Low Carbon Society, Low Carbon City, Sustainable Challenge, Small Environment Self Sufficient World, Population Decrease, Infrastructure Maintenance, Heat Island Potential, Green City Center, Green Building, Passive Environmental Quality, Low Energy Consumption Law, Local House Standard and Historical Culture, Wide Window Passive Zero Energy House, Sky Solar System
1.低炭素社会をつくる「自立する小さな環境世界」
低炭素社会は人々の意識改革がなくては実行できない。環境問題の元々の原因が産業革命という自然の流れ、自然の力を征服するような近代文明の強大な力を獲得したところから始まったもので、その力の強大さに頼る価値観を変えなくてはならないのだ。第1図は近代化の価値観を超えて低炭素社会の価値観への意識変化を促す図である。
近代化の価値観で生まれた環境問題を新しい低炭素型の価値観へ人々の意識が変わり、低成長時代を楽しみながら、2050年の人口縮減・低炭素社会への移行をしていくプロセスをコミュニティの中で少しづつ議論していくことが大事だと考えている。
<都市で考える-環境立国戦略会議2007>
政府は1997年の京都議定書以来、2050年の低炭素社会実現に向けた政策をいくつも打ち出したが、クールビズ運動以外はなかなか市民の行動を促すものに結びつかなかった。2007年の環境立国戦略部会において、筆者は当時の小林環境省官房長と議論し、都市から低炭素社会への行動を始める戦略を提案した。本来はすべての都市が市民WSなどを通じて議論し、具体的行動を提案・実行することを目論んだが、補助金行政の関係から全国で約20の環境モデル都市を指定し、各分野別の政策アイデアを検討することとなり、その後この環境モデル都市は環境未来都市と名を変えて拡がっている。
8つの戦略の中の戦略2「生物多様性の保全による自然の恵みの享受と継承」の①SATOYAMAイニシアティブ自然共生の智慧の再興・発展。戦略3「3Rを通じた持続可能な資源循環」の②3Rの技術とシステムの高度化、地域循環圏を基盤に物質の種類に対応した循環の促進、「もったいない」の気持ちを活かす社会経済システムの構築、3Rを通じた地球温暖化対策への貢献。戦略5「環境・エネルギー技術を中核とした経済成長」の①環境技術・環境ビジネスの展開、②エネルギー効率の一層の改善、③バイオマス等の再生可能エネルギー利用の促進。そして戦略6「自然の恵みを活かした活力溢れる地域づくり」の①人と自然が元気な郷づくり、②美しく環境に配慮した都市づくり、③豊かな水辺づくり、④緑豊かな国土の保全に向けた美しい森林づくり、などが「環境立国日本」を実現するうえで、地域・都市・建築の視点から配慮すべき横断的環境政策の重点を置くべき道筋を提示している。すでに9年前になるが、この議論は今でも有効で、私たちの低炭素社会への道筋を示したものと言えよう。
2.都市をGreen Cityへ 低炭素社会に向けた課題
<低炭素社会の理想都市を実現するための研究-2009~2011>
その後、2008年から筆者らは環境省の推進費を受けて、日本建築学会で「低炭素社会の理想都市実現に向けた研究」研究特別委員会を設置した。東大大野秀敏研、東工大梅干野晁研、日大糸長浩司研と合同で3年間の研究を行い、2011年にその成果を13+1のガイドラインにまとめた。その内容は、<都市/交通>において1.既存の都市資産を活かし長期的にCO₂排出量を減らす多芯型の都市、2.低炭素都市形態への再編を促し弱者をサポートする公共交通。<まち・街区>において3.個性ある風景のまち、4.人間的スケールで暮らせるまち、5.地域の気候風土を活かし水と緑により快適な微気候を形成するまち。<建築・空間>において、6.地域特性を活用した自律・循環型の長寿命建築、7.計画・空間構成によって熱環境負荷を削減するゼロカーボン建築。<暮らし・コミュニティ>において、8.エネルギーと食の地産地消、まちから村まで連携する暮らし、9.他人(ひと)も家族も、つながり支えるコミュニティ、10.地域の協働でつくる低炭素アーバンエコビレッジ型コミュニティ。<評価手法>において、11.快適で環境負荷の少ないまちづくりのための予測・評価手法、12.住民等とのコミュニケーションツールとしての可視化手法、13.科学的な予測と協働型のロードマップと総合的政策手法。そして<補足14.防災>として防災意識の高い、災害に強いまちづくり。などである(詳細はwww.iceice.com/ben/lowcarbon.pdf参照)。
