レポーター報告(鳥取県)
建築学科の実践的教育に取り入れた高専図書館情報センターリニューアル
Renewal of National Institute Technology Library & Information Technology Center incorporated into project based learning of the Department of Architecture

1.リニューアルの概要

広場から

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米子工業高等専門学校の図書館情報センター(以下、図書館)建物は1972年に建築されて以来、2014年春にはじめて全面改修された。耐震改修が主な目的であったが、機能的にも不具合が多く古くなっていたため、プランやゾーニングなども見直した。また高専という技術者教育にとって本を読むという根本的な教養教育が創造性を育むために大切であるとの校長の理念に基づき、学生たちが気楽に訪れ、じっくりと本を読んだり、勉強することのできる学習の場づくりを目指すことになった。

4コンセプト説明用 v2016B

基本計画は、建築学科教員が中心になって「どこでも本を読める創造空間」をコンセプトにとりまとめ、事務の一元化や交流プラザ(雑誌閲覧・自習スペース)、デッキテラスなどの空間を新たに創出した。その後インテリア計画などは、専攻科1、2年生の製図授業の課題としても取り組んだ。これまで建築学科の教育では、実践的に地域の課題や身近なテーマを設けて取り組んできていたが、中でも自分たちが使っている校舎建築の改修を学生たちと取り組んだ教育実践はあまりなく、今回はじめて事務職員から校長まで多様な方々にも参加してもらいながら授業で取り組んだ。それにより、図書館空間そのものも利用者や管理者の意見が取り入れられて内容が充実し、教育内容としてもより実践的で充実したものになったのではないかと考えられる。
インテリア計画では、校長や図書館担当教職員も参加し、ワークショップ形式で提案のとりまとめを行った。さらに、実施設計は地元設計事務所が担当したが、学生によるインテリア計画の提案発表なども行い、打ち合わせには学生たちも参加した。またインテリア計画の中でも絵画の展示計画は、同じく専攻科1、2年生の授業でコンペとしてグループ別で提案し、校長にプレゼンテーションした。
加えて外部空間の前庭広場もゼミ授業で学生たちが提案し、これをもとに広場も改修した。その後、工事中にも学生の種まき教室や、見学会を実施し、図書館のリニューアルを様々な形で実践的な教育に取り入れた。
さらに、図書館リニューアルが終わってからも、卒業設計のひとつとして、学生がサイン計画を設計し、さらに制作まで行い設置した。その中では、最近の3Dプリンタを活用した文字サインの掲示ができた。

2.インテリア計画

ワークショップ中の学生と教職員

ワークショップ中の学生と教職員

校長に模型でプレゼンテーションする学生

校長に模型でプレゼンテーションする学生

図書館内の本棚や閲覧机の配列とデザインはインテリア計画として重要な部分である。そこで、専攻科1年生の設計課題として閲覧室と交流プラザの計画を中心に取り組んでもらった。閲覧室内は静かな空間、入口近くの交流プラザは動の空間として、それぞれの特徴にあわせた家具や配置などを計画した。専攻科1年生6名に加えて、ワークショップ時は専攻科2年生5名も参加し、さらに校長や図書館長、図書係の事務職員、実施設計事務所スタッフにも参加いただき、意見交換を行った。最終的に、図面や模型、スケッチで表現し、校長や実施設計事務所にもプレゼンテーションした。実施設計の打ち合わせにも参加し、基本的な書架の配置など取り入れられるところは取り入れてもらった。

