研究室レポート
島根県立大学短期大学部 総合文化学科 「住居・デザイン研究室」
Fascination of the Junior College

5代目研究室

短大の研究室の表札には「住居・デザイン研究室」とあります。これは奈良女子大学住居学科の先輩達が赴任されていた頃から脈々と5代に亘り約30年受け継がれてきた看板です。現在私は、総合文化学科文化資源学系2年生の「住居・生活資源ゼミ」を担当しています。メンバーには、英語文化系や日本語文化系の学生もおり、さしずめ文学部の中で住居学を細々と営業しているようなものです。かつては、「二級及び木造建築士」の受験資格の実務1年や、「インテリアプランナー」の受験登録資格の実務2年のカリキュラム、「商業施設士補」の認定校と充実していたものの、今は「アメニティスペシャリスト」の指定校(研究室単位での指定が可能)のみです。
2年生のゼミ生は2名~16名迄、年によって違いますが毎年のように、山陰各地の工業高校建築科出身が1名、商業高校出身が1~2名いるのが特徴です。ゼミ志望者の特徴は、「大変そうなゼミ」という噂が広まっていて、勉強がしたいと思ってくる真面目な学生が多く、とても助かっています。1年生のゼミは名簿順に振り分け学科共通メニューで行うため、研究室の伝統を次の学年へと学生同士で引き継いでいくのは難しい環境にあります。
ゼミ生の卒業論文は、ずっと個人研究一人一テーマで、実験か調査を行うというルールにしていました。それは、他の学生に依存せずに責任感を持って取り組み、完成した達成感を味わってほしいという願いからです。長く教員をしていれば、教育技術の腕は上がっていると思うのですが、近年卒業論文の質が落ちてきていて、指導方法を変えなくてはいけない(学生のせいにしてはいけない)と、昨年度は初めて、共同研究と個人研究混合型にしました。ゼミ生9名全員で松江市宍道と美保関の調査を行い、冬休みの各自の個人調査との比較をまとめて1冊の卒業論文を仕上げるスタイルにしました。

初年次ゼミJR西日本プレゼン

初年次ゼミJR西日本プレゼン

モルタルとガラスカレットの実習

モルタルとガラスカレットの実習

まちづくりのテーマ:「復興」から「消費生活」を経て「歴史」へ

まだ学生で、住宅単体よりも何となくまち全体の快適性に興味を持ち始めていた1995年に阪神・淡路大震災があり、1年間で200回西宮市内に通いつめ「復興まちづくり」について実践を通して学びました。今思うと長期インターンシップですね。昨年、震災から20年後の西宮市を見てきました。西宮北口の北東側は、高層ビルが一棟も無い低層住宅地が拡がっていて、住宅倒壊後の行政による事業化区域の再建結果として、高さ規制の威力を目の当たりにする景観です。都市計画の仕事に就きたいと思っていたのですが、最初の勤務先ではインテリアの授業をするようにと言われ、自分の中では葛藤があり、おまけに生活経営論・生活経済学・数学の授業まで担当し、学生達には「先生は何の先生?」と聞かれる有様でした。
転機は、経済産業大臣認定「消費生活アドバイザー」資格を取得してからです。資格検定教育には、かなり力を入れていて、まず自分で受験してから、その体験をもとに、学生達にどの段階でどのような方法で勉強するのが良いかを検討していて、これまで約30種類の資格検定に挑戦しました。その過程で、『「消費生活」が、住居学と社会とをつなぐ接着剤のような領域』だと気付き、消費生活分野では、住生活や環境に詳しい人が少ないため、参入する隙間があると解りました。先頃、消費生活相談員の国家資格化が決定したので、短大生へは入門編として「消費者力検定」の受験を勧めています。
平成20年度主張する「みせ」デザインコンペでゼミ生の卒業共同制作の図面が受賞作品として東京の建築会館で展示されました。平成21・22年度に松江市まちづくり推進課の大学生チャレンジショップ事業では2ゼミ合同で商品づくりや店舗営業に取り組み、その影響で卒業研究も店舗に関するものが多くあります。大学祭でも、うちのゼミの出店の売上高は抜群です。私自身も平成23年度には浜田市からの受託研究で、居住性を高める要素として買い物環境に着目し、市民への消費者意識アンケート調査を行いました。島根県内の方々は、短大の調査にとても協力的で、学生達に親切にして下さる事を非常に感謝しております。
地方在住の大学教員は人数が少ないせいか、行政の審議会業務の機会が多く巡ってきて、20代後半から様々な委員を経験でき、島根にUターンしてからは歴史的建造物に関する委員の依頼が増えてきました。松江市では土木部を歴史まちづくり部と画期的な名称変更をされ、まちづくり文化財課から、前川國男邸のトレースと模型の実習を受講している学生達にも見学に声をかけていただき、昨年国宝に再指定された史跡松江城の敷地にある明治時代の木造建築「興雲閣」の耐震改修工事現場で天井裏に昇ることができました。
昨年は無謀にも初年次ゼミの学生がJR西日本の寝台特急瑞風運行を契機とした地域活性化の提案を行う4大学対抗「山陰みらいドラフト会議」に唯一の1年生チームとして参加しました。この夜行列車は宍道駅に停車が予定されているので、木造の駅舎から徒歩5分の所にある国の重要文化財木幡家住宅(八雲本陣)と、街道筋の町なみの見学に研究室の2年生達と出掛けました。図面が上手な学生にはCADでの断面図を依頼し、数名の学生達でイラストレーターも使って「まち歩きマップ」作成に励むなど、徐々に「歴史まちづくり」の割合が増えてきています。

