建築時評
アーキニアリング・デザイン 凱旋展 2015
Triumphal Exhibition of Archi-Neering Design 2015

2008年、建築会館からスタートしたAND展は約8年間でさまざまな形での巡回展等を行ってきたが、その開催数は21回となった(表1)。当初制作された約120点の模型の数も次第に増え各会場ごとに新しく参加した作品も加えるとおそらく200点をこえると思われる。

表1 アーキニアリング・デザイン巡回展一覧
1.全国巡回展 2008~2010(11会場)
東京(建築会館)/九州(福岡)/北陸(金沢)/北海道(札幌)/東北(仙台)/近畿(京都)/東海(名古屋)/中国(広島)/四国(香川)/関東(埼玉)/東京凱旋展(マルキューブ)
2.AND展2011-UIA東京大会
3.台湾巡回展2011-台南・台北
4.ミニAND展(建築会館)2012-2013
5.中国巡回展 2014-2015(5会場)
上海/広州/武漢/南京/北京 
6.凱旋展(東京・CST) 2015-2016

国内も国外もトラック輸送等の制約があるため巡回展では100点余の模型に限定せざるを得なかったのは残念であった。その運搬・設営・撤収・収納といった複雑な作業サイクルが効率的かつ適切に克服できたのはコア・メンバーの工夫・努力とそれを支援・協力してくれた多くの学生諸君のお陰である。そして何といっても「模型達」にはご苦労をかけた。紙と木といった頼りない素材でつくられた小さな模型は展示期間中に繰り返し修復されながらも長期間何とか形を維持して頑張ってくれた。中国巡回展を終えて無事帰還できた東京展はまさに「お疲れ・凱旋展」。8年間のAND展におけるさまざまな感謝の念と安堵の気持ちがこめられた最後のイベントとなった。

「アーキニアリング・デザイン凱旋展inCST」の会場に選ばれたのは日本大学・お茶の水校舎、通称“カザルスホール”。磯崎新により設計されたポストモダン調の建物の中央玄関(エントランスホール)、巨大なガラス扉を正面にした3層の吹き抜け空間の1階広場と2階の回廊が理工学部(CST)によって提供された。会期は約3ヵ月(2015.11.16~2016.1.27)であったが、普段は閑散としたホール空間がにわかに活気あるものとなった。こうした常設の建築ギャラリーがあればと願わずにはいられない。

今回の凱旋展は中国巡回展の模型を中心としたが、その他に2つの特色あるテーマを加えた。ひとつは最近の話題作。たとえば昨年の建築学会賞受賞作品「工学院・弓道場」(Arch.福島加津也・富永祥子、Eng.多田脩二)や「ROGIC-ROKI Global Innovation Center」(Arch.小堀哲夫、Eng.谷川充丈)、「Ribbon Chapel」(Arch.中村拓志、Eng.柴田育秀)、「網津小学校」(Arch.坂本一成、Eng.金箱温春)などである。そしていまひとつは(旧)「新国立競技場」の模型とパネル。すでに白紙撤回(2015.7.17)されたとはいえ、「新国立問題」を風化させることなく、建築界が心すべきは次なるステップへの注視ではないか。検証するべき建築界の課題も明示された(表2)。そしてキールアーチや建物模型による「ザハ・デザイン」と共に、「新しい敷地」として想定された有明地域を含む東京湾の模型も置かれた。神宮外苑ではなく、かつて2016年オリンピックのメインスタジアム候補地である。

表2 建築界としての検証 - 「新国立競技場問題」を風化させないために
(1)コンペとは…プログラム/審査/監修者?
(2)国際的信頼性…「白紙撤回」への対応/経緯の検証
(3)建築の社会的信頼…建築家・エンジニアの役割
(4)意匠と構造の融合…二つのベクトル
(5)サイバーカスケード…迷走するメディア
(6)設計と施工の関係…「前橋方式」「DB」「ECI」方式など
(7)グローバルな市場への取り組み

新敷地の設定によって環境・歴史問題が外され建設の容易さが格段に向上された時、実現化への建築的議論、たとえば目標予算の達成、規模や用途の見直し、交通手段や災害対策、構造的安全性や技術的可能性といった具体的なテーマがより顕在化されその対策が加速されたにちがいない。一番の難題はスリム化に伴ってどこまで当初の「ザハ・デザイン」が成立(容認)されたか、であろう。ここでは「反対」ではなく「可能性」への道筋(挑戦)がテーマとなる。あのシドニーオペラハウスのように海からも空からも望まれるザハによる新しいデザイン(姿形)を見てみたい。これらの模型を制作した学生達の思いの一端がここにあろう。

展覧会を記念して次のような3つのイベントが開催された。

1)オープニング・フォーラム(2015.11.16、A-forum)

