1.はじめに
2011年3月11日に発生した東日本大震災から6年が経過した。2012年のピーク時に165千人いた福島県の避難者数は年々減少しているものの未だ6万人(2017年5月現在)もの人々が故郷からの避難を余儀なくされている。発災当時の中学・高校生は大学生や社会人となり親元を離れ、子育て世代は乳幼児とともに新たな居住地での生計を営み、高齢者は早期帰還を望みながらも避難先の医療・福祉施設との連携に一定の信頼関係が築かれつつある。一方、原発事故により指定を受けた居住制限、避難指示解除準備区域は徐々に解除されているものの被災市町村での帰還に向けた準備は道半ばであり生活環境の充実が課題となっている。また、避難当初の仮住まいとして役割を果たした応急仮設住宅(以下、「仮設住宅」という。)は徐々にその役目を終え団地ごとに解体工事が進められている。
振り返ってみれば、発災当初に避難者の生活再建の一助として供給した仮設住宅は、前例のない規模での供給に直面し土地の選定作業から困難を極めた。中でも原発災害に伴い避難した市町村からの要請は、当初は放射線量の低い遠隔地への整備であったものが、放射線量の低下や生活環境の変化に伴い年を追うごとに故郷に近い隣接地や都市部への整備要請へと変化していった。県はそのような避難者の要請を優先しながら、地域復興・再生に向けた災害公営住宅の整備や住まいの自立再建支援を行ってきた。
ここでは仮設住宅や災害公営住宅の供給に際し、震災復興後の住まい・まちづくりを視野に入れ、多様な整備方式を導入してきた福島県の事例を紹介する。なお、発災当時、筆者は福島県の土木部次長(建築住宅担当)として仮設住宅を担当していた。初動機の対応に際し阪神淡路大震災等の調査・検証に携わった神戸大学教授(現:立命館大学)の塩崎賢明氏や福島大学名誉教授の鈴木浩氏などから多くの情報提供やアドバイスをいただいたことを付け加えておく。
2.仮設住宅の供給
仮設住宅の供給は、生活再建支援策の一つとして厚生労働省社会・援護局所管の災害救助法の適用に基づき供給されるものであるが、国土交通省住宅局が技術的な立場から側面支援している。結果としてこれら2省体制の流れが自治体レベルの対応を複雑にしている。本来スピード感を持って対処すべき非常時の対応であるにも関わらず、予算措置する災害救助法担当(災害対策課)と仮設住宅供給担当(建築住宅課)との間で部局間連携を迫られることになり、法令以外の運用基準の解釈や所掌事務の範囲など、本来、被災者中心に進めなければならない業務も縦割り組織の中での対応にならざるを得ない。このことは被災3県(岩手、宮城、福島)の異なる対応を見ても明らかである。幸いにも福島県は初期の段階からすべての対応を住宅部局に一元化することで、単に事務レベルの効率化を図っただけでなく、仮設住宅から災害公営住宅に至る一連の住まいの復興ロードマップの策定を可能にしている。
当初、福島県は避難者の動向から仮設住宅供給戸数を14,000戸と想定し、災害協定を締結している (社)プレハブ建築協会(以下、「プレ協」という。)に発注することとしていた。しかし、岩手・宮城・福島を中心とする被災自治体からの要請戸数が6万戸を超えるなど、プレ協側の早期供給可能戸数に限度があったこと、一方で、県内各団体から地元企業による供給要請があったことなどを総合的に判断し、プレ協への要請戸数を1万戸にとどめ、発災1カ月後に仮設住宅4,000戸(同年7月2次募集(2,000戸):合計6,000戸)を県内企業に公募(1次選考12者、2次選考15者)することで早期の供給促進を図っている。
その供給手順であるが、福島県は発災後に災害対策本部を設置し、本部長(知事)を中心に部局長以上で構成する「災害対策本部員会議」で被災状況を把握するとともに対応方針を決定している。仮設住宅の供給に関しては住宅部局を中心に供給計画案を作成し、所掌する土木部長承認の下に災害対策本部員会議で方針決定している。
仮設住宅の公募も同様の手順で進めているが、福島県は公募実施にあたり公平性・透明性を確保するため都市計画や住宅計画、地域福祉等を専門とする外部有識者3名と住宅・福祉部局の次長2名で構成する「選定委員会」を設置している。募集要項では、団地内コミュニティや高齢者等への配慮を審査対象としたこともあり、畳敷きの和室やロフトの設置、玄関の対面配置、掃出し窓や縁台の設置、屋外空地へのテーブルやベンチの設置、プライバシー確保のための住棟配置、集会所や高齢者サポート施設等の配置スペースの確保など、敷地内配置計画から住戸プランに至るまで利用者の居住環境に配慮した様々な提案が見られた。また、県産材の活用や解体時の再利用等を審査項目としたことから木造タイプの提案が多くを占めるとともに、完成後の維持管理等に配慮して県内に本店を置く企業や被災技術者の雇用を公募条件としたため、応募者の多くは地元工務店を中心に設計者、木材供給業者、建材業者、宅建業者等を構成員とした企業体が多数を占めた。さらには建築家や有識者を含む産・学連携での応募も見られるなど、仮設住宅団地のあり方をソフト・ハードの両面から考える良き機会となった。
また、余談になるが昨年4月に発生した熊本地震では、福島県内での仮設住宅供給に携わった全国工務店協会((一社)JBN)傘下の福島支部が、これまでの成果や会員相互の視察研修等の場を通して得た知識や体験を基に熊本支部と連携し、与えられた条件の中でこれまでにない高耐久・高断熱の木造仮設住宅を供給している。民間団体が危機管理の一環として継続的に調査研究しながら取り組んでいる事例として大いに評価したい。
