいろな方式が入っているということです。設計施工分離方式と一貫方式は、設計と施工を分けるかどうか、生産の仕組みの問題で、一方の多様な設計施工一括方式は、むしろ契約のあり方による分類になるのではないか。施工予定者技術協議方式(ECI方式)は、契約の形態にも係わってくるものですが、設計施工分離方式の変形版と言えるでしょう。設計施工一括方式(デザインビルド)のタイプ別を説明します。コンソーシアム型は、基本設計から専業設計者と施工者(ゼネコン)が組んでいるものです。実施設計共同型は、基本設計者がいますが、実設計以降において、その専業の基本設計者と施工者(ゼネコン)が組んでいるもの。実施設計分断型は実施設計が分断されているもののことで、基本設計者と異なる専業設計者が、実施設計を施工者と共同するタイプです。実施設計ゼネコン単独型は専業設計者による基本設計後、実施設計以降をゼネコンが単独で担当するタイプのものです。専業設計者が監修あるいは監理しているか、全くノータッチか、によってパターンが増えますので、この分類は、専業設計者の設計の係わり方による分類になります。類似型では、運営まで入っているDBO方式などがあります。

図-23

図-23

 

公共建築事業発注方式の変化

最近の半年間における公共建築の発注方式の実態(図-24)においては、昨年末から約半年間の業界紙から集計したもので、次のような傾向があります。

図-24

図-24

このなかで実施設計分断型の実例として、設計関係者には不思議に思われるでしょうが、このリストで2つの事例があり、ひとつが港区の資料館です。基本設計は日本設計で実施設計は大成建設と香山壽夫先生のチームでやっています。もう一つには大崎市の病院がありますが、基本設計は私ども山下設計で、実施設計は久米設計と戸田建設が担当しています。分断型は最初から分断で基本設計者は参加してはいけないとなっています。実施設計共同型では、基本設計者と組んでもいいとなっているが、施工会社の入札金額によって基本設計者のチームが外れてしまう可能性があります。また実施設計ゼネコン単独型というのは、意外と病院とか庁舎が多いです。ECI型についても病院とか庁舎がありますが、まだ工事が終わってないものが多いです。ゼネコン単独型の病院や庁舎については、多種多様な関係者と幾重にも丁寧な打ち合わせ、住民とのワークショップなど、手間暇と掛けることが多いはずの用途なのに、建築の質が低下しないか、気になります。また、DBO方式には、焼却場のような装置中心の割切ってやられているものが多いです。

公共建築事業発注方式の変化(図-25)ですが、もともと土木は公共の仕事だし、建築もかつては公共発注者の中に設計部門があり、ちゃんと発注権限を持って直営でやっていました。それが戦後復興の目途が付く頃、昭和20年代後半あたりからか、民間の力を借りるようになったので、1959年1月に土木工事の設計施工分離の通達が公示されました。しかしそれは1995年6月に廃止(1994年6月の設計施工分離の趣旨規定は現在も残る)されています。公共建築事業もこれに倣っていますが、現在も国交省の建築事業は設計施工分離が原則です。

2005年には公共工事品質確保の促進に関する法律ができ、2014年6月には、改正品確法になっています。

図-25

図-25

多様な発注方式の動き(図-26)について、2005年の品確法を境に、取り組みがはっきり明記されるようになっています。

図-26

図-26

2005年9月の「国土交通省直轄工事における品質確保推進ガイドライン」、これを品確法と略しますが、このガイドラインに設計・施工一括発注方式のことが、新たな取組のひとつとして参考記載されています。この取組には、施工段階での競争性を確保する必要性等から、基本的には設計と施工は分離して発注されるが、高度な技術提案を求める場合の発注方式として設計と施工を同一の実施者によって実施する仕組みを検討する、となっていた。ガイドラインが出されたのですが、設計団体が即反応しなかったのは、土木事業の検討課題で、それも参考という位置づけだったからだ、と思います。その後、事例が出始めたからか、2007年9月に設計三会(JIA、士会連合会、日事連)は、先ほどの「同一」の実施者というのが「同一法人」のことでは困るという申し入れを国交省にします。それで、発注の基本的条件が曖昧であると困りますので、基本計画などをちゃんと作って発注する前提で専業設計者と施工者が分担して責任をとる契約方式、現在のコンソーシアム型を提案しています。これが申し入れの要点(図-27)です。

図-27

図-27

その後、国交省土木分野では、設計施工一括方式の導入に当たってのメリットデメリットなどが検討されていました。この資料(図-28)はその一例の抜粋です。

図-28

図-28

品確法の改正時には、入札契約方式が多種多様なものになっていっていました。多様な入札契約方式として、事業プロセスの対象範囲に応じた契約方式には、7つのタイプが出てきました。また、工事発注単位に応じた契約方式(包括発注、複数年契約)も示され、発注関係事務に応じた契約方式としてCMを入れてもいいとなっています。この図(図-29)にあるように、事業特性に応じて4つの方式(契約方式・入札方式・落札者選定方式・支払い方式)から最適な組み合わせをすることが求められています。

図-29

図-29

土木だから、おそらくできるのでしょう。この国交省作成の図表(図-30)は、土木の事例でプロジェクトタイプ別の組み合わせ事例です。

図-30

図-30

同様にこの図表(図-31)には、方式選択の基準として、リスクの問題と、民間技術力活用の自由度が示されています。一括だと早くから民間活力は使えますが、潜在的なリスクは大きくなると言っています。他方で、分離だと民間活力は設計段階から使えないけれども、リスクは少ないと識別されています。方式の選択にあたって発注者の判断が求められているもので、土木は明快なので一括を採用しやすいと思いますが、建築では土木と特性が違っていて、一括の採用に慎重な対応が必要です。