その中で図2に表すように、基本理念として1から9を、そして概念図「小さな環境世界で自立した都市・建築」を提案した。この理念と図は、その後日本建築学会の「地球温暖化対策アクションプラン2050」に加えられ、建築学会の低炭素社会に向けた基本理念となっている。
図の説明を簡単にしておく。まず基本として小さな環境世界を構想してほしい。その世界は自分の家の敷地から街区単位でも小学校区単位でも良い。小さなコミュニティ単位の方が、人々が自分のものとして議論しやすいことを目論んでいる。横軸の楕円は循環型社会を示し、太陽のエネルギーによる水系を軸とした循環が始まる。海の水→蒸発・雲→雨・雪→温度差移動・山へ→植物・樹木・光合成→熱・バクテリア・生物→川・貯水池・氾濫→里山→畑・田・牧場・農業生産→歴史・生活→まち・産業・運輸・三次産業→ごみ・廃棄物→下水→川・海→漁業生産へ。これらを健全な循環にするために森の計画伐採・SFC認証やカスケード利用、そしてバイオマスエネルギーへの利用。川の多自然型生態系利用、小河川のエネルギー利用、廃棄物・ごみの多品種分類・リサイクルシステムの構築、エコビレッジ・パーマカルチャーなどの自然・農のある暮らし・伝統的自然型ライフスタイルへの転換、インフラストラクチャーの減量化・自助・共助維持管理システムへの転換、パッシブ型手法によるゼロエネ建築、都市内空地の農地化や農地の都市住民の活用など互換活用などによる低炭素型都市・建築への移行を立案し、政策実施していかなければならない。これを実行できるのは上からの指示ではなく、住民のコミュニティでの議論と合意であり、そのための自立的な市民民主主義が基本となる。
一方、縦軸の楕円はどんな小さな環境世界でもその中で再生可能エネルギーを生成できることを示している。頭上には6000℃の太陽があり、絶対零度の宇宙がある。空中には空気があり、風がある。地上には循環型で述べた樹木や生物、河川やごみのリサイクル、廃棄物エネルギーがあり、地面の下には太陽熱が蓄熱された地中熱やマグマのエネルギーがある。
こう考えてくるとどこでも自分たちの生活は自給自足できそうだ。
<都市の骨粗鬆化と農のある生活>
現代日本の都市(ここでは20万人以下の都市をイメージしている。)を考えてみよう。中心市街地の衰退は目にあまるものがある。目線から見た都市は一見活気があるように見えるが、実は空地、空き家は半分くらいの都市もかなりある。筆者らが研究対象とした土浦市では、駅から500m圏内の中心市街地の約55%が駐車場と化した空き地であった。一度はデパートもあった都市だが、撤退後の一時期は、内部をデイサービスや市役所の支所として利用したり、駅ビルに市役所そのものを移転しようかという話まで上がったほどだ。商店街などは東京で学び、働いている後継者が帰ってくる気配はなく、老齢化すると大きな家を持ちこたえられず、小さな家に移り、空き家は次の世代が不要と解体し、敷地も固定資産税のために駐車場業者の誘いに乗ってしまう。こういう中心市街地を我々は骨粗鬆症のまちと呼んだ。昭和45年からの高度成長時代以降に開発された駅からバスで15分の団地などはシャッター商店街や空き家、空き地で地価も当時の1/10に下がり、売れに売れず、インフラも舗装も壊れたままで凍結され廃棄されるのを待つ、限界都市という空間となっている。
といって、シャッター商店や限界都市の内部で生活する人々は意外とさばさばしているのだ。もう自分の時代は終わった。でも年金も十分だし、このままほっておいてほしい。空き地が増えると楽になる気がするそうだ。確かに、建築はその意味では建っていることが罪のような原罪かもしれないと思う。ある家が解体され、空き地になるとなぜかほっとするものだ。そんな中から農のある生活、農地と宅地の相互乗り入れ、農水省と国交省の領域区分(都市計画区域とその外側等)の廃止などが真剣に議論されるようになってきた。エネルギーの自立に加え、食料の自立も都市空地の農園化で少しずつ可能かもしれない。図3-1、3-2は中心市街地が車中心の空間から、緑化され、人と自転車の空間へ移行する、スローライフ、人間回復の社会を示している。