島根県指定有形文化財興雲閣

島根県指定有形文化財興雲閣

国重要文化財木幡家住宅

国重要文化財木幡家住宅

 

職業的レリバンスと短大の魅力

新潟の短大に9年、埼玉の短大で1年、この春には島根の短大で10年目に入り、とうとう短大教員生活も20年です。「短大生」の本質というのは、地域性に関係無く、昔も今も変わらず、ひとつのジャンルでありブランドだと捉えています。以前同僚が、高校教員も大学教員も、自身の高校や大学の経験で話ができるが、「短大生を経験した短大教員はほとんどいない」と言い、はっとしたことがあります。「4大生」、「高専生」、「専門学校生」とは違う良さがあること、そして摩訶不思議なことに「短大生達は、幸福感が非常に高い!」のが特徴です。高校受験で推薦入試の味をしめ、短大も推薦入試という学生もいます。教員からみると一般入試組に比べ基礎学力に疑問が湧く推薦入試組ですが、「第一志望校に入学した」という満足感を持って過ごしています。そのせいか、入学後の2年間で伸びる学生が多いのも推薦組の特徴です。
短大生のほとんどが生まれてから一度も県外に居住することなく、地元が好きだからと近所で就職先を見つけます。4年制大学では、立地する県で就職しない実情を耳にしますので、各都道府県市町村のまちづくりを,在学中から老後まで継続して頑張ってくれるのは「短大生」なのです。近年は、公務員就職指導に力を入れています。短大生は美味しいことに、高卒枠で受験可能ですし、松江市では短大枠まで作って下さいました。残念ながら、建築職ではなく事務職での受験になるのですが、配属先が建築関係の部署や業務になることを願っています。年々、キャリア教育に熱くなっていて、特に、職業的レリバンス「学生時代に学習した内容が、それを学習した個人にとって、その後の職業生活でどれだけ有益に働いたか(本田由紀、2008)」を意識して、この春休みも履歴書指導に明け暮れています。
先日,卒論発表会の打ち上げ(未成年が含まれているので、アルコール抜きでケーキのお茶会)で、短大に通ってやりたいことが見つかって、就職先が決まって満足と述べる学生が複数いました。短大生の就活は1年生の冬から2年生卒業式後までと長いので、卒業研究のテーマと就職希望先を関連付ける指導をしています。卒論の実物をポートフォリオ代わりに持って行って家具店に内定を決めてきた学生もいて教師冥利につきます。
高齢化率の高い島根ですので、同居している祖父母のために福祉住環境コーディネーターを取り、福祉施設に介護職や事務職で就職する学生も毎年のようにおります。田舎の足として不可欠な自動車メーカーのショールームは、インテリアの勉強と店舗の調査を行かせる場です。他にも照明の効果や色彩を調べてブライダル産業やホテルに就職する学生や、世間のイメージ通り銀行就職もいます。できれば、都市計画のコンサルや住宅産業に就職する学生をもう少し増やしたいものです。島根県土木部から「しまね建設女子図鑑」が先日発行されたので、新年度のキャリア教育の教材にする予定です。昨年、大学及び短大向けの教科書として、住環境学専攻の先輩達と一緒に『住まいのデザイン』を刊行できました。「住居・デザイン研究室」の看板、未熟な私もようやく一人前に背負えるように成長したかなと思い始めています。

藤居由香

島根県立大学短期大学部准教授。島根県松江市生まれ。住居学・都市計画。奈良女子大学家政学部住居学科・同大学院住環境学専攻修了。新潟青陵女子短期大学生活文化学科助手・講師・助教授を経て、現職。共著『住まいのデザイン』(朝倉書店、2015年)。

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