図-31

図-31

 

品確法の課題

土木事業では、発注者側に技術者を擁してあくまで発注者が責任をもって発注していること(直営工事)、工種が限定的で積算内訳も複雑でないこと、積算単価が明快であること、施工実数による精算もあり、近年では標準設計型事業が多いため、設計施工一括の発注方式は土木事業特性には適しているかもしれません。一方の建築事業においては事業特性が異なり、デザイン性・創造性のように数値化できないものがあり、適するものではありません。なのに、公共事業の発注者は安直に設計施工一括に飛びついているのではないか、と思っています。

土木との違い(図-32)をまとめてみました。土木は数値的に評価できるものが多いが、建築はプロジェクトタイプが多種多様でステークホルダーも多く、評価基準が複雑で建築に採用するのが難しい。それゆえ、土木語で策定された品確法を建築語で翻訳する課題があります。

図-32

図-32

建築の質のあり方(図-33)を整理しました。建築は、一品生産であり、創造性(プログラム、デザイン、技術、コスト)、社会性や文化性が求められ、設計行為としては摺り合わせ型が主流になります。この特性から、今日の多様な発注方式について懸念するところがあります。

多様な入札契約方式の採用が公共建築でも実施され、民間の力を積極的に取り入れること、設計時点で施工各社の新技術を活用することが行われていますが、ただ、品質確保についてちゃんと発注者の疑念を払拭できるか、私たち設計者が設計の質について、施工者が施工の質について、発注者にしっかり応えていかなければいけないと思っています。そういったときに、設計の質、施工の質と言っていますが質とはなんだと思われるかもしれません。非常に曖昧な言葉でありますが今日はお許しいただくしかありません。

図-33

図-33

この図(図-34)で示しますが、公共建築事業の原則は、長期的に利用できる質の高い社会資産を適正価格・工期で効果的に創ることと私たちは思っています。もう一つは、貴重な税金を使う事業なので、きちんと説明責任を果たせなければならない。そして透明性、公平性も求められます。それゆえ、設計施工分離方式となっているのです。

図-34

図-34

地方自治体においては、設計施工一括方式を導入していていますが、その主な理由(図-35)を示します。多分、7つだけではありません。

図-35

図-35

民間の設計施工一貫方式の原型は、もともとのことを振り返ると、大旦那(パトロン)と作り手側棟梁(職人集団)にはしっかりした信頼関係があって、大旦那側は、目利きで審美眼があり、よくわかっていて、きちんと出すべきお金は出し、作り手の職人の腕を鍛え、品質にこだわりを持ってやってきました。作り手側についても、生真面目にものづくりにこだわりを持ってやっていました。良き時代に戻れと言っているのではなく、発注者の振る舞い、受注者の振る舞い、今で言うそれぞれの責務について学ぶべきことがあります。

民間の設計施工一貫方式も変化してきています。特命契約だったのが、複数社の見積合せに変わってきているし、発注者は設計監修・工事監理を別法人発注し、発注者支援を外部委託したりしています。海外のデザインアーキテクトを採用したり、建築家との共同設計としたりしています。工事もJVになり、民間も変わってきている。

民間の設計施工分離方式も変化しています。設計も海外のデザインアーキテクトが入ったり、建築構造設備の分割委託だったりと変わってきています。工事費縮減のため、実施設計初期段階において施工者の概算見積とVE提案を受けることもありますが、現在、多くが結構ハードな交渉となっています。私の限られた経験ですが、施工者によるVE案では、構造の提案が多く、プランやデザインの変更提案を積極的にしないようにしているかなという感じです。

 

設計施工一括方式の実態

ゼネコンの近年の実態をまとめたメモ(図-36 )がこれです。一次下請けに専門技術が移り、ものづくりが変わっているように思います。品質管理能力や施工リスク予知能力が低下していることもあり、ゼネコンのトップはものづくりを戻そうと社員教育を変え始めるという動きもあります。公共工事の不調不落もありますが、これは一部発注者側の問題だとも思っています。民間工事の発注者が困っているのは、将来資材高騰分の上乗せがあることで、設計者と一緒にそれの調整をしなければならないということです。

図-36

図-36

また、一方的な施工者批判にならによう、設計者に対しての不満も耳にすることがあり、自戒を込めて話します。発注者からは、発注者ニーズの理解不足、設計責任の曖昧さなどであり、概算能力やコスト調整力の不足、加えて監理段階での度を越す設計変更があります。設計者は発注者に説明しながら、設計や設計変更を行っていると思っていますが、発注者側からすると不満に思うところがあるようです。また、施工者からは、設計図書の不整合と完成度です。この完成度はもともとゼネコンのある程度の調達自由度を残して設計図書を作成しますから、完成していない部分があり曖昧と言われると困ります。

 

官民を問わず発注者が変わりました。発注者が求めることは、デザイン・品質・コスト・事業工程です。現在、多くのところで求められるのは「より良いものを、より安く、より早く」でしょう。しかし「より安く、より早く」だけが優先されることがあり、これはゼネコンの得意技なのかなと思うこともありますが、「より良いもの」については、建築家の仕事であると思うのでちゃんと提案していかなければならない。設計段階での施工技術の採用に対して可能性があるのは、建築家主導のコンソーシアム型、実施設計共同型であり、ECIという交渉方式には実効性が高いと考えています。ECI方式の技術提案者はゼネコンだけじゃない、設備サブコンや建築の専門工事もあるよ、ということを申し上げたいと思います。

 