中国巡回展の総括をまとめるために、各都市(会場)で開催された日中合同フォーラムの参加者(講師)から各自の講演内容およびさまざまな視点からの所感を含めたショートレクチャーを行い意見を交換した。
▷ 全体概要:斎藤公男
▷ 上海講演:小嶋一浩、大野博史
▷ 広州講演:今川創平、山田憲明
▷ 武漢講演:佐藤慎也、隈太一
▷ 南京講演:仙田満、宮本佳明、佐藤淳
▷ 北京講演:竹内徹、福島加津也、鈴木啓

2)凱旋展フォーラム(日本大学CSTホール)

2015年11月25日凱旋展を記念して「フォーラム」が開催された。タイトルは「芸術と技術―その融合をめざして」。講師に内田祥哉、川口衞 両先生をお招きした。会場には300名をこえる建築家・技術者・学生達が集まった。各々「構造と造形」、「構造と感性」と題する講演ではANDに通じる建築家と構造技術者とのコラボレーション、ITのみに頼りすぎない個人の予見や判断の重要性、素材・システムとスケールの関係性などが共に強調されていた。第二段階のD・Bコンペが進むこの時期、「新国立」を巡る意見や質問も会場から発せられた。結局、(旧)「新国立」における建築家とは一体誰だったのか。国際コンクールの結果は国際的にどう受け取られているのか。建築家であれば、統合者として果たすべき責務があるはずだ。発注者や行政が決めるのではなく、「決める」のは建築界自身。「建築」の未来のため、「問題と課題」を風化させてはならないであろう。(新)「新国立」のデザイン的議論はその次である。

3)ミニ・フォーラム(A-Forum)

フォーラムに続き、小人数を対象とて4回のミニ・フォーラムが企画された。いずれも(旧)「新国立競技場」に深く関わるテーマが選ばれた。

第1回(2015.12.03)「デザインと構造をつなぐ、1/1のデジタル・ファブリケーション」
3Dプリンター、CNCによる工作機械、ロボットアームなどのデジタルファブリケーションツールが建築の分野でも広く使われはじめ、それによって可能となった1/1サイズの建築の実験、実践を具体例を通じて紹介し、デザインと構造の観点から議論した。

司会、イントロダクション: 隈太一(東京大学・大学院)
ゲストコメンテーター: 小西泰孝(小西泰孝建築構造設計)

パネリスト:
大野友資(ノイズ・アーキテクツ)「スケールレス/フィールドレス/フォースレス」
竹中司(アンズ・ズタジオ)「ロボットで建築をつくる」
平本知樹(Wip)「構造とデジタルファブリケーション」

第2回(2015.12.18)「テンション材(膜・ケーブル)による新たなる空間づくりの可能性」
軽量構造の引張材として用いられる膜やケーブルについて、それぞれの素材特性と各種国内外事例(移動式音楽ホールやインテリア空間への活用等)を紹介し、今後の空間づくりの可能性について議論した。

司会:永井佑季(佐々木睦朗構造計画研究所)
ゲストコメンテーター:小澤雄樹(芝浦工業大学)
パネリスト :
与那嶺仁志(Arup)「新たな空間図づくりを可能とする設計手法」
鈴木実(神鋼鋼線工業)「ケーブルの特徴と事例」
熊坂まい(東京製綱)「ストランドロープのインテリア空間への適用とその可能性」
喜多村淳(太陽工業)「「膜」の様々な使い方(事例紹介)」

第3回(2016.01.13)「土木のデザイン―景観と橋梁を中心として」
都市や街並みのデザインという点では、建築も土木も同じでありながら、デザインの進め方や手法においては、大きく異なる状況です。土木の実例と背景を紹介して頂きながら、建築デザインとの関係性をクローズアップしました。
司会:多田脩二(千葉工業大学)
モデレーター:鈴木啓 (ASA)
パネリスト:
伊東靖(パシフィックコンサルタンツ)「土木のデザイン‐景観と橋梁をめぐって」
八馬智(千葉工業大学)「土木におけるデザインの流れ」
渡邉竜一(ネイ&パートナーズジャパン)「市民と創る土木のデザイン」

第4回(2016.01.25)「新国立の実現と幻の狭間」
約3年に渡って進められたザハ・ハディド案の新国立競技場の構造計画について。実現に向けてなされた努力と成果、そして実現に至らなかった経緯と課題について議論することにした。 
モデレーター:斎藤公男
パネリスト:杉浦盛基 他(日建設計)

特に第4回では約3年間にわたって基本計画~実施設計に携わってきたSJVの担当メンバーによるプレゼンテーションが予定され、実質設計者による初めての情報公開の場として期待されていた。しかし開催日の直前に、延期せざるを得なくなった。プロジェクトの進行に注がれた多大なエネルギーと成果の開示ができないことは当事者はもとより、技術的課題の解決を共有したいと考える我々にとっても残念でならない。1日も早い企画の実施が待たれる処である。

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斎藤公男

日本大学名誉教授

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