海外建築事情
ザンビアのマタニティハウス ~彼らの創造力から学ぶもの~
Maternity House In Zambia ~How much I learn from the way they create their life~

縁あって2008年にアフリカのザンビアという国を訪ねて以来、この国の農村にお産の施設を作る仕事に関わるようになった。これまでヨーロッパやアジアに暮らしたこともあったが、アフリカというのは比べ物にならないほど魅力的だ。私たちが既に失ってしまった、「『ない』ところから何かを生み出せる力」が彼らにはとても強く、そんな彼らの野性的な生き様にこそ、私たちがこれから目指すべき未来があるのでは、といつも感じている。
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新興国と変わらない都市部

ザンビアという国は、日本の約2倍の面積に約十分の一の人が住んでいる国で、高地にあるためカラっと乾燥して過ごしやすい。アフリカというと、さも治安が悪いのでは、というイメージが強いと思うが、ザンビアはイギリスから半世紀前の1965年に独立して以来、特に内戦もなく、敬虔なカトリック信者が多いせいか人々はとても親切で、アフリカで最も平和な国とも言われている。
主な産業には銅があり、日本の十円玉にも使われている。農業では、主食のメイズというトウモロコシに似た穀物が盛んで、農村ではどの家もこれを育てていて、黙っていても自給自足できる環境とも言える。経済的には、未だ一日1ドル以下の収入世帯もあるため、開発途上国の部類には入るが、都心部では、南アフリカや中国、インドをはじめとする外国資本企業がものすごい勢いで進出し、市民は他の新興国とあまり変わらない暮らしをしている。この数年でショッピングモールがどんどん立ち並び、携帯電話や車、マイホームを買う人も急増している。また、中国からの移住者が非常に多く、特に建設業界は「ほぼ中国人が動かしている」とも言えるほどだ。「中国産の建材を使った、中国人ディベロッパーによる、中国人設計の、中国人労働者が建てた建物」が至る所で増えており、公共のスタジアムや飛行場はもちろん、新興住宅地の開発など、ほとんどが中国人の手によって作られていると言っても過言でない。
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水道もなく、お産による死亡がとても多い農村

一方農村部では、道路や水道、電気、通信などのインフラ整備は非常に遅れている。未だ川に水を汲みに行き、電気もなく暮らしている世帯も多い。そのような地域では、衛生環境や保健サービスへのアクセスが悪いため、未だマラリアや下痢に苦しむ人々が多く、妊産婦の死亡率は日本の40倍もある。多くの人が専門家の立会いなしにお産をし、いざという時の処置ができずに亡くなるケースが多いのである。
そのような地域で、妊産婦支援で知られる国際協力NGOジョイセフは、外務省はじめ、国内の複数の民間企業の支援のもと、2011年から「妊産婦支援プロジェクト」というものを行っており、その一環として、安全なお産のための「マタニティハウス(出産待機ハウス)」の企画、設計、ワークショップのファシリテーションに私も携わることになった。
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歌と、踊りと、葉っぱのスタンプ

この施設は、遠方に住む人でも、いざ陣痛が始まったらすぐに助産に診てもらえるよう、予定日の2週間前から、診療所の隣に無料で泊まることができるというものである。予算を抑えるため、日本から現地へ自転車や服などの支援品を送るのに使ったコンテナを再利用することにした。それを大きな屋根で被って温かい家のイメージにし、汚れた壁には村人と一緒に絵を描いて、美しく生まれ変わらせることにした。主な施工は町の工務店が行うが、基礎ブロックを積んだり床壁を塗装したりという作業には、できるだけ村の人たちに入ってもらった。そして、壁のペインティングには総勢100人の村人が集まり、盛大なワークショップが開かれた。それぞれ、思い思いに摘んできた葉っぱにペンキを塗り、壁にペタペタとスタンプをするのだが、彼らはとても陽気で、みな四六時中、歌ったり踊ったりしている。一つできれば褒め合い、称え合い、喜び合う。「私たちのこの一歩一歩が、命を救っているのだ」と。
建築というのは本来、こうやって人が生きるために、人が心を込めて作るものなのか。モノでもハコでもない、命のために、命ある者が、命を吹き込んで作られる建築。そんな感動があった。
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建物が、命を守るためのメッセージをまとう