ところでこの福島県の取組みであるが、筆者が感じるのはこれまでの施策・事業との継続性である。約30年前の話になるが建設省時代の補助事業に「地域住宅計画策定・推進事業(HOPE計画)」があった。県内では国指定第一号の三春町を初めとする多くの市町村がこの事業に取り組んだ結果、産・官・学の連携が強化され、県における担当部署(民間建築担当)の設置とともに地域住宅産業の育成や地場産材の活用等が地域住宅政策の柱となり、「木のまち整備事業」による木造住宅団地の公募や「ふくしまの家づくりモデル事業」による木造住宅展示場の公募、さらには県有施設の県内設計事務所限定による設計競技など、地域循環型の住まい・まちづくり事業に取り組んできた歴史がある。
今回の木造仮設住宅の公募もこれまでの施策・事業と同様に産・官・学の連携の中で自然に取り組むことのできた事業である。なお、福島県は仮設住宅供給後に県内外の産・学関係者の協力を得て「応急仮設住宅に関する環境改善研究会」を設置し、3年間の調査研究成果に基づき仮設住宅仕様やプランの標準化、災害時の住宅支援に係る法制度見直し等の提言を受けるとともに、提言書に基づき厚生労働・国土交通大臣等に要望書を提出している。その後、政府は2013年10月に災害救助法の所管を内閣府に移し、2017年4月には建設型仮設住宅の設置費や面積に関する基準を実情に合わせ改正している。
3.高齢者等サポート拠点施設の整備
次に取り組んだのが高齢者等サポート拠点施設の整備(事業費約30億円:16施設)である。厚生労働省所管の支援事業で仮設住宅団地内に整備する施設であるが、新潟中越地震の際はプレ協主体で整備していた施設である。仮設住宅選定委員を務めた福祉部局次長からの協力依頼であったが、利用者主体の施設づくりを目指し仮設住宅と同様に県内公募(木構造)することで合意した。事業者選定後は運営主体である避難市町村(社会福祉協議会等)と提案プランの再協議を公募条件としたため同一プランはなく利用者、管理者ともに使いやすい施設づくりができたと感じている。
当時、筆者にはソフト面の施設運営主体も公募したいとの思いがあった。社会福祉協議会の運営に異論がある分けではないが、避難先でのサポート施設の対応には限界がある。地域の医療・福祉団体の施設等との連携が図れれば、多様なサービス供給が可能になるとの思いからであったが前例がなく実現しなかった。
4.災害公営住宅の供給
その後、福島県は「仮設住宅から恒久住宅へ」をスローガンに災害公営住宅の整備に着手することになる。2013年に策定した「福島県復興公営住宅整備計画」では、被災市町村以外の原発避難者向け住宅4,890戸を県が整備することとしている。その整備手法の内訳は、「請負型」2,574戸、「買取型」784戸、「設計施工一括型」118戸、「UR委託型」895戸、未定519戸(2015.4.1現在)である。
これまで進められている設計・施工者等の実施主体をみると、「請負型」は競争入札でPC・RC造の共同住宅タイプが多く地元企業Aランクの建設会社が主体となっている。また、「買取型」は木造戸建てタイプの公募で県内工務店・設計事務所の企業体が主体であり、「設計施工一括型」は共同住宅タイプの公募で県内企業・設計事務所の企業体が主体、「UR委託型」は共同住宅・戸建てタイプの混在であるが県外企業・設計事務所が主体となるなど、県内外の企業が総力を挙げて早期復興に関わる仕組みとなっている。
ところで整備手法の一つである「買取型」の木造住宅公募であるが、福島県のホームページでその内容を検索することができる。被災直後に公募した仮設住宅の延長線上にあり、選定委員会の外部審査員も同様であれば、応募している事業者の多くも仮設住宅の供給主体である地元工務店・設計事務所等の企業体である。団地ごとの公募は一定の事業者評価基準に基づき選定委員会の選定を経て事業者を決定しているが、選定事業者の講評と評価点を公表しているため、次回公募に向けた傾向と対策の分析が可能となり応募者の士気を高めている。最終的に1,218戸を公募している。
5.おわりに
ここでは仮設住宅から災害公営住宅に至る一連の公共事業を計画的に、そして継続的に実施している福島県の事例を紹介したが、民間住宅市場に目を向けると震災復興需要で新設住宅着工戸数がピークを迎える中で、大手ハウスメーカーや地域ビルダー系企業が組織力・営業力を活かしトップランナー的役割を果たしている。一方、長寿命化、省エネ化、耐震化など安全・安心のための仕様・基準等の遵守が求められる時代にあって顧客の要望に応えにくい大工・工務店の数は年々減少傾向にあるという。
福島県の公募に参加した企業体の多くは公共事業未経験者であったが、県仕様や住宅性能評価基準を遵守し、限られた工期の中での工程管理や現場管理を経験した。また、「買取型」であるゆえ億単位の資金調達にも奔走した。地方を取り巻く環境が厳しさを増す中で、企業体の中からも地域住宅産業をリードする工務店や設計事務所等が県内各地に出現し定着することを期待せずにはいられない。地方の住宅行政に携わった者として望むことは常に「地域循環型の住まい・まちづくり」である。
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