研究室の概要
新潟大学都市計画研究室は、これまでに樋口忠彦先生(景観工学、新潟大学名誉教授)をはじめ、多くの先生が運営に携わってこられた研究室です。現在は岡崎篤行研究室と松井大輔研究室の二つの研究室によって構成されています。両研究室あわせて学部4年生8名、博士前期課程の学生8名、博士後期課程の学生1名の計17名の学生が在籍しています。
私たちの研究室では都市計画・まちづくり全般を研究対象とし、特に歴史的景観の保全や都市デザインの手法に関わる研究に力を入れています。例えば、新潟・富山県内で歴史的景観の実態や都市形成史に関する調査研究を実施し、全国規模で景観計画・高度地区などの景観保全の手法について研究を展開しています。さらに、アメリカとカナダをフィールドとして、文化財保全制度やナショナルトラスト運動に関する研究も行っています。
新潟大学建設学科では毎年4月に学部4年生が研究室配属となり、配属された学生は上記の研究を中心に卒論テーマを選択し、進めることとなります。また、研究と並行してプロジェクトにも参加し、まちづくりの現場感覚を、実践を通して学んでいくこととなります。まさに「地域が我々の教科書」といった環境です。さらに、大学院に進学した学生はリーダーとしてプロジェクトを切盛りし、住民と密接に関わるなかで、よりディープなまちづくりを学んでいきます。現在、岡崎研究室を中心とした古町(新潟市)と村上(村上市)、松井研究室を中心とした下町(新潟市)と城端(南砺市)と宇奈月(黒部市)の5つのプロジェクトが進行中です。このほかに他大学の研究室と連携して花街空間研究会を立ち上げ、東京や京都でもプロジェクトを進めています。これらのプロジェクト活動の詳細は、都市計画研究室のfacebookページで随時紹介していますので、ぜひご覧ください。
( http://www.facebook.com/niigata.univ.urban.design.lab/ )
研究と複数のプロジェクトを掛け持ちし、学生たちは忙しい毎日を過ごしています。ただ、このような状況を楽しみながら、真摯に都市と関わりを持ってくれる学生が多いところが、私たちの研究室の強みだと思っています。地域との関わりのなかで、各地のまちづくり・都市計画に関わる多くの人々の熱意に触れ、卒業後も継続的にまちづくりに関わってくれるOB・OGも多くいます。これからも、このような卒業生を地域に送り出せるよう、研究室全体で研究とプロジェクトを進めていきたいと考えています。
以下では、プロジェクト活動の一例として、花街空間研究会に関する活動と城端プロジェクトについて学生から報告してもらいます。(松井)
花街空間研究会の取り組み
花街は日本の伝統文化や景観を今に継承する希有な都市空間です。しかし、近年はその風情ある景観が失われつつあるという問題を抱えています。新潟大学をはじめとして複数の大学の研究者によって構成される花街空間研究会は全国各地の花街を対象として、歴史的景観の実態やエリアマネジメント・プロモーションの手法などを研究しています。ここでは、花街の風情ある景観をより良いものへと演出する手法として、京都と新潟で私たちが取り組んでいる活動の内容を紹介します。
提灯掲出の調査と実践
京都には祇園甲部・祇園東・宮川町・先斗町・上七軒という五つの花街があり、京都五花街と呼ばれています。それぞれの花街では統一した提灯が掲げられており、これが花街の風情ある景観を演出する一つの要素となっています。各花街において、提灯はお茶屋や置屋といった花柳界の建物だけでなく、一般の飲食店の軒先にも掲出されており、まち全体で景観を演出しようという強い意志を感じることができます。私たちの研究室では、平成26年度に各花柳界の関係者に対してヒアリングを行い、まち全体で提灯を掲出する仕組みについて調査しました。この調査を通して、提灯の種類や入れ替えのタイミング、提灯を一括して仕入れる仕組みなどが明らかになりました。
