都市空間デザイン研究室(及川研究室)
及川が立命館大学に赴任したのは2003年です。翌年に建築都市デザイン学科が新設されました。これまで13年間に学部生129名、博士前期課程45名(うち留学生7名)、博士後期課程1名が研究室を巣立ちました。2016年現在、学部4年生と院生、計24名が在籍しています。分野別の名称は「都市空間デザイン研究室」ですが、学生たちは通称で「おいけん」と呼んでいるようです。
及川自身は、「調査・解析・実践」という3つの柱をもとに活動を継続中です。調査とは、主に“世界の伝統的住居・集落調査”です。1990年から2009年まで、東京大学生産技術研究所の藤井明教授や院生とともにアジア・中南米・アフリカ・中東などの地域を対象として、計14回、約300箇所の集落調査を実施し、居住文化の特性について実証的な研究をしてきました。立命館に来てからは、ラオスとベトナムの集落調査を行いました。
ふたつ目の柱は、 “空間特性の形態学的・幾何学的な観点からの解析”です。いわゆる都市解析の分野に相当し、建物配置や土地利用、ネットワーク、景観、流動、可視領域などを対象として、空間特性の描出を試みています。及川研究室では、学部4年生に対して「小論文」(卒業論文の中型版)を夏休み後に提出することを義務づけています。これは研究室独自のシステムで、卒業研究(設計/論文の選択制、研究室の学生の8割近くは設計を選択)と並行して進めます。小論文・卒業論文・修士論文ともに、建築・都市空間の数理的解析が中心で、科研費や共同研究の内容に沿った論文もあります。
さて、3つ目の柱である実践とは“建築設計や都市空間計画の実践活動”です。及川自身はキャンパス計画室を兼務していますが、研究室としては、コンペや商業ビルの設計、町家再生、都市整備計画などを実践してきました。以下、これまでの実践活動を最近5、6年間に限ってその内容の一端を紹介します。(及川)
守山小学校・幼稚園・市民交流施設・親水公園(2008~2012年)
滋賀県の守山小学校・幼稚園の合築計画は、2008年にその基本構想を及川研究室と武田研究室(ランドスケープデザイン)が担当しました。保護者や教員、市役所職員の方々との議論を経て、「中庭を核とした地域に開かれた学校づくり」をテーマとして構想案をまとめました。この建築は、幼稚園と小学校の合築に中心市街地活性化交流施設(あまが池プラザ)を加えた複合施設であり、さらに河川の流路を変更した親水公園と一体化したもので、特異な複合形態です。大きな中庭は、幼稚園の園庭・小学校のテラス・親水公園で構成され、園児・児童・教職員・市民が共有する空間として提案しました。
実施設計と施工の段階では、室内外の材料・色彩計画を及川研究室の学生たちが担当しました。仕上材の選定や床・壁・天井のパターン・色彩をはじめ、トイレの壁面、普通・特別教室の内装、廊下の壁画など、学生たちのオリジナル・デザインが随所に散りばめられています。特に、園児用プール前の壁画は研究室の学生たちがペンキまみれになって、自分たちで描きました。設計実務や施工技術など、大学の講義では得られない知識や経験が体得されたと思います。(及川)
ボリビア実験住宅(2009~2010年)
建築家の原広司先生には、建築都市デザイン学科設立当初から客員教授を勤めて頂いています。及川が原研究室の出身ということもあり、原先生の南米の実験住宅プロジェクトに研究室として参加しました。場所は、モンテビデオ、コルドバに続く第3弾としてのラパス (ボリビア)です。2009年から原先生の指示のもとで、研究室では模型製作にとりかかりました。その後、数十枚に及ぶ原先生のスケッチをCAD図面におこし、木製パネルから小さな金具に至るまで、部品のリストアップと見積もりを行いました。ボリビアとは建築事情が異なる上に、建設コストが非常に厳しく、何度も原先生を中心として関係者で国際ビデオ会議を開きました。会議は日本時間の深夜から始まり、日本語・英語・スペイン語が飛び交いました。
2010年に藤井健史助手と及川研究室の4人の院生が1ヶ月ほど現地ラパスに滞在し、アトリエ・ファイ建築研究所、ラパスのサン・アンドレス大学の学生、若い建築家たちと共同で実験住宅のインスタレーションの建設に携わりました。地球の裏側でのセルフビルドは、貴重な経験になったと思います。(及川)