一軒目が無事完了し、このフィワレという村では、有り難いことに、施設での分娩率が前年の32.8%から45.0%に増加した。そして翌年、隣のムコルウェ村にも建てることになり、今度は壁に描く絵のアイデア出しから彼らに参加してもらった。出てきたアイデアは、図案というよりは「夫の自転車に乗って診療所へ向かう」など状況を表す絵で、一体どうやってこの複雑な構図を、素人の手で、支援企業のHPに載せても恥ずかしくない見栄えにまとめよう?と頭を悩ませた。なんとか、各自が好きに作業をしつつも、全体の調和が崩れないよう微妙な指示を事細かく出しながら、最終的に、活き活きとした色合いの美しい壁画に完成させることができた。外壁を見れば、安全なお産についてのノウハウが誰にでも伝わる。そんな素晴らしい建築である。村の人たちは、まるで我が子のようにこの建物を愛してくれ、その後も、無償で通っては運営の手伝いをしてくれているそうだ。
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マタニティハウスの作り方を、歌と絵本でシェア

さらに、彼らがこれまで習得したスキルを、できれば彼ら自身の手で次の村に伝えてもらいたく、設計からペインティングまでのプロセスをお互いに共有する方法も考えた。まず、敷地コンディションに合わせて、コンテナや諸室をどう配置するか、模型を使って誰でも分かりやすく覚えられるキットを作った。また、彼らは耳からの情報の記憶力が非常に高く、「エントランスはアプローチに向けて」「プライバシーの必要な部屋は奥に」など、設計のポイントとして私が伝えたフレーズを一言ももらさず覚えていてくれた。だったら歌にしてしまおうと、そのまま一式、皆で「ハモ」れる歌にしてもらった。もちろん踊り付きで。
そして、これら一連の手順は一冊のガイドブックにまとめられた。カラフルな写真とイラストがいっぱいで、歌も譜面に起こしてある。付録を切って組み立てれば、誰でもマタニティハウスを計画できる、そんな楽しい本である。
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このようにザンビアのマタニティハウス・プロジェクトでは、村人が力を思う存分発揮し、願いや思いをめいっぱい込めながら、命を守る建築を作っている。そこには、イライラする人も、やっかむ人も、意地悪する人もいない。いつも、命への真摯な思いと、笑顔と喝采と、ダンスとハーモニーとで満ちあふれている。
建築とは、こんなにも芸術的な行為であったのだろうか? こんなにも素晴らしい喜びであったのだろうか?
彼らのこのような力に触れてしまうと、日本での暮らしがなんて貧しいのだろう、といつも考えてしまう。彼らの主体性、創造性、使命感、協調性は、正に私たちがこれからの時代のお手本にしたいものばかり。「いつか日本も、あそこまで追いつけたらいいな」と、彼らの人間力を、私たちは逆に追いかける立場にいる気がしてならない。

これからのザンビアで

マタニティハウスは既に3つの村で建てられ、この先あと2軒が作られる予定だ。その後も何かしら彼らと関わりたく、機会を探しているところだが、今一番気になるのは、都市部で急速に開発される住宅地だ。みな、モダンなマイホームを夢見るが、外国人ディベロッパーの開発したもののためにローンを組むのは嫌らしい。私が建築家と知ると、すぐに「家の間取りを書いてくれないか」と聞いて来る。面白かったのは、いつも泊まるゲストハウスのマネージャーが、中国の会社が売り出している分譲住宅のカタログを持って来て、「これと同じ家を、自分達の手で作ろうと思うんだ。でも役所の検査とか専門的なことが分からないから、色々教えてくれないか。」という話だ。イギリスかどこかの田園都市を模した、中国の設計士による分譲住宅の図面を、アフリカ人が模倣して自力で家を作ってしまう。なんとも創造力たくましいこと!たぶん彼らは、マタニティハウスでいつも見せてもらっているような素晴らしい行動力で、いとも簡単にマイホームを仲間と一緒に作ってしまうのだろう。なんともワクワク、予想もしない建築ができそうではないか。彼らのすごいのは、「本能的にピンと来るか」の判断がとてもしっかりしていることだ。「皆が買っているから自分も買わないと」と流されるのではなく、「どうもピンとこない、じゃあ、自分で作っちゃえ。」と、本能のまま、自力で状況を開拓できる野性がまだ残っている。とても格好いい。そんな彼らの自由な精神とタフな創造力に、今後ももうしばらくお付き合いしながら、何か建築への新しい命の吹き込み方を見極められれば、と思っている。

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本プロジェクトの動画は下記URLよりご確認いただけます。
https://youtu.be/T9VlTrybW9w

遠藤幹子

1971年東京生まれ。東京藝術大学大学院修士課程修了。The Berlage Instutite修了。2004年office mikiko一級建築士事務所設立。2013年一般社団法人マザー・アーキテクチュア設立。大人から子どもまでが創造力を育む場のデザインとワークショップを、国内外の公共文化施設などで多数手がける。主な受賞にJCDデザインアワード新人賞、こども環境学会デザイン奨励賞(2008年)、東京建築士会これからの建築士賞(2015年)ほか。共著に『ゼロ年代11人のデザイン作法』(六曜社)、『これからの建築士』(学芸出版)ほか。

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