建築時評
地盤変状で戸建て住宅が全壊するか?
Does ground deformation cause collapse of a house?

 

1.はじめに

2016年熊本地震では益城町らで多くの戸建て住宅が倒壊し、多くの人命が失われた。建物の被害要因として地震動のみならず、「地盤変状」も指摘されている。本稿では、地盤変状が戸建て住宅被害に及ぼす影響を、戸建て住宅基礎の変遷とともに考える。

2.過去の大地震における被害事例

地盤変状が戸建て住宅被害に及ぼす影響を、過去の被害事例から考察する。1993年北海道南西方沖地震における長万部町では旧河道や砂鉄採掘跡で液状化が発生し、多くの戸建て住宅が被害を受けた。液状化地域では、図1のように基礎が破壊して、上部構造物が変形する事例が多く見られた。図2は、2011年東日本大震災における仙台市折立の宅地被害である。ここでは、谷埋め盛土が地すべりし、基礎が破壊され上部構造物が全壊した。ただし、地すべり地域以外では、建物被害は軽微であった。振動に地盤変状が加わり、建物は全壊したと思われる。いずれの事例も、被害を受けた住宅の基礎は無筋コンクリート造布基礎であった。

図1 液状化で基礎が破壊した戸建て住宅(1993年北海道南西沖地震、長万部町)

図1 液状化で基礎が破壊した戸建て住宅(1993年北海道南西沖地震、長万部町)

図2 谷埋め盛土の地すべりで破壊した戸建て住宅(2011年東日本大震災、仙台市)

図2 谷埋め盛土の地すべりで破壊した戸建て住宅(2011年東日本大震災、仙台市)

東日本大震災では、浦安市等の湾岸地域や旧利根川流域で大規模な液状化が発生し、戸建て住宅が大きな被害を受けた。図3に示すように、液状化地域におけるほとんどの戸建て住宅は、傾斜・沈下したものの上部構造体の損傷は軽微で、ジャッキアップ等による復旧工事が可能であった。また、仙台市郊外の新興住宅地(西花苑)では、図4に示すように斜面崩壊で戸建て住宅が転倒した。ただし、遠くからの観察ではあるが、上部構造物の損傷は軽微であった。手前の戸建て住宅も基礎端部の地盤が失われているものの、上部構造物の損傷は軽微である。これらの被害事例では、高剛性の鉄筋コンクリート造の布基礎またはべた基礎が用いられていたため、地盤変状による上部構造物の破壊を免れたと思われる。

図3 液状化で傾斜した戸建て住宅(2011年東日本大震災、浦安市)

図3 液状化で傾斜した戸建て住宅(2011年東日本大震災、浦安市)

図4 斜面崩壊による戸建て住宅の転倒(2011年東日本大震災、仙台市)

図4 斜面崩壊による戸建て住宅の転倒(2011年東日本大震災、仙台市)

一般的に建物の耐震設計は、上部構造物の慣性力に対して行われる。しかし、上記のように、液状化や宅地の破壊に伴う地盤変状で無筋コンクリート造基礎が破壊し、上部構造物が損傷する事例は多い。このことは、慣性力のみならず、地盤変状も外力として、建物の破壊に寄与しうることを示唆している。ただし、既往の被害事例から、地盤変状のみで建物倒壊まで至るケースは極めて少ない。また、高剛性の鉄筋コンクリート造基礎では、地盤変状による上部構造物の損傷を大幅に軽減できると考えられる。

3.戸建て住宅基礎の変遷

前章で述べたように、過去の地盤変状による戸建て住宅被害は、基礎構造(特に鉄筋の有無)に依存した。日本の戸建て住宅は、1950年の建築基準法制定後、コンクリートブロック、石積、レンガ布基礎、無筋コンクリート造布基礎が用いられた。1970年の基準法施行令の改正をうけ、1973年に旧住宅金融公庫の標準仕様は、無筋コンクリート造布基礎、鉄筋コンクリート造布基礎になった。1981年に新耐震設計法が導入され、旧住宅金融公庫の標準仕様に一体の鉄筋コンクリート造基礎が追加された。ただし、無筋コンクリート造構造も法律的には可能であった。2000 年建築基準法が改正され、基礎の寸法・配筋の最低限の仕様が明確にされ、鉄筋コンクリート造が義務化された。すなわち、1981年新耐震の導入以降も2000年まで、戸建て住宅の基礎の多くが鉄筋コンクリート造(設計者判断の配筋も含む)だったと考えられるが、無筋コンクリート造の存在も否定できない。なお、基礎全体の剛性を高めるためには、基礎梁の配置、換気口・点検口の切り欠きに対する配慮が必要である。