この資料(図-37)は、私が知り得たところの民間発注の最近の傾向です。ただ、誤認があるかもしれませんが、ご覧ください。オフィスの発注者としての生保・損保・銀行系不動産について付け加えますと、割と設計施工分離型が多いですが、生保によっては、自社単独の場合は設計施工一貫、共同事業者がいる場合は分離にするというような使い分けがあります。商業施設は、ほとんどが実施設計・施工一括、あるいはデザインアーキテクト参加の設計施工一貫が大半で、物流施設はほぼ設計施工一貫です。高層マンションではデザインアーキテクト(外装とロビーのデザイン)が入る場合が多く、設計施工一貫がほとんどです。その理由としては発注者がゼネコンの構工法特許を設計当初から採用して工事費圧縮を考えているからです。

図-37

図-37

発注者からの設計施工一括方式の問題点は、利益確保重視の生産設計が優先になっているのではないか、自分たちの期待する品質が達成されていないのではないかという危惧を持っていることです。設計者も同じ思いです。その解消に施工者は、価格と品質について分離方式で実施する積算精度を確保して発注者等に説明していく必要があるのではないか、オープンブック化ということです。

ここで、私が描く設計施工一括方式の最悪なシナリオは、発注者側のあり方として発注者に専門家がいないこと、基本構想・基本計画の策定ができていないこと、発注条件として工事費削減や工期短縮、さらにVE付き概算入札、精算がないこと、などが揃うことです。そして発注方式が実施設計ゼネコン単独型やゼネコン一貫型などが採用されている場合です。施工主導コンソーシアム型の採用も要注意です。結果、安値受注になってしまうし、VEと称する仕様変更が問題で、受注者が事業リスクを負うことになる。これは、建築の質を落としてしまう最悪じゃないかなと思っています。

 

先の例からもわかるように、この資料は設計施工一括方式の課題(図-38)をまとめたものです。まずは、質の問題をどうするか。関係者が担うべき役割や責任および受発注者双方の適切なリスク分担を土木では行っていますが、建築でも考えなければいけないところです。設計業務範囲の線引きと責任の課題があり、どのレベルで責任を負うか線引きが必要で、監理の問題や業務報酬の問題にも波及します。工事発注と工事費のあり方では、概算発注はどこまでちゃんとできるのか、実施設計が終わったあとや設計変更において、どこまで精算ができるのか、というところを考える必要がある。発注者の体制の課題では、発注者に知識のある人がいないのであれば、支援等の仕組みが必要なんじゃないか、地方の設計事務所・地方のゼネコンに与える影響についても配慮すべきではないかと思っています。

図-38

図-38

 

設計施工一括方式の実効性を高めるための論点(図-39)をまとめました。以下のことが考えられると思っています。一つ目が設計行為の分断をなくすこと、設計意図の一貫性(監理も含む)を確保することが必要なのです。二つ目は高度な施工技術の設計時採用の必要性、どのような技術提案を求めるか、どれを選ぶかのタイミングは重要です。三つ目は建物用途別で適切なタイプを考えていく必要もあること、四つ目が設計と工事を別契約にすることです。五つ目が設計者クレジットの問題です。デザイン、プラン、建物性能など重要な設計内容を決める基本設計者のクレジットがどうなるか、確認申請を出す人が法的な設計者になってしまうというクレジットの問題があります。ゼネコンの設計協力等のクレジット問題もあります。最後が設計および設計変更の見積のオープンブック化のことであって、総額請負方式とは別のコスト&フィー方式を検討する時代になっているように思います。

図-39

図-39

 

建築家が守ること

最後に、世のため人のために貢献する職能の建築家として自覚しなければならないことは、次の3つです。設計の施工からの自立性(独立性)、設計意図(思想)の一貫性、三つ目が透明性、公平性、説明責任という設計姿勢です。これらは官民問わず、発注者や広く社会から期待されることなんです。これからいろんな動きがあり相当変わるんだろうな、と思いますが、世の中の動きも含めて、多様な発注方式について考えていければ、と思っています。つまりBIMやIPD、さらにIoTやAIの普及によって、建築工事のあり方、建築設計の業務領域、関係者の役割分担が大きく変化する。建築家もこの建築生産システムの構造変革に備えつつ、多様な動向に順応してゆく必要があります。

 

追加しますが、東京都発注のオリンピック施設の発注方式についてご説明します。この資料(図-40)は2014年6月に東京都財務局からJIA関東甲信越支部も含む東京三会建築会に示された最初の資料です。都の説明案の要点は、設計段階から高度な施工技術が必要となる特殊施設で、工期がないため実施設計と施工の一括でゼネコン発注すること、極めて特殊で限定的な案件で建築工事は2施設のみであること、基本設計者は実施設計に参加できないこと、などでした。また、発注者支援として実施設計確認や施工図確認などのアドバイザリー業務が示されましたが、同業務の内容が明確ではなく、また基本設計者はアドバイザリー業務の委託先候補の一人であって担当することになると明記されていませんでした。

図-40

図-40

 

2014年2月頃の新聞報道からデザインビルドが具体的に検討されていることが分かり、JIA関東甲信越支部は設計施工分離原則の堅持を東京都財務局に要望しました。叶わず、今、話しました内容の説明がありました。この説明を受けて東京三会建築会議としては、自治体トップである東京都の新たな方式に納得できず、地方への波及も懸念を表明するとともに、代案を提案することになりました。それが、WTO対応も踏まえた全体工期を短縮できる東京方式(図-41)です。分類で言えば、実施設計共同型とECI方式の複合型でした。この提案は受け入れられなかったのですが、要望事項の一つであった基本設計者が最後まで関わることが認められ、業務内容も明確になりました。