現在は、京都五花街の調査で明らかになった提灯掲出の仕組みを参考にして、新潟市の古町花街で提灯による夜間景観の演出を試みています。これまでに掲出する提灯のデザイン案の検討、夜間景観のシミュレーションの作成、元置屋の建物における掲出実験などを行いました。掲出の予算など解決すべき課題は沢山ありますが、古町花街に提灯の並ぶ風情ある景観ができることを目指してプロジェクトを進めています。
先斗町軒下花展への参加
提灯掲出よりも少し簡易的な、しかし来訪者の視線を花街の町並みに向けるための効果的なツールとして、建物の軒先に花を並べてまち全体を演出する軒下花展というイベントにも注目しています。これは先斗町まちづくり協議会が主催する「先斗町 このまちに、花」というイベントで、今年は2月に開催され、私たちの研究室からも3名が参加しました。先斗町通りに花を置くことは、花の背景にある町並みへと来訪者の視線を誘導するという効果を生み出します。さらに、「どのような花を置くと、先斗町の雰囲気を引き立たせることができるか」ということを、花いけワークショップを通して住民に自問自答してもらうという仕組みで、住民が改めて先斗町の細かなところ(建物の意匠や道の形状、植栽など)を振り返るきっかけとなっていました。つまり、花をいけて、通りに置くという行為が、住民の町並みに対する興味を刺激する機会になっているという点がとても勉強になりました。
さて、この軒下花展も先斗町で学んだアイディアを参考にしながら、古町花街でも展開できないかと模索しています。先斗町は先斗町通りを中心とした線状の花街ですが、古町花街は面的に広がる花街です。そのような花街の形態の違いを上手く考慮しながら、古町花街らしい演出の方法を考えていく予定です。(久保、宮島)
城端プロジェクト
富山県の南西部に位置する南砺市城端は、真宗大谷派城端別院・善徳寺の門前に開かれ、江戸期から五箇山・白川郷で生産された生糸を用いた絹産業で栄えました。地区内には多くの町家と、絹織物工場をはじめとした絹産業遺産が残存しています。毎年5月には城端曳山祭が開催され、歴史的町並みのなかを荘厳な曳山と優雅な庵屋台が巡行し、町家の前で庵唄が披露されます。歴史的町並みと伝統的な祭事が見事に調和した風景はとても魅力的です。一方で、地方の小都市である城端は人口減少や高齢化に伴う建造物の取り壊し、空き家の増加といった問題を抱えています。特に、城端曳山祭で庵唄の所望宿として用いられる町家が解体されてしまうことに、住民は強い危機感を持っていました。そこで、平成25年度に「城端生き活きプロジェクト」が発足し、定住・半定住人口を増やすための取り組みを開始しました。さらに平成27年度に「一般社団法人城端景観・文化保全機構」が立ち上げられ、町家の購入・改修が進められています。私たちの研究室は、この地域の伝統文化とともにつくられてきた歴史的町並みを次世代に繋げることを目的として、これら二つの組織と協力しながら、まちづくり活動をバックアップできるような基礎的情報の提供と夜間景観の演出に取り組んでいます。
平成27年度の城端プロジェクトは、絹産業遺産の調査と祭事空間の灯りに関する調査、行灯を用いた路地の演出、歴史的建造物の自主表彰制度の仕組みづくりなどを行いました。全てを説明すると長くなってしまうので、ここでは祭事空間の灯りに関する調査を簡単に紹介します。この調査では、城端曳山祭の開催中に庵唄が披露されている町家を巡り、照明にどのような工夫が施されているかを調べました。また、この結果を用いて住民とワークショプを開催し、より良い照明による演出の手法について検討を行っています。また、9月の城端むぎや祭では灯りによる新たな都市空間の演出を行うために、路地を行灯で照らす「灯りの小径」を開催しました。ここでは花街空間研究会の提灯掲出の調査や先斗町の軒下花展を参考にしながら、夜間景観を演出する手法を検討しました。幸いにも多くの住民に喜んでいただき、今年度も実施できそうです。
以上のように、城端プロジェクトでは様々な人と関わりながら、調査と実践を同時に進めています。平成28年度も城端曳山祭から調査を開始し、城端の魅力的な町並みを次世代に繋げる仕組みをしっかりと考えていきたいと思っています。(渡邉)
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