本書のもとになっているのは、学位請求論文『津波被災者の再定住地への移住関係の再編に関する研究―スリランカのインド洋津波からの復興を事例に』(京都大学、2012年1月)である。そして、この論文の執筆の最中に発生した東日本大震災の復興支援に論文執筆を中断して関わったその後の経験も踏まえて、大幅に加筆、修正したものが本書である。
本書が主として焦点を当てるのは、スリランカのインド洋大津波(2004年12月26日)の被災地と被災者の再定住地、その後の復興過程である。著者は、インド洋大津波後の2005年4月に最初にスリランカを訪れて以来、10年以上通い続けて、10次にわたる臨地調査と支援活動を行ってきた。本書が迫力を持って復興計画論を展開し得ているのは、フィールドでの経験の厚みである。
全体は、序論の第1章から結論の第7章までの7章と補章1,2からなる。また、topics-1~6ということで、東日本大震災の問題も含めた議論が挿入する立体的な構成をとっている。
本書が依拠する重要な概念とされるのは、副題が示唆するように、レジリエンスである。東日本大震災の復興とともに、レジリエンスという言葉は、(国土)「強靭化」という脈略で盛んに用いられるのであるが、著者が着目するのは、レジリエンスの基盤としての「社会関係」である(序論)。
課題1 被災者の生活・仕事の継続に影響する物的環境要素の解明(第2章、補償)、課題2 被災者の生活・仕事、社会環境、物的環境の関係を捉えるフレームの構築(第3章、補章2)、課題3 被災者を取り巻く社会的環境に対する物的環境の規定性の解明(第4章、第5章)、課題4 被災者の生活・仕事の継続における社会環境の役割の解明(第6章、補償2)という4つの課題を明らかにするとする。課題2のフレームの構築というのは、いささか次元が異なるように思えるが、「暮らしの再建をはかるフレームの構築」(第3章)という意味である。また、課題4の「社会環境の役割」も一般的に思えるが、具体的に論じられるのは、マイクロクレジットの活用である。
結論の最後には、自然災害後の再定住計画の原則が的確にまとめられている。
遅々として進まないかに思える、東日本大震災の被災地の復興をさらに考えるために、読まれるべき多くの示唆を含んでいる労作と言っていい。
著者紹介:
前田昌弘:1980年奈良県生まれ。2004年、京都大学卒業。京都大学大学院工学研究科博士過程、京都大学グローバルリーダーユニット養成研究員、日本学術振興会特別研究員を経て、2013年~、京都大学大学院工学研究科建築学専攻助教。
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