図-41

図-41

もう一つ申し上げたいのは、2015年3月の東京三会建築会議宛て東京都財務局担当部門長名の文書のことです。そこには、2施設以外は分離分割原則で発注するとあり、今回のデザインビルドにおいても品質確保は都の責任で都の技術職員がしっかりチェックすると表明されていて、記述には暗に技術職員が少ない自治体発注者では発注者責任を全うできなくなる懸念があり採用すべきでないという危惧が込められています。

 

安藤:ありがとうございました。もっとお時間を差し上げて伺いたいのですが、感じたところを要約しますと、発注者はゼネコンにリスクを押し付けかつ、ソリューションの提示を求めている。ゼネコン等請け負う側にはそんな能力も余力もないという状況の中で不幸なことに日本では設計施工一括方式をとっている。どんな条件だったら受け入れる必要があると思われるのか。もしそのようにするならどんな関わり方がいいのかというのを考えられるよう、説明の中に随所にヒントをちりばめていただいたと感じています。古阪先生の方も、一番重要なことは土木の方は設計があって数量があるんですよという世界の中でも設計施工一括ですよ、建築の方は設計施工ないですよね、その中でこの議論というのが重要になってくると思います。

 

深尾:先ほどの自治体の実例の数がありましたが、分類(図-25)でいうと、今度のオリンピック・アクアティクスセンターはどこに入るのでしょうか?関係している僕が聞くのはものすごく変なんですけれども・・・。

深尾精一

深尾精一

森:東京都の方式は、これまでの分類によると実施設計ゼネコン単独型です。専業設計者が実施設計に参加する場合は、あくまでもゼネコンの下請けで表に出ません。協力者です。当初と変わって、基本設計者は、実施設計助言や工事監理の発注者支援業務、都の技術職員との共同業務を担当することになりました。ところで前に話しましたが、設計施工一括のタイプ分類では、設計監修、監理監修、工事監理、発注者支援などの業務を考えると、分類のバリエーションが増えちゃうんです。

 

古阪:薄っぺらい約款でいろんなことができるわけがないんです。ちゃんと図面も描き、いろんなことを書き込まないといけないんです。

 

森:実はデザインビルドでやろうとすると、基本設計が基本設計で終わらないんです。従来の基本設計以上に図面を書くんです。ある程度の構造図も伏図も書きますし、建具も拾っています。積算は±5%ぐらいの誤差目標で積算書をまとめますから、結構な負荷がかかるんです。だから業務的には別な発想が必要だと思っています。

 

安藤:基本設計ということそのものが、アメリカと違いますしね。設計施工一括の2段階方式をとると「基本設計とは何か」が重要な問題になってきますね。この辺でよろしいですか? 時間が押していますので、近角さんコメントを簡単にいただけますでしょうか。

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設計事務所は如何に生き延びるのか ECIの可能性 (近角真一)

近角真一

近角真一

近角:先ほどお話あった「五会」の一員として参加し議論を聞いているんですが、公共側が公共工事の設計施工の分離原則を崩したということが、ものすごくショックなんです。私は設計事務所を始めてもう36年なのですが、民間の仕事ではデザインビルドが当たり前となっていて、しかも益々増えていっている。私としては小さい設計事務所の立ち位置をどのように確保するのかということが一番の関心事で、これまでなんとか生き残れてきたかなと思っていた矢先に公共建築もデザインビルドという流れになってきたわけです。大海を小船の上から見ているに過ぎないのですが、この先どうなってしまうんだろうと、大変な危機感を持って五会の会議に出ています。そこでの議論は、小さい設計事務所の立場から見るとピンとくるものが少なく、大きな国家レベルの話が飛び交っていて、果たして合意が得られるのかしらと、不安に思っているところです。

ちょっと調べたところ、デザインビルドを公共工事に入れようという動きが実は15年位前からあって、その中でJIAの当時の会長(村尾成文)さんが、「土木と建築一緒にしてもらっちゃ困る。土木は土木、建築は建築のやり方があるんだから、それを分けて議論してほしい」とご発言されています。ところが、それから15年経ってこの議論が出てきたのですが、15年経った建築の世界でこの議論が深まってきたかというと深まっていないんです。設計事務所の立場からみると15年前に予告はあったかもしれませんが、今いきなり天と地をひっくり返されたような気分なんです。

 

安藤:15年前というのは、AIAがデザインビルドを採用した?時期と対応しているんじゃないんですか?

 

森:AIAは2003年にデザインビルドガイドブックを発行しました。当時、JIAはその本でアメリカの動きを勉強していました。それ以前に、実は国の諮問委員会だったか不明ですが、2000年頃に委員長が國島東大教授の設計施工一括方式導入検討委員会にJIAからも村尾氏が委員に出ていました。2001年1月にJIAの見解が委員会に提出されています。その頃から建築は土木と異なって独自じゃなきゃいけないと言っていました。日事連も提出しています。土木は多くがコンソーシアム型で動いていたようです。近角さんや安藤先生がおっしゃっている通りです。

 

近角:まずは反発・反対したいんですけれど、国には国の事情があるということで調べてみました。3つの動きとして整理できると思います。

一つは、新技術・新工法をメーカーと施工者が一緒になって開発してきた流れです。それを公共工事に採用するときにはそのまま認定してほしいと言っています。新技術・新工法の設計者がそのまま公共工事の設計者となって事業をする方式を検討して欲しいという流れなのですが、設計施工会社からしたら念願ですね。入札で決めるなんて耐えられない。言い分はよくわかります。開発者にとってのメリットももちろんですが、発注者である納税者の立場としても、安くて良いものができるわけだから、メリットです。