交流プラザに新設されたベンチ付き本棚

交流プラザに新設されたベンチ付き本棚

新たに設置されたデッキテラス

新たに設置されたデッキテラス

外部デッキテラスとガラス張りでつながる静かな閲覧室

外部デッキテラスとガラス張りでつながる静かな閲覧室

3.絵画展示計画

図書館リニューアルに合わせて、地元で活躍された画家のご家族(米子高専卒業生)より、絵画を寄贈してもらうことになった。まずは、大きなものは2m角にも及ぶ大小200点あまりの絵画の見本写真とサイズ号数について教員と学生が整理を行った。
その後、2013年度の専攻科1年「創造設計実習」および専攻科2年「企画デザイン論」の中で2ヶ月間のショート課題として、新図書館への絵画50点余りの展示計画を行った。この絵画展示のねらいとしては、本校教職員の交流の場としての賑わいを創出すると共に、創造性豊かな技術者に必要とされてきている芸術や教養に関する素養を磨くためのきっかけになって欲しいという願いもこめられている。
学生たちの展示提案では、絵画で描かれている大山・自然といったモチーフや色味を整理し、動的・静的な空間構成との相性や照明配置も考慮しながら、「歩きながら季節を巡ることができる」といった感覚が得られるような展示計画を作成した。現在、この提案図を元に図書館内の柱や壁面には額装された絵画が多数展示してあり、書架・読書家具・絵画展示が一体となった豊かな空間を生み出している。

学生たちがまとめた絵画展示計画の図面1

学生たちがまとめた絵画展示計画の図面1

学生たちがまとめた絵画展示計画の図面

学生たちがまとめた絵画展示計画の図面2

4.広場計画

米子高専図書館前の広場は、2014年の秋に「学びと憩いの広場」と名称を変えて新しく生まれ変わった。これまで十分に利用されていなかった広場を、いつも学生でにぎわう、四季折々の植物であふれる広場に再整備するというものであった。この再整備では開放的な雰囲気を持つ学びの場へと生まれ変わった図書館との視線や動線のつながりを重視し、昼休憩や放課後、文化祭などのイベント時において、学生たちの活動が多く生まれることを目指している。
計画段階では、建築学科4、5年の学生が利用者の立場の意見を生かした提案を行い、その案をもとに校長や教職員と議論する機会を設けた。また、2014年11月には、植栽計画に協力いただいている造園家の指導のもと、「種まき教室」を開催し、学生や教職員など約30人が参加した。参加者は植栽した樹木の特徴や植栽方法、育て方などを教わりながら、下草(グランドカバー)の種まきを行った。グランドカバーには「ワイルドフラワー」という、一度に数十種類の種子を混合してまく手法がとられ、季節に応じて草花が次々と咲いている。
このように、整備段階から学生が関わる機会を多く設けてきた。広場はこれで完成ではなく、今後もワークショップなどを通して、ランドスケープデザインや植栽計画を学ぶ機会を設ける予定である。

広場計画の図面

広場計画の図面

種まき教室の様子

種まき教室の様子

5.サイン計画と制作

図書館内のサイン計画は、基本的な案内サインや室名サインは建築学科教員が担当したが、書架案内サインや書架の分類サイン等、閲覧室と交流プラザのサインを中心に卒業設計で学生が取り組み、設置まで行った。
必要なサインをあらいだし、制作方法も検討した。受付の背面につけたLibraryの文字サインは最新の3Dプリンタを使ってデータ制作から出力し、塗装などして設置まで行った。その他書架分類サイン等はプリンタで出力して設置した。

学生による卒業設計の図面

学生による卒業設計の図面

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高増佳子

米子工業高等専門学校建築学科准教授。建築デザイン。一級建築士。1968年大阪府生まれ。1993年京都府立大学大学院住環境科学専攻修了。1993年から1996年株式会社乃村工藝社デザイナー。1996年より米子高専助手。1998年SDレビュー入選「考えごとの家」。2003年より同校准教授。

細田智久

米子工業高等専門学校建築学科准教授。建築・地域計画。博士(工学)・一級建築士。1974年島根県生まれ。1999年豊橋技術科学大学大学院修士課程修了。2000年より同大学助手・助教。2009年より米子高専講師・准教授。

小椋弘佳

米子工業高等専門学校建築学科助教。都市計画。博士(工学)。1984年鳥取県生まれ。2009年千葉大学大学院修士課程修了。2010年より米子高専助教。2016年長岡技術科学大学大学院博士課程修了。

熊谷昌彦

米子工業高等専門学校建築学科特任教授。建築・都市計画。工学博士・一級建築士。1952年福岡県生まれ。1983年東京工業大学大学院社会開発工学専攻修了。1983年から1985年東京工芸大学・広島工業大学助手。1985年米子高専助教授。1998年同校教授。2015年同校特任教授。

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