<人口縮減都市のインフラストラクチャー>
人口減少によって縮減するGDPは、都市の予算、その中でも土木費といわれる都市インフラの維持費を圧縮してくる。それに対しては、道路舗装は砂利道で良い。コミュニティの共助で治せる。下水はゲリラ豪雨への対策(80㎜/h)ではなく、地中へ浸透させる。汚水も分散型浄化槽でうわ水は浸透させる。個人現金所得が少なくても豊かに暮らせる暮らし方もあるはずだ。デンマークのコペンハーゲン市の中心にあるエコビレッジなど、ヒッピー的生活だが参考になるはずだ。こうして都市中心部は農地化し、都市周辺の荒廃した農地は都市住民による働く場となるだろう。
このような都市の小さな空き地が駐車場の場合と芝生、樹木の場合とで隣地の壁面に与える太陽熱によるヒートアイランドの影響を東工大の梅干野研で検証したのが図4である。夏の場合で、アスファルトの場合は35℃にもなる外壁面は芝生で25℃、樹木では15℃まで下がり、快適な環境となる。
また、人口減少の比率以上に現在の若年層は車離れが加速している。都市から車が少なくなると、車線も少なくして、その分を自転車レーンや植栽帯として都市の緑化につなげることも可能となる。また、駅周辺では利便性を活かした高齢者住宅や若年層の住宅が期待できるが、ここでは800m圏内を歩行者空間に変え、緑多い中心市街地へと変身することが検討された。
さらに梅干野研の研究では土浦市の埋め立てられた運河を復興すると、都市の冷涼化への貢献は大変大きいという。これも都市のグリーン化の恩恵である。
都市のグリーン化には他に循環型社会への政策として、廃棄物の循環、産業界のCO₂排出量の削減として、工業団地の廃熱・利用工場等の効率化再編などの提案を行った。土浦市ではH社が中心となって廃棄物のリサイクル化、そしてゴミのエネルギー化と高炉セメント化に取り組んでいる。
3.建築のGreen Building化へ
2010年に洞爺湖サミットで日本が提唱し、合意された2050年までに世界中で50%の省エネルギーを達成すること、そのために先進国では80%の省エネルギーを義務付けることが提案され、国際公約となった。2012年に国交省・経産省・環境省の三省合同の「低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議」が行われ、最終的に省エネ法を改正し、2020年までに新築においてゼロエネルギーを達し、2050年までに既築もすべてゼロエネルギー建築にするという目標とそれに向けたロードマップが策定された。それ以降、日本の建築界はこの目標を達成することに全力で立ち向かっている。
<パッシブ型環境基本性能>
図5は環境建築を設計するに際し、検討すべき項目を表にしたものである。Ⅰは計画論的手法で、計画的に面積を削減したり、運営時間を減らしたりする手法である。Ⅱは外部環境による手法で、外部環境を緑化、水景化することによって、隣接する建物に熱を与えず、街区全体のCO₂排出量を削減できる手法である。Ⅲの空間設計における、面積や利用時間などの設計行為においても検討すべき手法がある。Ⅳの建築設計における9つのパッシブ型設計手法はこれからの設計者は誰もが知識としてでなく、体感的にも熟知しなくてはならない手法だ。
その下のⅤ、Ⅵはアクティブ手法であり、ここから先に説明すると分かりやすい。一般的にいわれている省エネ建築は、ソーラーパネルを屋根に載せるように、Ⅵの再生可能エネルギーをふんだんに使えば良いのではと思われているが、これでは、あばら家でもCO₂マイナス住宅を造ることができるということになる。そしてⅤの高効率機器の導入として、古い冷蔵庫やエアコンなどのCOP(エネルギー効率)の大きな家電製品や、LEDのような高効率照明器具などに交換することが手っ取り早く省エネ化する手法として経産省などが推奨している手法である。ところがⅣの9項目のパッシブ環境基本性能が十分満足されていて、パッシブ型の太陽光や地中熱利用により、少しのエネルギーが供給されれば、寒くない住宅を造ることができ、高性能の開口部などを採用すれば、ゼロエネルギーハウスも可能なことが分かってきた。一般的にはパッシブ型手法だけでもCO₂排出量は30~35%の削減が可能なのだ。