二つ目は、最近よく言われるコスト・工期問題です。予定価格・予定工期の中で収まらない、もしくは予定した工事・デザインの品質の水準に達していないものが増えています。これには発注者側の失態も多いわけで設計者の方に責任を押し付けられている感があります。突き詰めると発注者側の技能不足があると思います。これが、発注者支援業務というのが盛んになっている理由でもあり、公共側もそれを認めていると思います。

三つ目は、私がいうよりも、森さんの発言の中に入っているものですが、最近は建築が大型化・複雑化していて、設計が膨大な作業量になっているということです。大きな公共工事は組織事務所の独壇場だったわけですが、業務量に応じて設計料が増額できるわけではないという問題があります。

他方でデザインビルダー達は民間事業の中でそれをやり遂げている。公共側としてはその民間事業でのデザインビルダーのやり方を取り入れることによって組織事務所とデザインビルダーを価格競争させるという作戦に出てきたのではないかと思います。

今まで民間事業で実績がある人たちが、公共側に入ってくるとなると組織事務所vsデザインビルダーという対立構造の中で、大型公共工事の取り合いが始まることになりますし、実際に始まっているわけです。そんな背景の中でよく議論しているのですが、私たちからすると、今更デザインビルドの流れを認めるとか、公共の決定をけしからんとか言っていても仕方ないので、多様な発注方式の中で、我々設計者として状況を突破できるものはないだろうかと考えたところ、やっぱり一番可能性があるのがECIだと思うんです。

最初の新技術の導入に関しては、私の経験ですけれども、設計の中で工業化工法を使うことが多いと思います。工業化工法を公共工事で織り込んだ設計をしようとすると、メーカーを確定せざるを得なくなりますが、公共工事でそれは出来ないため在来工法で置き換えて設計することになります。在来工法で置き換えた設計をした上で入札し、業者が決まった段階でVEで個別サブシステムごとに変更をするということを今までやってきている。このやり方だと、デザイン・工事品質に関して非常にマイナスなんです。この工業化工法のスペックインを実施設計段階でできるようになることは、設計者にとってもウェルカムです。それこそまさにECIで、その可能性が十分あると考えております。

二つ目の不調・不落問題、コスト・工期の問題ですが、発注者は安い予定価格で発注してしまうことが実は非常に多いわけです。そのままデザインビルドで請負うとデザインビルダーが大損するわけです。デザインビルダーにとってこのデザインビルド問題というのは非常にリスクが高いと考えられます。

そのリスクを回避するためには発注内容を明確にすることが絶対必要です。それは土木ではそれほど難しいことではないが、建築では工期・公費、工事の品質を確保するためのファクターがもの凄く多いため、沢山あるファクターをまずFIXさせるのが基本設計+αの段階であり、その基本設計+αの段階において手渡せれば初めてデザインビルドが成り立つ。それ以前(ブリーフィング段階)でデザインビルダーに渡してしまえば、これはまさに納税者である発注者がきちんと押さえたいと思っている建物の性格を踏み外してしま可能性があります。

第二番目のポイントとしては、基本設計+αまでは必ず設計者がやり、その先をデザインビルダーに渡すという戦術(仕組)を、しっかりとPRしていかなければいけないと思います。設計者としては基本設計段階で手を離すというのは断腸の思いでとても耐えられないことですが、もし手を離すとしたらアドバイザリーという形で残る。三会が東京都に提案したものがありますが、もう一つとしてはECIの中で、実施設計の部分を、設計事務所の真下に置く。それが難しいのであれば分離した設計組織の中に置く。ECIの具体的な実施設計組織のイメージができませんが、もしそれができるのであれば、昔は大建築家たちが裏で施工会社の設計部を使うことがよくありましたが、それを非常にオープンな形で、ちゃんとしたコンソーシアムを組んで分業体制・支払いをはっきりさせた上で組むという体制を確立したらいいと思います。

三番目についてはもう申し上げるまでもなくて、大組織とデザインビルダーとの戦いにおいても、やはり基本設計+αまでは組織事務所の方でやって、(その先をアドバイザーという風に引っ込むよりは、)その下にコンソーシアムを組んで分業体制を組んで進めるという戦略を確立すべきかと思います。

古阪さんはECIは「方式」であるかどうか疑わしいとおっしゃいましたが、ECIについてはもう少し研究が必要だと思います。私は、ECIはそんなに難しくない、それは個別の努力を積み重ねていけばできると思うので、やはりここに戦略を集中させて、状況突破ができないかなという気持ちを持っています。

 

安藤:ありがとうございました。ECIに可能性があるいうことですけれども、指定・指名、それから設計の責任をどこがもつかというのがやはり根本的な議論になります。それについては皆さん色々調べてらっしゃいますので今後も意見交換していきたいと思います。サブコンのレベルではBIMに近い話が出てきています。コンソーシアムや意思決定とか責任とかっていうのはかなり複雑な問題がありますので、志手先生、引き取っていつかはここに返してくださいね。

それから、個別の良い事例を作っていくのは必要なことだと思うんですね。私たちの研究会は、ECIというのはこういう方式だということを定義付けしてもいないし、どの方式がベストか、ということも言えないという前提なので、いろんな良い事例を作っていくことが、大事なことだと思っています。

 

討論

安藤:これから議論に移ります。小笠原先生、アメリカで設計やってらっしゃいますが、基本設計プラスっていうのは、例えばアメリカだとスキマティック・デザイン+デザイン・ディベロップメントというのが基本設計ですよね。

 

小笠原:それに近いのかと思います。

 