4.益城町における地盤変状による戸建て住宅の被害

筆者が調査したのは県道28号の南側の安永地区および宮園地区のみであり、被害地域の一部である。近傍のボーリングデータによると、被災地はN値2程度の軟弱粘性土が層厚10m程度存在していると思われる[1]。県道28号と秋津川の中間付近で戸建て住宅の倒壊・大破が、秋津川と平行に帯状に集中していた。震災の帯では、図5のように無筋コンクリート造基礎が破壊して、全壊した戸建て住宅が多く見られた。前述のように無筋コンクリート造基礎は地盤変状に弱い。無筋コンクリート造基礎の戸建て住宅は、地盤変状によって上部構造物が損傷し、振動との相乗効果によって全壊した可能性が考えられる。熊本地震では、1981年新耐震導入後さらに2000年建築基準法改正後の新しい戸建て住宅でも倒壊したと報告されている[2]。前述のように、新耐震以降でも2000年までは、無筋コンクリート造基礎や鉄筋量が足りない鉄筋コンクリート造基礎が存在したと考えられる。そのような基礎では、新耐震の戸建て住宅でも地盤変状が建物の破壊に寄与した可能性はある。

図5 基礎が破壊した戸建て住宅(2016年熊本地震、益城町)

図5 基礎が破壊した戸建て住宅(2016年熊本地震、益城町)

問題は2000年以降の戸建て住宅である。新しい戸建て住宅の倒壊事例では基礎が瓦礫で埋まり、基礎の破壊の有無を確認できなかった。過去の地震被害事例から、鉄筋コンクリート造基礎では地盤変状で基礎が破壊し、建物が倒壊するとは考えにくい。実際、図6の事例では、建物の周辺地盤が激しく変状しているものの基礎および上部構造物の被害は軽微である。図7の事例では、周辺地盤が1520cm程度沈下しているものの、基礎に損傷が見られない。建物の周辺地盤が沈下していることから、地盤改良または杭による沈下対策が行われていたと考えられる。このことは、既往の技術で適切に設計・施工することで、大地震の地盤変状に耐えうることを示唆している。ただし、筆者が調査した事例は限られており、2000 年建築基準法に準じていれば地盤変状に対して十分な耐震性を持つかは、今後の調査報告を待ちたい。

図6 周辺地盤が変位したものの無被害の基礎(2016年熊本地震、益城町)

図6 周辺地盤が変位したものの無被害の基礎(2016年熊本地震、益城町)

図7 周辺地盤が沈下したものの無被害の基礎(2016年熊本地震、益城町)

図7 周辺地盤が沈下したものの無被害の基礎(2016年熊本地震、益城町)

5.まとめ

過去の大地震における地盤変状による戸建て住宅被害は、基礎の構造(特に鉄筋の有無)に依存した。戸建て住宅の鉄筋コンクリート造基礎の義務化が2000年建築基準法改正であり、比較的最近である。熊本地震においても、地盤変状による無筋コンクリート造基礎の破壊事例は多く見られた。基礎の破壊で上部構造物が損傷し、振動との相乗効果で全壊した可能性が考えられる。一方、2000年以降に建設された戸建て住宅基礎の破壊事例を筆者は確認できなかった。2000 年建築基準法に準じていれば、地盤変状に対し十分な耐震性を持つかは、今後の調査報告を待ちたい。

  1. 全国地質調査業協会連合会: 熊本地震 復興支援 ボーリング柱状図
    http://geonews.zenchiren.or.jp/2016KumamotoEQ/webgis/index.html
    アクセス2016.8.17

  2. 日本建築学会:「2016年熊本地震」 地震被害調査 速報会, 2016年5月14日

田村修次

東京工業大学環境・社会理工学院建築学系准教授。1989年 東京工業大学建築学科卒業、同大学院修士課程修了。1991年 東日本旅客鉄道株式会社。1996年東京工業大学大学院博士(工学)取得。1996年 科学技術庁防災科学技術研究所・研究員。1999年 信州大学工学部・助教授。2004年 京都大学防災研究所・助教授。2012年 University California Davis, Visiting scholar。2014年 東京工業大学建築学専攻・准教授、現在に至る。専門分野:建築基礎構造、地盤地震工学。

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