野洲駅南口周辺整備構想(2013~2014年)
滋賀県のJR野洲駅南口周辺のにぎわいづくりを目的として、野洲市と滋賀県立大学松岡研究室、立命館の及川研究室の三者がコンソーシアムを形成して、市民とともに駅前構想を練り上げてきました。「心と体の健康をテーマに、人と人とがつながることで生まれるにぎわいづくり」を基本理念にかかげ、市民広場を核として、新しい病院や市民交流施設、アリーナ、図書館分室、商業サービス施設を配置する計画を提案しました。
両研究室の学生は、施設に赴いて中学生や子育て世代、高齢者など世代別のヒアリング調査を行いました。また、計3回の市民ワークショップにも主体的に参加しました。リーフレットの作成やヒアリングとワークショップの広報も学生たちが担当し、構想発表会では、市民の前でポスターセッションを行いました。一連の経過は研究報告書としてまとめました。学生たちの意見や、苦労して作成した模型の写真・CG・パースもその中に含まれています。
ワークショップでのファシリテーターの役割や滋賀県立大学の学生との協働は、とても良い経験になりました。(茨木香穂里・宮田侑果利、2016院修了)
高島市駅前広場再整備計画(2014~2015年)
滋賀県高島市内におけるJR6駅の駅前広場とその周辺の再整備計画です。最初に、6駅周辺のまち歩き調査を実施し、写真撮影やスケッチをしながら、まちの長所や問題点を調査シートに書き出しました。また、ヒアリング調査も行い、市民やタクシーの運転手さん、商店街の方々などに対して、駅周辺の利便性や問題点などについてインタビューしました。それらの結果をまとめながら、駅前広場の担うべき役割や課題解決の建築的方法を学生たちで議論しました。
さらに、数回の庁内ワークショップに参加して、市職員やコンサルタントの方々とともに、市民の意見を踏まえながら、各駅周辺における整備課題を精査し、計画の基本方針や具体的内容を検討しました。最終的には、駅前空間のイメージパースを作成し、まち歩き調査・ヒアリング調査・市民アンケート調査の分析と考察を含めて研究報告書としてまとめました。
駅前を歩いている人にインタビューすることに最初は緊張しましたが、駅周辺の雰囲気や住民の方々の声を肌で感じることができ、ワークショップにも参加し、学生独自の視点から駅前空間のありかたを提案できたことは大きな収穫でした。(茨木・宮田・北本)
小豆島地域活性化プロジェクト・瀬戸内国際芸術祭2016(2012年~)
小豆島プロジェクトは、及川研究室の松宮かおるさんが博士課程在籍中に、小豆島の地域おこし協力隊から依頼を受けて始まった地域活性化プロジェクトです。これまでに何度も現地へ足を運び、島民へのヒアリング調査、地元関係者との協議を継続しています。木造の小学校を地元農業者のコミュニティ施設(集会・産直市場等)にコンバージョンする計画を提案し、設計・建設活動に参加して「ファームステーション安田の郷」の完成をみました。当時、松宮さんと及川研究室の後輩を中心に、「しょうどしまーず」というプロジェクトチームが組織されました。その後、鉄骨造の付属屋もハーブ園として再生する計画を提案し、2014年には、現地に泊まり込み、給水方法を工夫した「ハーブステーション香の郷」をセルフビルドで施工しました。
2015年には、2016年に開催される瀬戸内芸術祭のイベントの一環として、ファームステーションを体験型農業食堂とする内外装計画を小豆島町から依頼されました。現在、秋のオープンに向けて、セルフビルドでスムーズに作業ができるようにモックアップを繰り返しながら試行錯誤を繰り返しています。瀬戸内芸術祭で小豆島を訪れた際には、是非お立ち寄りください。(北本)
研究と実践の両立
及川研究室では、このように研究室の学生を巻き込んだ多彩なプロジェクトを展開しています。研究論文と建築・都市プロジェクトを同時にこなす能力が求められます。小論文、卒業設計/卒業論文、修士論文/修士設計の取り組みに加えて、今年度は、東京・国分寺の戸建住宅計画の受託研究も受けており、小豆島の瀬戸内国際芸術祭のプロジェクトとあわせて、慌ただしい日々が続いています。(北本)
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