これからの建築 - ココに注目!
都市空間の中に写す経済のかたち
the represented shape of economy in urban space

経済が好不況の波をもって変動するように、都市もまた拡大や縮小を繰り返す。消費や労働を取り巻く社会の変化は日一日と加速しており、都市そのものも随時的に連鎖的に更新していくことが求められている。

青梅市街地の再生マネジメント

東京都青梅市、都市と農村の要素を併せ持つ人口13万6千人のまち。都心からJRの移動で1時間強。中心市街地再生タウンマネジメントチームの一員として2013年から着任して、4年目に入る。恵まれた自然環境、山も川も鉄道駅から徒歩圏である一方、旧青梅市街地は典型的な衰退地の様相をみせていた。もと宿場の骨格をのこす都市空間に個性はみられるが、投資や開業の目的地から外れ、不動産の硬直状況もまた手に取るようだった。マクロな視点で都市全体の更新のための事業連鎖を編み出すハブに見立て、再生のしくみづくりの先に都市空間をイメージすると、格段に面白く見えた。都市機能(行政、商業機能)が東部に分散してからそれほど時間が経っていなかったし、山川に挟まれた狭小な丘陵地という土地形状からして典型的なコンパクトシティの再現も似合わなかった。ここに適する新しい経済をどう構築し、都市空間を更新して行くのか。課題の大きさより瞬間的に脳に血が駆け巡ったことを思い出す。

宿場町の面影をのこす青梅街道

宿場町の面影をのこす青梅街道

エリアのポテンシャルを事業で確認する

当初、私以外のタウンマネジメントチーム(行政、商工会議所の中心市街地担当、以下TMチーム)のメンバーすら市街地の潜在性に懐疑的だった。新参者の自分には都市空間の個性を認める以外に情報は皆無なのだから、現状の市街地に不足する機能を補う実証事業や既存事業の見直しを繰返し行い、来場者の分析を重ね、ポテンシャルを示して行くことが必要だった。メンバーには市内の多くのイベントから集客のホットスポットがどんな傾向で現れるのかについて情報を集めてもらった。「当たり前な感覚情報」も、整理分析した上で事業に企画し直せる。我々は中心市街地の再生が自分たちの手で意義あるものに変えられる、という実感を強めていった。青梅は元来、市民活動は多様で活発かつクリエーター層の移住も多い所だったので、空き店舗の連鎖プロデュースなどでいとも簡単にまちを変えていけそうなものだったが、不動産所有者の再生活動への猜疑心は強く活用可能物件がほぼ無く、当初二年間は物件調査と所有者へのコンタクトを重ね、ソフト事業での気運づくりに専念した。

毎年5月3日の青梅大祭は15万人が来街する

毎年5月3日の青梅大祭は15万人が来街する

駅前に不動産係争で取り残された商業施設

駅前に不動産係争で取り残された商業施設

スーパーの退店と、マルシェの立上げ

市街地再生のポテンシャルと方針をつかみかけていた矢先、2015年1月、青梅駅前唯一のスーパーマーケットが建物係争で閉店してしまう。非常事態を重くみて市街地内でも、魚加工品の新店を地元鮮魚卸会社が開店してくれ、エリアのコンビニも倉庫や棚の増床をし、各生鮮店でも品揃えを増やすなど、逼迫対応は直後から広まった。スーパーは廃墟じみた商業ビルの低層階だけ営業の状態で、前年から退店の噂が飛び交い、TMチームでも代替地営業の働きかけや仮設店舗設置も水面下で検討していたが事業性からNGが出ていた。マルシェは止むを得ない最終策として、事業開発の委員会を商店街と立上げた。その時の委員会が原型となり、市街地経営の事業主体「株式会社まちつくり青梅」を4月に設立。合意形成の難所を登りながら、準備してきた材料を一気に組み立てる。前年の軽トラ市やビアガーデン等の実証事業で協力してくれた若手の生産者や事業者に声をかけ、9月には初回開催にこぎつける。地元の若手がスーパーに代わる場所を目指す物語をメディアが後押しし、集客は近隣住民を中心に手堅くすべり出した(本年度は、2ヶ月おき定例開催として現在進行中)。ちなみに、マルシェ開催候補地は市街地内に4箇所あったが、あらかじめ解析してあった既存店舗群との連携度の高かった住江町駐車場に決まった。商店街からも30店参加、全店均等に効果が出た訳ではないが、飲食店や物販店で売上げ貢献が確かめられた。商店街がこれまで行ってきた補助金を使った派手な町おこしイベントよりも来場が少ないのに、売上が立ったことについては、むしろ商店主から驚かれた。
こうした努力が実り、賃貸に同意する不動産所有者の開拓もすすみ、2015年9月にアキテンポ不動産の事業準備に着手。翌年1月物件展示ギャラリーを開設、見学会には50名の参加、物件数6を上回る賃貸申込みが集中、現在2店舗が契約後開業、その後も所有者側の事情に合わせながら開業支援を継続中である。

地域の事業者+商店街と立上げたおうめマルシェ

地域の事業者+商店街と立上げたおうめマルシェ

地域の産直野菜や苗、地元の工房プロデュースの0428Tシャツ(青梅の市外局番)

地域の産直野菜や苗、地元の工房プロデュースの0428Tシャツ(青梅の市外局番)

都市再生の究極の目的は1つしかない

衰退した地域であるほど、都市再生の目的は「地域に住み働く若年層を一定割合つくり続けること」に絞られていく。若年層のあり方は主に、①地元出身若年層の保留、②職業の場を求める若年移住者の誘致。①は教育のみならず、地域の大人が意識的に彼らを人材として育成する土壌が必要。青梅の事例では、青年会議所やおうめ若者カフェなど地域を支えるコミュニティになろうとする団体が我々の活動に何役も買ってくれており、様々なノウハウを交換しながら相乗効果を上げている。②には地域ごとに可能な該当職業(商業主、起業家、農林水産家、多様化がイノベーションにもなる)の着地環境づくりが必要である。生産者は、地域の安全網として日常的な衣食住供給に加え、中小規模の近隣流通業を支える意味でも引合いが高まるだろう。産業界とも目的を共有し複眼的に地域投資連携を進める取組みは急務である。

新しい都市空間を生むのは、良くも悪くも人の営みたる経済であり、地域社会そのもののデザインが問われている。金融経済は変わらず肥大しているが、地域への資本移転も少しずつ進んでいる。環境との共生、古い建物の保全活用は今や前提条件である。既往環境を活かすことだけではなく、都市空間を生み出す経済の領域にもどんな踏み込んだ提案ができるのか、あるいはそれをどのように都市空間に反映していけるのか。我々は都市に直面する限り、職能をはるかに超えていかなければならない時に来ている。

ラフティングやカヌーの若手事業者が、冬季に自伐林業家を手伝うプロジェクトが進行中

ラフティングやカヌーの若手事業者が、冬季に自伐林業家を手伝うプロジェクトが進行中

■おうめマルシェ
www.facebook.com/omemarche
■アキテンポ不動産
www.facebook.com/akitempo.ome
■青梅まちなかビアガーデン
www.facebook.com/omebeergarden
■マジ展2016
www.facebook.com/majimatu/
■チーム澤乃井:白帯
www.facebook.com/team.sawanoi
■青梅シネマ倶楽部
www.facebook.com/omecinemaclub
■株式会社まちつくり青梅
www.facebook.com/machitsukuOme
■hclab. 
http://hclab.jp/

國廣純子

青梅市タウンマネージャー。1976年広島県呉市生れ。慶応義塾大学経済学部、東京理科大学工学部二部建築学科卒。日本銀行にて統計企画専門職を経て建築系へ転向。三分一博志建築設計事務所にて犬島アートプロジェクト担当後、北京市のローカル都市計画建築設計会社で国際プロジェクト部長をつとめ、日中協同チームの編成、プロジェクト責任者として内モンゴル、西安等の遺跡エリアの都市計画に参画。2010年より都市研究ユニットhclab.=市川創太、新井崇俊と共同主宰。2013年より現職。

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