建築作品小委員会選定作品 / 縁と新たな共同体
《えんがわオフィス》《WEEK神山》 伊藤暁 / 伊藤暁建築設計事務所 / BUS
《ENGAWA OFFICE》《WEEK Kamiyama》 Satoru Ito / Satoru Ito Architects and Asociates / BUS

えんがわオフィス / WEEK Kamiyama

神山町
徳島県名西郡神山町は、徳島市内から車で40分程に位置する、人口6000人程の中山間地域の町である。全国に数多ある他の中山間地域と同様、人口は減少し、過疎化や高齢化が進む。しかし、神山町では現地NPO法人「グリーンバレー」を中心に20年程前から様々な取組みが行われ、まちづくり(この言葉が神山町での出来事を言い表すのに適切かどうかはあやしいのだが…)の先進事例として多くの注目を集め ている。「アーティストインレジデンス」や「ワークインレジデンス」等、世界中から人を呼び集める施策があり、毎年多くの人が神山に集う。しかもこれらの仕組みは、お祭り的、一時的な効果を狙うのではなく、生活に定着可能なモデルとしてとてもハイレベルにデザインされている。神山の人々はこの取組みを「創造的過疎」と呼ぶ。「物は言いよう」とはまさにこのこと、そう命名された過疎の姿は、とても寛容で明るい。過疎を食い止めるのではなく、悲観するのでもなく、クリエイティブに向き合おうという姿勢は、人口減少を控え、縮退の方法論が模索される日本各地において参照されるべき最先端のものであり、事実多くの成果をもたらしている。そんななか、近年、この町にサテライトオフィスを構える企業が相次いであらわれ、話題となっている。テレビの地デジ化に伴って県内全域に敷設された光ファイバーインフラによるインターネット網の充実をきっかけとして、多くの企業が神山町内に進出し、オフィス施設の需要が高まっている。 我々はこの神山町において、グリーンバレーや進出企業と協働し、移住者支援のための空家改修やサテライトオフィス受入のための施設整備などを行っており、5件の改修工事と2件の新築工事が竣工している。加えて、有志の学生を募ってのワークショップを企画・運営し、空家改修をセルフビルドで行ったり、まちの将来像のためのリサーチやアイデア提案を行ったりと、設計・建設行為のみならず、様々な角度からまちとの関わりを楽しんでいる。

©Takeshi Yamagishi えんがわ

©Takeshi Yamagishi えんがわ

©Takeshi Yamagishi 東側から前庭を見る

©Takeshi Yamagishi 東側から前庭を見る

©Takeshi Yamagishi 東側外観

©Takeshi Yamagishi 東側外観

©Takeshi Yamagishi 内観1

©Takeshi Yamagishi 内観1

©Takeshi Yamagishi 内観2

©Takeshi Yamagishi 内観2

©Takeshi Yamagishi 南東から母屋棟、アーカイブ棟を見る

©Takeshi Yamagishi 南東から母屋棟、アーカイブ棟を見る

作品解説
東京に本社を構える企業の、サテライトオフィス整備計画。築80年程の民家(母屋、蔵、納屋の三棟)を改装し、オフィスにコンバージョンする計画である。 この計画では、「境界」の取り扱い方を考えた。「東京」の「企業」が神山町のような中山間地域に事務所を構えることは、「他者」として地域に介入することに 他ならない。依頼主の企業は「オープンアンドシームレス」を理念として掲げており、これを基幹としながら、「他者」と「地域」が出会うための境界のあり方を模索している。蔵棟は片側の妻面(この面はもともと隣家の火事で燃えてしまい、原型を留めていなかった)をガラスカーテンウォールとし、夜は行灯のように街を照らし出す。母屋棟は外壁にガラスを多用することで内外の可視性を高めると同時にガラス面に周りの風景を映し込み、周囲に溶込みつつも特徴のある存在感を作り出す。四周にはおおきな「えんがわ」と庇を配し、「町の人たちが気軽に立ち寄れるオフィス」を目指した。リテラルに、過剰に透明であることが地域住民の興味を促すきっかけとなり、一方で「他者としての振舞い」を、地域へつなげていく。そして、えんがわと庇によってつくられるバッファー空間が人々の滞留を受け止める。双方向ベクトルの意識の動きを作り出し、それによってもたらされる人々の活動をサポートする境界のありかたを実現している。このオフィスは常に地域からの差入品にあふれ、町内外を問わず様々な人々が集う、不思議な公共性を帯びた場所となっている。東京とは異なる、神山町ならではのオフィスのかたちである。(伊藤暁)

蔵オフィス外観

蔵オフィス外観

蔵オフィス内観

蔵オフィス内観

東側外観

東側外観

東側夕景1

東側夕景1

東側夕景2

東側夕景2

北側夕景1

北側夕景1

北側夕景2

北側夕景2

所在地:徳島県名西郡神山町
主要用途:事務所
建主:株式会社プラットイーズ
設計監理:伊藤暁+須磨一清+坂東幸輔
構造:なわけんジム
施工:和田建材

WEEK神山 / WEEK Kamiyama

設計主旨
徳島県の神山町に立地する宿泊施設である。もともと敷地内にあった民家を改修した管理棟と新築の宿泊棟からなり、私たちは宿泊棟の設計監理を担当した。
計画地は、私たちが2012年に改修設計を行った「神山バレーサテライトオフィスコンプレックス」の向かいに位置する民家の敷地内で、南側に鮎喰川を望む傾斜地にある細長い平場である。山や川、空、集落など、町の美しい風景が一望でき、最大の贅沢はこの風景を存分に体感することだ、ということが一瞬のうちに関係者間で共有されるような場所であった。
最大限この環境を享受するために、室内に居ても風景の中に放り出されたように感じられる場所を作ることを目指し、川に面した南面に全面開口をもつ建物とすることとした。しかし木造の場合、筋交いや壁、ブレースといった耐震要素が必要となり、全面開口を実現するのは難しい。とはいえかつて林業で栄えたこの町に、「風景の一部」となるような建物を計画するにあたり、鉄骨やRCで設計を進めることにはリアリティを感じることが出来なかった。そこで350Φの桧丸太柱を用いて、ラーメン構造を組むという構法をとることとした。必要な柱の本数は22本。さて、「350φ丸太柱22本」と図面に描くことは簡単だが、そんな丸太材は一体どこで手に入るのだろうか。木材市場での流通はあるのだろうか。蛇の道は蛇、ということで町の製材所に相談に行くと「市場では買えん」と一蹴された。しかしこう言葉は続く。「そこの山にならあるぞ」。
かくして、この建物の建設は、山に木を伐りに行くところから始まった。木樵とともに山に入り、適切な太さの桧を選定し、まる二日かけて伐採を行った。伐採した桧は皮を剥き、大工の手刻みによって仕口を加工している。こう書くととてもイレギュラーな進め方のようにも聞こえるが、しかし、林業の町で山が近いというこの場所での、最も素直な判断の帰結である。一般的な建築工事は、高度に発達した建材の生産、流通の仕組みに支えられており、その合理性に添って構法や寸法、ディティールが決定されることが常である。しかし、この仕組みは戦後に発生した大量の住宅需要に応えるためにカスタムされたものであり、社会的な背景に変化の生じている昨今、その仕組みの有効性が薄れ、逆に足枷になるような局面も少なくない。今回は「生産地が近い」という計画の特性から、こういった「仕組み」の論理とはまた別の論理による合理性を見いだすこととなったが、このような建設の仕組みにまで遡及するような方法が建物のあり方を更新していく可能性はとても大きいのではないかと感じている。
こうして組み上がった架構は、力強い存在感を示しながらも不思議と環境に馴染んでいる、独特の存在感を持つものとなった。

©Takeshi Yamagishi ドミトリー

©Takeshi Yamagishi ドミトリー

©Takeshi Yamagishi ピロティ1

©Takeshi Yamagishi ピロティ1

©Takeshi Yamagishi ピロティ2

©Takeshi Yamagishi ピロティ2

©Takeshi Yamagishi 階段室

©Takeshi Yamagishi 階段室

©Takeshi Yamagishi 客室

©Takeshi Yamagishi 客室

©Takeshi Yamagishi 休憩所

©Takeshi Yamagishi 休憩所

©Takeshi Yamagishi 川側ファサード1

©Takeshi Yamagishi 川側ファサード1

©Takeshi Yamagishi 川側ファサード2

©Takeshi Yamagishi 川側ファサード2

©Takeshi Yamagishi 川側ファサード3

©Takeshi Yamagishi 川側ファサード3

©Takeshi Yamagishi 全面開口の客室

©Takeshi Yamagishi 全面開口の客室

©Takeshi Yamagishi 対岸から

©Takeshi Yamagishi 対岸から

©Takeshi Yamagishi 対岸から夕景

©Takeshi Yamagishi 対岸から夕景

©Takeshi Yamagishi 東側ファサード

©Takeshi Yamagishi 東側ファサード

©Takeshi Yamagishi 南東側外観1

©Takeshi Yamagishi 南東側外観1

©Takeshi Yamagishi 南東側外観2

©Takeshi Yamagishi 南東側外観2

©Takeshi Yamagishi 北西斜路から

©Takeshi Yamagishi 北西斜路から

©Takeshi Yamagishi 北西畑から

©Takeshi Yamagishi 北西畑から

©Takeshi Yamagishi 北側ファサード

©Takeshi Yamagishi 北側ファサード

周辺図

周辺図

平面図

平面図

配置図

配置図

南側立面図

南側立面図

断面図

断面図

所在地:徳島県名西郡神山町
主要用途:宿泊施設
建主:株式会社神山神領
設計:伊藤暁+須磨一清+坂東幸輔
監理:伊藤暁
構造:鈴木啓/ASA
サイン:西村たりほ/リビングワールド
施工:株式会社匠

伊藤暁

建築家。1976年東京都生まれ。2002年横浜国立大学大学院修了。2002年−2006年aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所。2007年伊藤暁建築設計事務所設立。2010年−首都大学東京非常勤講師。2011年−東洋大学非常勤講師。主な作品:《えんがわオフィス》(第1回JIA四国建築賞優秀賞)、《WEEK神山》、《横浜の住宅》(第59回神奈川建築コンクール優秀賞)、《半丈の書架》(2014年ジェルコリフォームデザインコンテスト部門別最優秀賞)他多数。

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