コンソーシアムとクレジット

安藤:またいつか、この話しをしてください。まずは斎藤先生いかがですか。

斎藤公男

斎藤公男

斎藤:いくつか気になったことを言わせてもらうと、森さんがクレジットの話をされていたんですけれども、今すごく気になっています。このA-Forumでも新国立競技場の工事が終わった後にプレゼンしてもらおうとかおもっています。建築学会では、130周年記念の総会もありまして、いろんなイベントがありますが、その中の一つとして私がずっと二十数年やっている構造デザインフォーラムというのが11月にあるんですが、そこで新国立競技場でできなかったザハ追悼パネルみたいなのも含めて、新国立競技場だけでなくて東京都のオリンピック施設も含めて、2020年に向かって建築界が一つの方向に歩き出したということを建築界に提起したいと思っています。ということで、あちこち設計事務所・ゼネコン等の方々と話していますが、東京都の方はなかなか微妙でして、11月のレベルだと実施設計が終わっていないから、基本設計を話したほうがいいよ、とかそういう話になっているんです。でも結局は、建築は設計と生産をいかに有機的にやっていくかというのがテーマなので、そこを分離してもなかなか変な話でしです。基本設計の中身も、私も関与していますけれど、有明アリーナもアクアティックセンターにしても基本設計の段階で相当なところまで、いわゆる構法計画も含めてかなりのことを突っ込んでやっているんです。実施設計に近いんじゃないかと思います。コストも先ほども言いましたように、相当詰まっています。

そういうことで、最終的にクレジットがどうなるかということはさておき、基本設計は誰がやって実施設計はどうなっているのかということを、出すべきだと私は思うんですね。というのは、旧新国立競技場の建築家は誰と言ったときに、よくわからないんですよね。

それから私が全然解けていないのは、今ここにパネルございますけれども、これは2年ほど前に学生諸君に勉強してもらって学会で発表したものですけれども、九つの課題があるんです。やっぱりこういうスポーツ施設なり、国家的なイベントというのはどういう背景があるかということをみんなに勉強してもらった。

今から20年ほど前にたくさんのドームができたのですが、最初に東京ドームができて、その後に秋田でゼネコンだけのコンペをやった。それではまずいだろうということで設計事務所とゼネコンが組んだコンソーシアムでやる、ということが行われるようになった。20年前の頃は、私はうまくいったと思うし、それが変容していって、設計事務所がアーキテクトになっていたり、あるいは、私も出雲ドームなどやりましたけれども、ある種特殊な専門家を入れる形でコストと工期をきちんと守った中でデザイン力をどこまで表そうかということで、別に負担をかけていないんです。

そういうことを考えると、新国立競技場の国際コンクールがオリンピックをとるためにやったとしても、ザハ案が決まった後、今のお話の中のどのシステムでやったら上手くいったのかということが、今回の話を聞いてもなかなかわからない。また次には、その辺の話しも含めて、過去のうまくいった事例や新しい方式において、どれが成功してなにがダメだったという実態を明らかにしながら議論できればと思います。

 

安藤:ありがとうございました。古阪先生、お願いします。

 

事例収集と分析

古阪:新国立競技場は国会で問題になったときにやるかやらないかを決めるべきだったと思います。ある新聞社が3200億円ってすっぱ抜いたときに決断すべきでした。国会で大問題になった時ですね、決めるところはそこですよ。それ以外にはあり得ない。

 

斎藤:たぶんいろんな人がいろんな意見を持っていると思うんで、古阪さんの意見は検証委員の一人ですから。

 

古阪:ドーム競技場については、ケースもたかだか30~50です。一方で、東京など中央でもたくさんの設計・施工案件があるんですね。それをなぜ押えないのかということです。五会含めてそれを押さえない限り、ECIが良いといっても一部分だけで、本当は地方では建設会社の力がない、設計事務所の力がない、発注者には技術者がいない、それをどうするかがもっと大きな問題です。そういうことをクリアにしなければいけないんじゃないかなということを話したかったんです。

もう一つは、ゼネコンが一括でやるのが日本では伝統的にそうですが、分離発注でやるというのは結構必要になってきていて、例えば杭が心配だったらそこだけを分離できるというやり方が、もっと日本で広まるといい。設計も一括、工事も一式これだけしかオールタナティブを用意していないことが問題です。現実的にECIでやろうとしても機能しなかったというのでは大問題です。とにかく地方の実態がどうなっているのかということは最初に調べなければいけない。是非とも協力して一緒にやっていきましょう。

 

安藤:ありがとうございました。しかしイニシアチブは発注者から出てこなければいけないのに、地方の実態と言ったけれども中央もほぼ地方に類するような能力のものになっていますよね。森さん、いかがですか。

 

森:古阪先生おっしゃったデータの数はわずかですが、情報はもっとあるんです。今回は傾向がわかるように使いました。発注者に問題があるということですが、地方自治体の首長さん全てがそうではなくて、割とビジネス的な感覚がいいと思っている首長さんはいらっしゃいますし、その逆もあります。建築文化を大切にする首長です。首長さんの力が地方自治体の方針を大きく左右します。問題のある発注条件の設計施工一括方式を採用しても、その首長は成功したと思っていますから、実務スタッフが失敗したと思っても言えないというのは実態としてあります。相応しいプロジェクトタイプは用途のほかにも規模や立地とかとの組み合わせって、結構あるのではないかと思いますし、一方で発注者が納得するための手順もあります。病院などでは手間暇かけてきちんとドクターはじめ多種多様な関係者とヒアリングしてできた設計図と、回数も重ねずある特定分野の人からヒアリングしただけのものとは、設計図密度や発注者満足度に大分差があると思っています。

先ほど近角さんが言ったように、設計時点で施工者等の技術提案を必要とする場合には、僕らもECIというのが望ましい方式と思うのですが、一方で成果をあげるには、求める施工技術の要件も大きいかなと思っています。また広めるには、多くが納得する評価ルールが必要で、それは大変です。つまりその施工会社が提案する、あるいはメーカーが提案するものを適切に評価するのはお金とセットなので、適正な評価が結構難しい。その技術を選んだ設計者の責任も簡単ではなく、明確にしなければならない。施工会社が設計とワンパッケージでやるスタイル以外のものを考えるためには、ECI方式は検討に値する。色々ご指導いただけるとありがたいと思っています。

 

ECIという言葉

安藤:ありがとうございました。それでは時間も限られていますが、是非ご発言をお願いしたいと思います。ECIという言葉やめませんか。

 

近角:でもECIのガイドブックに書いてある説明はすごく良くて、いろんなECIがあるって書いてあるんですよ。でも、ECIを一種類で定義しているような文章が出回っているんです。ですから、非常に運用が難しい。

 

安藤:ECIってね、発注者とか設計者にとってはいいものかもしれないけれども、色々な技術を持っているメーカー等の人が呼ばれてアイディアだけ取られてぽいってされたら敵わないですよね。

 

近角:それをしないために、色々な取り決めをしているんです。仕様書を書くときに“同等以上”というのを書かないと責務を果たしたことにはならないんだけれども、これだけデザインビルドが認められているんだったら堂々と名前を書いて、それで通るような世の中にしていかなければ進まない。

 

安藤:そのときECIでできればECIって…

 

近角:ECIというのは納税者に対する説明責任上そうする。

 

古阪:これは公共工事に限定しての話ですよ。

 

森:高度な施工技術やメーカーの固有技術を設計時に採用する場合には、民間では、採用目的を説明することはやらなきゃいけないが、発注者が了解すればいいので、公共とは違いますね。ただECIのような技術提案者には、日本の下請重層構造の仕組みからすると、設備のサブコンは乗っかってくるかもしれないが、建築系メーカーは乗ってこない可能性が高いかもしれませんね。

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安藤:全体的にフェアな仕組みを考える必要があるということですね。他にいかがでしょうか?

 

吉田:大規模・複雑なプロジェクトを扱った議論をしていただいて、非常に参考になり勉強になりました。最後に近角さんがまとめてらっしゃった複雑でビッグなプロジェクトの場合のみではなくて、地方公共団体が作っている小さなものもたくさんありますし、民間がつくっているものも小さなものがたくさんあると思うのですが、いわゆる町の設計事務所がどう関わっているのかということに及んだ話しをどこかでしていただけたらという、感想を持ちました。

吉田倬郎

吉田倬郎

森:必ずしも大規模だけの話をしたつもりは全くないです。5,000平米規模のものもあるし、地方で小規模なものも出てきている。ただ地方では受ける側の設計事務所や施工者がいない場合があって、全国版のゼネコンが入ってきているようで、これから地方の事務所や建設会社は仕事を取られてしまう心配がありますね。

 

布野:吉田先生がおっしゃったことは僕も言っていまして、このシリーズでは是非取り上げたいと思っていますので、吉田先生も企画者側になっていただいて、是非お願いできればと思います。今までやって来たルールがあって、それとは違った多様な方式となったときに、JIAは歴史を踏まえた主張をしていただかないといけないと思います。現代日本の状況の中でどれがいいかっていう議論について、安藤先生がおっしゃるように実例を作っていく、経験を積み重ねるのは大事だと思いますが、朝令暮改では困る。一番合った仕組みは何か、引き続いて議論はしたいと思います。

 

デザイン・アーキテクト?

安藤:平野先生、何か一言お願いします。

 

平野:今日の話を伺って、気になっているのは「設計とは何か」というのをきちんと考えていかなければいけないということですね。今日の話しにでていた基本設計・実施設計それからブリーフまで入れますかね、という分類じゃもう語れなくなっている時代なので、これは皆さんに伺いたいのですが、どういう風な側面から設計を捉えていけばいいのか。これは質問する前に自分で悩んだんですけれども、トートロジーで“設計とは設計者がやることが設計だ”という感じがあって、さっき安藤先生がおっしゃったように、例えばサブコンがやる設計があってもいいわけですよね、コンサルがやる設計、メーカーがやる設計、それからデザインする人またはストラクチャーからデザインする設計があってもいいんじゃないかと、そういう組み合わせを考えていかないと、これまで議論になっているものについては問題を解けないんじゃないかという感じがしています。まだちょっとこれだと語れる段階に来ていませんが、いずれ見つかったらまた是非にお話しさせていただきたいと思います。

平野吉信

平野吉信

皆様がどういう風に考えてらっしゃるのか、お聞きしたいなと思います。特に森さんに、一つだけ。今日のお話しの中でデザインアーキテクトというものが出てきました。設計監修者という言葉がでてきました。これってどういう風に何をする人がデザインアーキテクトなのですか

 

森:俺が言っているデザインアーキテクトというのは海外の建築家、シーザ・ペリ(César Pelli)もそうなんですが、彼は自らデザインアーキテクトと言って日本に来ている。彼らは外観をデザインしている、加えてメインの内観をデザインしている。中のプランニングはノータッチでいいですよ、しかしデザインは買ってくださいと言っている。そういう形でシザー・ペリは、個人名出しちゃったけど、日本でも活躍しています。ついでにヨーロッパの空間構成にこだわる人は、例えば、リチャード・ロジャース(Richard Rogers)はプランニングにも深く関係する。ですから、自らをデザインアーキテクトとは言わないです。日本でデザインアーキテクトがよく使われているのは、マンションの外装デザイン担当者で、基本的に平面形など変えないで外装デザインする役割で参画しています。

 

平野:それもまた人によって違ったりするんですよね?

 

森:デザインアーキテクトは、雑誌などのクレジットで使われていますから、そう言っているだけです。

 

布野:さっき古阪先生が、ロンドンの若いディベロッパーが2%取っていると言っていたけど、その職業は一体なんなの。ある種のオルガナイザーなわけでしょ?情報を持っていてサポートするっていう。

 

平野:その問題もある。それを誰がやるのかっていうのも大問題。

 

布野:金儲けをしようと思ったらそういう職能(ディベロップマネージメント)もあったっていい。

 

平野:プロジェクトマネージャーだけやっているという世界ではなくなってきている、とそれは事実。

 

布野:なくなってもらっちゃこまる。

 

古阪:日本語でいうと設計監修。契約上はデザインコンサルティングです。日本語の契約書はない。

 

布野:どのくらいもらってどのくらい責任をとるのかっていう話です。そういうルールがあるわけではない。

 

古阪:RIBAの設計の8段階でのここからここまでというところでいう3%です。

 

布野:JIAは持っていますか?

 

森:JIAは業務報酬基準を持ってないですよ。昔あったけど今はない。今は告示15号が基準になっています。

 

安藤:だけどその、RIBAも最近8段階に増やしましたけれども、半分BIM対応ですし、あるいは設計の外部化ですよね。そこらへんは基本的な建築学の問題もあるし、建築の産業全体としての課題ですよね。というところを共有したところで一旦研究会は閉じて、懇親会に移らせていただければと思います。今日は、お三方、どうもありがとうございました。
(原稿整理:長谷部勉、文責:布野修司)

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  1. 五会とは学会、士会連合会、日事連、JIA、日建連

古阪秀三

京都大学教授。1951年兵庫県生まれ。京都大学工学部建築学科卒業(1974)清水建設㈱入社(1974)京都大学工学部助手、助教授、京都大学大学院助教授、准教授、教授(1976~)を経て現在に至る。日本CM協会設立(2001)民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款委員会委員長(2013)、文部省科学省・新国立競技場整備計画経緯検証委員会委員、「設計と施工の統合に向けた予備的検討」で日本建築学会奨励賞(1990)、「設計と施工の統合に関する研究」で日本建築学会賞(1999)ほか。

森暢郎

㈱山下設計 特別顧問。1947年東京都生まれ。神戸大学工学部建築学科卒業(1971)神戸大学大学院修了(1973) 株式会社山下寿郎設計事務所(現山下設計)入社(1973)、常務本社長、専務、社長、会長を歴任、現在に至る。富士通川崎技術新棟でインテリジェントアワード優秀賞(1989)野村證券横浜研修センターでBCS賞特別賞、街区共同受賞(1991)鳩ヶ谷市庁舎で埼玉県まちづくり賞(1994)NHK広島放送センターでひろしま街づくりデザイン賞(1996)新丸の内センタービルでJIA優秀建築選(2006)石川県庁舎で公共建築賞国土交通大臣賞(2008)ほか。

近角真一

株式会社集工舎建築都市デザイン研究所代表。1947年北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業(1971)内井昭蔵建築設計事務所入所(1971)近角建築設計事務所入所(1979)集工舎建築都市デザイン研究所設立(1985)武蔵大学キャンパス再開発でBCS賞(1983)NEXT21実験集合住宅で大阪ハウジングデザイン賞、大阪まちなみ賞、通産省グッドデザイン賞、日本建築学会作品選奨(1995)求道会館・求道学舎保存再生事業で日本建築学会賞 業績賞(2008)求道学舎リノベーションで都市住宅学会賞 業績賞(2007)、JIA環境建築賞 優秀賞(2008)「NEXT21その設計スピリットと居住実験10年の全貌」で都市住宅学会賞 著作賞(2007)ほか。

安藤正雄

1948年生まれ。東京大学工学部建築学科卒業(1972)、同大学大学院工学系研究科工学修士課程修了(1974)。建築生産、建築構法、構工法計画,住宅生産、ストック型ハウジング、建築生産,プロジェクト・マネジメント,植民都市に関する研究などをテーマとして建築学研究に取り組む。千葉大学工学部講師(1976〜)、千葉大学工学部教授、千葉大学大学院工学研究科教授を経て2014年千葉大学工学研究科名誉教授就任。「インターフェイス・マトリクスによる構工法計画の理論と手法」日本建築学会賞(論文)受賞(2004)。共著に「変革期における建築産業の課題と将来像」、「建築ものづくり論-Architecture as “Architecture”」ほか。

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1 Comment

  1. 参加者のお一人が別のところに張られたリンクでこの記事に辿りつきました。
    日本的体質に根ざす問題に対峙なさる御労力に感服いたしますが、建造物・建築物・建築という分類があるその所以に応じて、その生産システムに違いが有って然り、と考えます。
    設計者は言うまでもなく、役所ひいてはゼネコンまでが生産の場に不在化というお話、日本における建築の未来は暗いと感じざるを得ません。
    ここヨーロッパ(大陸です、ブリテン島とは大違いです)では今日まで、音楽の指揮者のような統括者として建築家が位置づけられていますが、ドイツでは行政の不手際やミスで、大規模プロジェクトの竣工が十数年の遅れを招いています
    一つはいまだに開港の目途がたたない「ベルリン新国際空港」、もう一つは2017年一月にホール開きのハンブルクのコンサートホール「エルブ・フィルハーモニー」。
    貴研究会の趣旨からして、詳細な研究分析に値する事例だと思います。
    国立競技場の発注的観点からの分析、期待しております。
    皆様方のご健勝と益々のご健闘をお祈りいたします。

    ちなみに建てるという営為は下記のような分類になります。
    (建造物 土木=Tiefbau 建設業でいう建築=Hochbau、
    建物=Gebäude、そして建築=Architektur)

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