いま、改めて暮らしを開くことに注目している。他者が入って来ても身構えることのない場所、それが暮らしの中にあれば、日々の中に受け入れられる物事が増えて毎日が豊かになるのではないだろうか。瑣末なことかもしれないが、食料品の配達の受け取り、在宅の介護サービス、知り合いとの茶飲み話し、犬を飼うこと、いろんなことが容易になる。そして、暮らしがオープンになることで、子育ての問題、介護の問題、家計の問題、商売の問題、様々な問題の解決への糸口が見えてくる。
2つの場所を紹介したい。ひとつは、大阪の長屋暮らしについてである。リノベーションした長屋で魅力的に暮らしている30代から40代の人に大阪ではよく出会う。戦前の大阪長屋を住まい兼仕事場にして活躍している人たちである。店舗兼住まいだったり、アトリエ兼住まいだったり、地面に接している長屋の特徴を活かして住みつつ仕事をしている。
例えば、日下明さんと谷口有佳さんは、私たちが改修した「豊崎長屋」の1軒に住んでいる。この長屋の前は地道の路地で、裏には小さな庭がある。お二人はrepairというユニットで活動をしている。「こわれたら、はじまり。」をテーマに音楽、言葉、イラスト、展覧会、いろんな世界をつくっている。40㎡ほどの小さな長屋の2畳の間でピアノとトロンボーンの音が奏でられ、立派な木製のキッチンカウンターで打ち合わせが行われ、畳の上に置かれた机のパソコンから世界につながり、フランスやスペインと打ち合わせしている。海の向こうとつながったかと思うと、80年近く長屋に住む隣人の家で朝ご飯を食べる。2階が寝室兼仕事場、1階がリビングダイニング兼打ち合わせスペースになっていて、2階は閉じつつ1階はまちとつながっている。
去年1年間をかけて、大阪長屋に暮らす30代から40代の方の住まい方調査を行った。そこで一番びっくりしたことは、1つの家の中で展開されている活動の多さである。ある人は、子育てしながら、焼き菓子の販売とカフェ営業をしつつ、グラフィックデザイン事務所を経営しつつ、ぬいぐるみの作家をしている。カフェの客席は昼にまちとつながり、夜には家族のリビングになる。80年間まちに建つ長屋をリノベーションして住む。そこで複数の仕事や活動に取り組み、それを家族間でシェアする。こうして、時間や場所が重なりながら、活発で創造的な長屋暮らしが営まれる。住むことと働くことが一体となって、まちと家の中がつながるオープンな暮らし方である。
もうひとつの場所は大阪の郊外にある泉北ニュータウンである。緑豊かな住環境として整備されたニュータウンには住宅が建ち並び、店舗やオフィスは住宅地の決められた場所に集められている。住む場所と働く場所が意図的に分けられたまちに、小さな商いや小さな働く場所を点在させられないだろうか。そんな試みをはじめている。泉北ニュータウン住宅リノベーション協議会という組織を立ち上げ、「リノベーション条件付き住宅」として、戸建て空き家を売り出している。そのリノベーション案にはまちに開く小さな場所があり、小商いや趣味ができるようになっている。1月にリノベーション住宅を巡るツアーとリノベーションプランの発表会を行った。こちらの予想以上の熱心な質問が会場からあり、現在、子育て世帯の方と具体的なリノベーション住宅について検討に入っている。
空き家をリノベーションして住むという選択と創造的な暮らしは結びついている。小さな活動と家、それが一緒になることで暮らしが開かれ、創造的な場が生まれる。子育てしながら働くことが容易になったり、在宅介護が円滑に進んだりする。その結果、住人の自己実現が成されるとともに、その魅力的な暮らしがまちの価値を高め、小さな商いが成立する。人と人がつながり、ネットワークが構築される。創造的な暮らしによる変化はとても大きい。
毎年、秋には「オープンナガヤ大阪」という大阪にある複数の長屋を一斉に公開するイベントを開催している。大阪長屋に住まう人たちの創造的な暮らしの一端を体験してもらえる機会となっている。
長屋の住人repairのサイト
http://repair-trom.blogspot.jp
大阪長屋を暮らし開きするイベント、オープンナガヤ大阪
http://opennagaya-osaka.tumblr.com
泉北ニュータウン住宅リノベーション協議会
http://senbokustyle.com
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