Ⅳのパッシブ型手法は、断熱性能や気密性能のように良く知られている性能もあるが、日射遮蔽と同時に、蓄熱の重要性を特に強調したいと思う。人の快適さに関する東京都市大学の宿谷先生の理論と実践で、単に空気温度と湿度だけが快適さの指標ではないことが分かってきた。冬季には、人の体と周囲の物体との間に温度差によって熱が放射線で移動する速度が遅い時を快適というのである。また、夏季では、肌から気流によって蒸発潜熱が奪われる状態も含めて快適性を検証した。60%の相対湿度の場合に、30℃の気温でも、20~50 cm/sの気流があれば快適と感じられる調査結果がでた。
この理論によると、単に空気温度をコントロールするだけでは快適にはならず、床下を温めて床暖房としたり、床に太陽熱を蓄熱するダイレクトゲイン、土壁に蓄熱するなど周壁、床の表面温度と人体との放射線による熱の授受が重要な要因であることが理解されるだろう。
そして換気を全熱交換換気装置で熱交換をするのも一つの手法だが、それも地中熱や排気熱を利用したパッシブ型の熱交換が出来れば余分なCO₂排出はしないで済む。日射遮蔽も同様、夏に太陽熱を絶対に室内に入れてはならないし、逆に冬には出来るだけ太陽光を奥まで入れて、土壁や床下のコンクリートなどに蓄熱することで安定した温度を保った室内を造ることができる。
<計画、空間構成による熱環境負荷の低減>
このような技術的手法に対して、Ⅰ、Ⅲの計画的、空間設計による手法が非常に大きな効果を与えることも知ってほしい。特に公共建築に携わる、自治体の政策、計画、設計者が深く考える必要がある。
Ⅲの空間構成による手法は、設計の与条件として、活動の種類、規模、空間必要条件を考える中から生まれるものと、設計の作業の中からアクティビティを構想するプロセスから生まれるものがある。前者の例としては、同じ部屋を幾つかの機能に利用できるようにしつらえて、時間をずらして重複して使い分ければ面積を少なくすることができたり、一つ一つの面積を小さくしたり、天井高さを低くしたりすることで必要エネルギー量を少なくするなどの効果がある。
Ⅰの企画段階での手法はもっとも重要だ。本来そのような施設は必要なのかという議論から始まり、既存施設の改修でも可能ではないのかを検討すれば、かなりの量が改築、新築をしなくても済むと考えられる。開発バブルを目論む事業関係者の要望や圧力によって、無駄な建設が行われることが無いよう、市民も十分に情報開示を求め、不要な財政支出を抑える議論を重ねる民主的なプロセスが大変重要である。
<まず外部環境を整えること、それから建築へ>
そして、Ⅱでは外部環境が隣の家のエネルギー性能にまで大きな影響を与えることが東工大の梅干野研究室の研究で明らかになってきた。さらに、外部空間の微気候を利用した設計手法も高い効果を上げている。南側は開放的にして、北側に防風林をという手法は、幼稚園の設計などで、南園庭が太陽熱で温められ、上昇気流が発生し、裏の森からの冷たい空気が建物を貫通して動くことにより、内部は通風により冷やされ、冷房機械に頼らずに涼しい空間をつくることなどに応用できる。
自然の力を良く考え、それを上手に建築空間と合わせて考えることは、昔から実は多くの工夫がされてきたのだが、これを新しい低炭素建築のパッシブ型手法として、様々に応用し、住宅から超高層建築にまで、窓回りの設計などに活かしていくことが今後のテーマとなるだろう。
このように、省エネのための手法は、単に再生可能エネルギーを導入したり、高効率の新しい設備機器を設置するだけでなく、パッシブ型の環境制御手法を設計に盛り込むことで、大きな省エネに通じるし、もっと川上側に遡って空間や活動を制御したり、企画段階で省エネを考えたりすることでさらに大きな環境配慮に通じることを理解することが大切だ。
これらのパッシブ型環境基本性能を基本とする環境建築の大事な点は、最終的に建築の全てを環境に配慮した省エネに貢献させることにある。
建築の断面形とその寸法を自然なエネルギーフローが生じる形となっていること、躯体を蓄熱体として利用すること、素材のLCAを考慮した選定は、LCCO₂の削減や、健康、省エネにも貢献していること、外部からのエネルギーを簡単にかつ十分に利用すること、などなど、建築の存在そのものが省エネルギー、低炭素社会づくりに関係していることが理想だ。
<省エネ基準化と地域型の住まい文化>
2012年のすまいと住まい方会議で省エネ化のロードマップが議論され、建築研究所から資料が提出されたとき、私はこのままではおかしな方向に行くかもしれない危険性を感じた。それ以前につくばで小泉氏がLCCM住宅を作ったとき、南側全面ガラスの大きさと屋根全面に12kwの太陽光発電設備が設置されているのに驚かされた。少なくともパッシブ型を推進していたはずの国総研や建研が、このような太陽熱を全面に吸収してしまい、大型の太陽光発電などでゼロエネルギーハウスとしてのモデルを提示した理由は何だったのか、真空ガラスの効果を見せようとしたのか、いまだに不明である。それに反してすまいと住まい方会議に提出された建研からのモデル住宅は建売の住宅のような小さな窓の家であった。私はすぐに噛みついた。一つはこんな稚拙な設計は大学の1年生でも行わない。モデルハウスとしてはもっと丁寧に誰もが真似ても良いものができる設計でなくてはならないのではないか。もう一つは窓が小さいことである。外皮性能を高めるために最も大きな障害が開口部である。高断熱・高気密性能の仕様を外壁や屋根に施しても、開口部がアルミ単板ガラスではU値(熱貫流率w/m2・K)6.5、アルミペアガラスでU値4.6という10倍、15倍の悪い性能の部位がある。これを基準の外皮性能に満たない場合は開口部性能を強化せよというのだ。強化ということはペアガラスをトリプルに変えたり、アルゴンやクリプトンガスを入れたり、Low-Eガラスなどに変えることを意味している。しかし、実際にはそのころすでに居間に幅1.6mくらいの開口部しかない住宅がエコハウスという名の業者に多くなってきていた。外皮性能を上げようとすると、ガラス面積を小さくするのがUa値を満足させる安直な方法で、コストを安くすることを命題としているハウスメーカーは、強化するといえば開口部を小さくすることが普通の感覚だと申し上げた。これでは日本の昔からの二間続き和室の南に、広縁の廊下と広巾の窓という住まいの伝統的文化が、消滅してしまうかもしれないと危機感を訴えたのだ。省エネのために、伝統的な住文化が失われて良いのかという根本的な問題提起である。しかも、温暖から亜熱帯の地域でも同じ0.87という平均熱貫流率以下という外皮性能基準に合わせることを義務付けしてのことである。
この会議の時の住宅生産課長はこの後、地域型住宅に関して各都道府県の行政庁がそれぞれで議論し、決めていくことを例外3という枠を設けて考えるようにしてくれたのは大きかった。この会議以降、私たちは伝統木造の人たちと議論し、調査し、各地で勉強会を開き、シンポジウムを日本建築家協会、建築士会連合会、建築学会、木の建築フォーラム、東京建築士会、木の家ネットなどと合同で開催し、提言を国交省に申し上げてきた。最も鋭敏に反応してくれたのは熊本の古川保氏、徳島の新居氏、高知の細木氏、山本長水氏、東京の渡辺氏、高橋氏、川越の綾部氏など、伝統木造の継承者たちでありながら、省エネ法への適合をどのようにしたらよいかを前向きに研究しようとしてきた実務者たちだ。最後は今年1月に京都建築士会の主導でシンポジウムを行った、「平成の京町屋」のライフスタイルで一次エネルギーを基準以内にできるという京大の高田先生らの主張も重要なものであった。
これらの人たちとの研究と考え方を鍛えた甲斐があって、2016年3月の国交省のガイドラインは外皮性能を問わないことと、地域でのコンセンサスを大事にすることを基本とする気候風土適応住宅を認定することに修正されたのは大きな収穫だった。それでもまだ、士会連合会では各県の単位士会に対し、県ごとにその風土や文化的歴史を検討したうえでの気候風土適応住宅として何を守らねばならないか、早くから勉強会、研究を進め、実務者と設計者、それに大学の研究者も加えた住まいの文化を守りかつ省エネ法への適合を適切な判断をもって議論できる人選をしておき、県から協議会などをつくる時には推薦できる体制を作るように勧めていくことを提言している。
<広窓パッシブ型ゼロエネルギーハウス>
筆者は2011年3・11以来、福島浜通りの課題に対して、一時は全体の再生可能エネルギーの提案と量の計算、復興の機会を前向きに発展させる低炭素都市の提案などを行った。その中で地域間エネルギーのデザイン化はSKY SOLARシステムとして各地で実践し、外国でも可能性を議論し、ウエールズ、カイロ、スリランカ、タイなどで提案してきた。同時に30年来行ってきた木製サッシの開発を22世代として、ペアガラスのサッシをダブル使いにしたクワトロサッシを開発し、これをもとにローコストのゼロエネハウスを完成させた。2015年には一般社団法人「木創研」を立ち上げ、4棟のゼロエネハウスを実現した。この社団法人はハウスメーカーではなく地域のプレカット会社を核にして、地元の設計者や工務店が作るゼロエネハウスである。しかも若い人たちが新しい家族を始める時から住めるアフォーダブルな住まいを提供する意図で始めたものだ。幸いいくつかの家には若い人が入ってきて、気持ちの良い空気を楽しんでいる。
最近のコメント