法政大学陣内秀信研究室による長期にわたる一連の研究については、数多くの著作、報告書に示されてきている。その研究展開の軌跡については、近刊の陣内秀信『イタリア都市の空間人類学』弦書房(2015年10月5日)に示されており、本欄でも紹介したところである(http://touron.aij.or.jp/2016/01/150)。『東京の空間人類学』(1985/ちくま学芸文庫1992:“Tokyo, A Spatial Anthropology、translated by Kimiko Nishimura”University of California Press、1995)を出発点とする「空間人類学」という学の構想は、「水都学」の確立へむけて収斂しつつあるように思われる(『水都学』Ⅰ~Ⅴ、法政大学出版局)。
そうした中で、その都市組織研究、空間人類学の原点に立ちかえって、再びヴェネツィアに焦点を当て、水都学の構想のもとに新たな展開を計ろうとするのが本書である。「ヴェネツィアのテリトーリオ: 水の都を支える流域の文化」というタイトルがその新たな展開の方向をストレートに示しているが、ヴェネツィアと水系を通じた後背地との関係が本書のテーマである。
全体は4章からなる。すなわち、ヴェネツィアとテッラフェルマ(本土)との関係を総括的に論じた上で(第1章 テリトーリオ)、シーレ川流域(第2章)、ピアーヴェ川流域(第3章)、ブレンタ川流域(第4章)が順に取り上げられている。
ヴェネツィアと言えば、海洋都市国家としての華々しい歴史に焦点が当てられるが、そもそも都市がその後背地との関係において成り立つということを考えれば、また、「自治都市(コムーネ)」が,古代ローマのキヴィタスの伝統を引き継ぎ,防衛のために市壁で集住地域を囲い,周辺にコンタドと呼ばれる農地を所有して,自給自足を行ってきたことを考えれば、さらに、そもそも水系が都市の立地に決定的であることを考えれば、後背地を問題にするのは当然と言えば当然である。ヴェネツィア都市史研究がテリトーリオに視野を拡大してきたことも本書の背景にある。
本書は、都市とその後背地をめぐる様々な問題を考える多くの材料を提供してくれている。
著者紹介:
樋渡彩:1982年広島県生まれ。2006年ヴェネツィア建築大学に留学。2016年法政大学大学院デザイン工学研究科博士後期課程修了。
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