海外建築事情
ラオスにおける土地利用規制・建築集団規制の制度構築
Formulation of Land Use Plan and Zoning Code in Laos

1.はじめに

ラオスは、東南アジアで唯一の内陸国であり、周囲は5カ国に接している(下図)。広さは24万km2(日本の本州とほぼ同じ)、人口はおよそ680万人、産業としては水力発電(隣国タイなどに売電)、鉱物資源などがある。

1

ラオスの首都ビエンチャンにおいては、用途地域、建設許可、建築集団規制(高さ、建ぺい率、容積率、壁面後退等)などの制度があるものの、現状の都市開発動向と矛盾した用途地域、過剰な要求基準等の問題を多く抱え、その結果、社会的に規制を遵守する機運に欠け、超法規的な制度の運用、多くの違反建築の存在等の問題が生じている。そこで、JICAの技術協力「ラオス国都市開発管理プロジェクト」のもと、新しい用途地域を都市計画に定め、開発許可や建築許可の制度を整備し、合理的な建築集団規定を定め、合わせて違反対策の手法も確立して、都市開発や建築行為を適切に誘導するための制度構築を進めている。
筆者は、2013年10月から、JICA派遣専門家として国土交通省からラオスに派遣され、この作業に関わっている。以下、その現場をレポートする。
なお、ラオスでは、近年、超高層の建築なども始まっており、なかには防火安全性等に関し危惧されるものもある。建築単体規定(構造の安全性、防火安全性等)は、まだラオスでは定められておらず、大規模な建築物も基本的には建築主・設計者・施工者の判断で建築されている。今回のJICAプロジェクトは建築集団規定に関わる制度の構築を目的としているが、別途、建築単体規定の整備もラオスにとっては喫緊の課題として存在している。

2.General City Plan

これはラオスの都市計画法に規定されているもので、内容的には日本の都市計画マスタープランに近い。プロジェクトでは、首都ビエンチャンの新しいGeneral City Planを提案し、首相決定のための手続に入っている。下図は、その中でも土地利用規制を行う地域の計画図である(面積62,000 ha。東京23区程度)。

新しい都市計画マスタープラン(案)

新しい都市計画マスタープラン(案)

細かくは17種類の土地利用に分割しているが、おおまかには次の3つのグループに仕分けできる。
a. 市街化を抑制する区域
図では黄緑色の地域(約25,000ha)で、62,000haの概ね周辺部に位置している。現行用途は農地、林地等であり、日本の市街化調整区域のような開発規制・建築規制を行う。なお、濃い緑の地域(約2,000ha)は主に水面で、こちらも市街化を禁止する。
b. 市街化を促進する区域
市街化を促進する区域として、すでに市街化が進みつつある区域(赤色、約6,000ha)、工業団地の誘致を計画している区域(紫色、約3,000ha)、及び2011年に政府が開発促進の方針を発表した区域等(空色、約10,000ha、現況はまだ未利用地が多い)を含み、合計で約19,000haである。これらの地域では、民間セクターによる面的な開発が期待されている。しかし、経済特区や開発の許可(コンセッションの許可)が一部されているものの、実際の建築行為はあまり進んでいない。
c. 既成市街地
上記以外の区域は、約15,000haの既成市街地である。これらの区域には、用途地域と建築集団規定を準備しており、一部地域は本プロジェクトの期間中に都市計画決定と新しい基準の施行を予定している。

3.Detail Land Use Plan and Zoning Code

これは建築許可の判断基準となる「用途地域」と「建築集団規定」である。ラオスはフランスの植民地だったので、現行の規制は、フランスの都市計画・建築規制を参考にして作成された。例えば、日本では国が集団規定を作成し、地方が用途地域を定めれば自動的にその集団規定が適用される(もちろん、近年では地方が独自の規制を適用することの自由が拡大している)のに対し、ラオスでは、国はモデル的な基準を示しているだけで、地方ごとに集団規定をセットで全部決定する。なお、集団規定(用途、高さ、建ぺい率、容積率、壁面後退、外観等)の項目の数は、国が合計15と定めている。これはフランスと同じである。以下は、ラオスにおいて特徴的な項目である。

(1)高さ規制
建築物の高さ規制は、国や地域によってさまざま(道路斜線、絶対高さ等)であるところ、ラオスの現行基準では、通常、1階の床から最上階の天井までの高さを規制するものとなっている。つまり、1階の床から下、及び天井から上の小屋組部分は、建築の高さに参入されず、規制の対象外となっている。集団規定は基本的に建築物の外形を規定すべきところ、特異な基準である。新基準では、現行の考え方を尊重して絶対高さでの規制を基本としつつ、一方で、最高高さの算定は、建築設備を含めてすべてを参入することとしている。ただし、ラオスの伝統的な寺院等の建築物では大屋根をかけることが一般的なので、このような伝統工法の屋根は高さ制限の対象外としている。

3

(2)道路からの壁面後退
ラオスの都市計画においては、道路ネットワークの計画は定めているが、個々の計画道路の位置は通常、特定されない。一方、狭小道路を含め、原則としてすべての既設道路について壁面線を指定している。壁面線と道路境界との間(Reservation Zoneと呼ばれている)は建築敷地の一部であり、私的な土地使用が認められている(ただし、原則としてその部分に建築することはできない)。この規制は狭小道路にも適用されていて、日本の二項道路の拡幅のような考え方が盛り込まれているとも言える。新基準ではこの壁面線を引き継ぐ一方、現行基準のもとではReservation Zoneにおいて日よけや低床等の設置が暗黙に了解されていることから、壁面線の制度の明確化、Reservation Zone内で建設が認められる行為の明確化などを行う。

4

(3)歴史地区の景観規制
ビエンチャンの歴史地区(古くは城壁で囲まれていた区域、190ha)には、歴史的な経過の中で、写真のような建築物が多く残されている。これらの保全と新築に対する景観誘導を目的として、新しい集団規定の中では景観規制条項を入れている。合わせて、広告物及び看板の規制を新設する。
なお、ラオスの古い都であるルアンプラバーン(ビエンチャンの北、約200km)は、1995年に世界遺産に登録されており、
○2階建て以下
○道路に平行に棟を有する屋根の設置
○ラオスの伝統工法又はフレンチコロニアル様式
等の建築規制を実施し、合わせて広告や看板の規制を行って、良好な街並を保全してきた実績がある。

5

4.許認可制度の整備

開発区域内に道路を新設するような面整備の場合(住宅団地開発のような場合)、多くの国では、開発許可制度を通じて公共施設(道路、排水施設等)の計画と工事を行政が管理している。ところが、ラオスでは行政に財政的余裕がなく維持管理の予算が乏しいことから、開発で建設された公共施設の移管を受けていない。そのため、民間開発による公共施設の計画及び建設の段階で行政の管理が乏しい。新制度では、開発許可制度を新設し、民間開発における公共施設の計画及び建設を管理することとしている。そのほか、既定の都市計画基準に適合しない開発計画等であっても、開発の許可が検討されてしかるべき場合の特例許可の制度や違反対策の制度化などを予定している。

5.近年の都市開発動向

首都ビエンチャンでは、2008年頃から都市開発を内容とする経済特区が5地区(合計2,000ha程度)指定され、50~100年程度の土地使用権を付与して開発を認めるコンセッションも多く出されている。ただし、開発の権利は得たものの工事には入らないという状況がしばらく続いていた。それが、中国国内で投資環境が悪化した2014年頃から、行き場を失った投資マネーがラオスに投資され、それらの開発が一部動き出している。大型ショッピングセンターは幾つか開店し、超高層のホテルも建設中である。ただし、中国本土と同じように、建設されても使われない、といった開発物件も多い。
いずれにしても、開発に向けた動きはあるので、それらを将来に向けて適切にコントロールする制度の構築がまさに必要となっている。

長谷川知弘

国土交通省勤務。日本国内における都市・建築・住宅に関連した業務経験を経て、2013年10月からJICA専門家としてラオスに派遣。ほかにインドネシア・タイに派遣された経験もある。

この投稿をシェアする:

コメントの投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA