第12回けんちくとーろん(AF=Forumアーキテクト/ビルダー研究会Architect/Builder Study Group共催)建築の設計と生産:その歴史と現在の課題をめぐって04
建築職人の現在―木造住宅の設計は誰の責任なのか?
Currently the architectural craftsman - who is responsible for the design of wooden houses?.Architectural Design and Build: Its History and the Present Issues 04.

コーディネーター:安藤正雄、布野修司、斎藤公男
パネリスト:村上淳史、蟹澤宏剛

参加者:鈴木あるの、 五條渉、中村良和、柳沢究、中谷正人、亀谷信男、広田直行、山岸輝樹他
記録:長谷部勉、高岡由希子、大槻直矢

日時:平成29年1月13日(金)17時30分~
会場:A-Forum(東京都千代田区神田駿河台1−5−5レモンパートⅡビル5階)

主旨
本シリーズ第1回目、2回目では、新国立競技場建築プロジェクト、そして東京オリンピック関連施設を例にとり、デザインビルドあるいは設計施工一括方式を巡る諸問題について議論した。本シリーズを通じた目的は、建築生産方式(=プロジェクト方式=発注方式)の多様化の必要性と課題を確認し、デザイン、エンジニアリング、コンストラクションの創造的協働の未来像を展望することにあるが、設計と施工の分離を前提とした伝統的な専業の枠組みが侵されていることがまず議論の焦点となった。シリーズ第3回では、「日本の住宅設計生産と建築家」をタイトルに、町場における建築家の役割をめぐって議論したが、アーキテクトの役割が再確認される一方、その未来についての展望は必ずしも明らかではなく、住宅芸術論、「最後の砦としての住宅設計」論、アーキテクトビルダー論、地域住宅工房論の帰趨ははっきりしない。むしろ、浮かび上がった大きな問題は、現場の劣化、建築技能の衰退である。そこで今回は、木造住宅の設計と施工の問題に焦点を絞って、建築設計と建築技能の未来について考えたい。

布野修司

布野修司

布野:アーキテクト/ビルダー研究会(AB研究会)の第4回になります。一部には、今回は松村秀一先生をキーにした企画をアナウンスしていたのですが、ハプニングがありまして、急遽、蟹澤さんと村上さんにいらしていただきました。
前回、「町場」における建築家の役割を問題にしたんですが(http://touron.aij.or.jp/2016/11/2989)、パネリストとして来ていただいた「家づくりの会」の泉孝輔先生にしても松澤静雄さんにしても、一貫して住宅の設計や生産に関わってきており、建築家が建築家としてやるべきことは沢山あって、何も揺らいでいない、というトーンでした。今回は木造住宅の設計と建築に絞りました。熊本の地震でも、新築して間もない住宅が被害を受けたということがあります。在来木造住宅の構造はどう考えればいいのか。京都大学にいたときに横尾義貫からいろいろ話を聞きました。もうお亡くなりになったんですが、戦後まもなく鳥取大地震があったんですが、京都が近いこともあって駆り出されて、指針を作ったんだそうですが、「壁率」でいくしか無いんじゃないかという判断をしたんだそうです。、僕も5軒くらい木造住宅を設計した経験がありますが、「壁率」といってもX軸、Y軸のバランスが重要ですよね。今はCADを使うせいか、1階と2階を関係なく図面を描いてくる学生がたくさんいます。ポストモダンが吹聴されて、教師の方が自信をなくしたということもありますね。構造はなんとかなるから自由に発想しなさい、なんて指導してきた。しかし結果的に、熊本を見るといったいどうなっているんだろうと思います。そんな訳で、今回は最前線で仕事をしながら考えていらっしゃるお二人にお願いしたいと思いました。
その前にA-Forumについて斎藤先生から一言頂きたいと思います。

齋藤公雄

齋藤公雄

斎藤:A-Forumの代表をしています、斎藤です。今日は新年初めなのですが、10日過ぎたので、あけましておめでとうもおかしいかもしれませんが、本年もよろしくお願いします。この場所が出来て3年経ったと思います。最初はエンジニアが中心だったのですが、最近はアーキテクツサイドの参加も増えて、アーキテクトとエンジニアリングの協働のあり方も含めて、広角的な議論に広がりそうなので大変楽しみにしています。

布野:最初に具体的に村上さんの方から直下率と安全性ということでお話をしていただきます。本当に刺激的なサブタイトルですが、木造住宅の設計はいったい誰の責任か、ということですね。よろしくお願いします。

村上淳史

村上淳史

木造住宅設計の問題:直下率と安全性 村上淳史(村上木構造デザイン室)

村上:みなさんこんばんは、村上と申します。大先輩や大先生の中で私のような若輩者が発表するのも緊張しますが、時間も短いので、設計の方からの話をしたいと思います。私は元々、木造住宅の住宅メーカーに勤め、その後プレカット工場に行き、自分でプレカットのための設計をしたりしていました。もともと構造出身ではありませんが、木造住宅の現場から構造をやりだしました。
プレカット工場で仕事をしている時に、プランが悪く梁がかけられないといった問題が非常に多く見受けられました。今から15,6年前です。木造の伏図は100人いれば100通りあると言われるくらいルールがありませんでした。そこで先ず、伏図のルールを作って行こうということで、NPOの「木の建築フォーラム」で職業訓練大学の松留先生と伏図のルール作りを始めました。
そんな中で木造住宅の構造の実態調査、床の不陸事故が起きた物件の調査を開始しまして、伏図のテキストについて・・・。その後5年くらい前から蟹澤先生たちともっとより深く考えようということで、直下率だけでないチェック項目を作って、構造実態調査というのを進めてきました。今年も200件弱の調査をしましたし、これまでの構造実態調査の合計は、600件くらいになります。本日は、その実態調査の内容も含めてお話ししたいと思います。
戸建て住宅における木造の割合が高い中で、近年の木造住宅はプレカットが当たり前になっています。2013年には、90%のシェアとなりました。(図-1)

(図-1)

(図-1)

現在プレカット無くして木造住宅はあり得ないようなものです。そのプレカット工場が今どういう立ち位置にいるか、どういう役割を担っているのかについても話もしていきたいと思います。(図-2)

(図-2)

(図-2)

4号建築物と言われる、2階建て以下の建物が割合的には非常に多いという結果になります。(図-3)

(図-3)

(図-3)

4号特例は構造審査の省略で構造図を申請で出さなくてもいいという制度ですが、それ故に、間取りが決まるとまず確認申請を出し、申請が終わってからプレカット工場に伏図を作ってもらうという現状があり、プレカット工場に来た段階では、ほぼ図面がフィックスしていて、なかなかプラン変更や構造的な提案ができない状態にあります。(図-4)
ましてや最近では、間取りだけ作ればプレカットであとはなんとか家ができちゃう状況です。

(図-4)

(図-4)

プレカット工場側から見ると、デザイン重視がゆえに梁がどうかかるか考えずに間取りを作ってしまっている設計者が多いと感じていました。
柱がある方が構造的に良いのになかなかそれを指摘できない現状があり、プレカット工場では、構造的に安全かどうかは別にしてとにかく設計者のプランで伏図を作っていかなくてはならいので、極端な話カタチにさえなればいい、というようなことで進めている現状があります。

15,16年前に141戸の床不陸事故を調査しました。(図-5)
床が不陸して扉が開かなくなったなどの保険金事故の図面での調査でしたが、直下率を計算するチェック図を作成してみると、事故部分である床が下がっているところと、チェック図で危なそうなところがほぼ一致しました。床不陸事故の原因としては、約8割が設計に原因があるということがわかりました。そのうち設計での間取りの問題が半分程、残り半分は架構設計の問題になります。伏図の問題が半分弱くらいあるのでは、という調査結果です。どちらかというと、間取りによる事故が設計事務所の問題、伏図によるプレカット工場の問題であると考えられます。

(図-5)

(図-5)

数年前に蟹澤先生と一緒にプレカット工場が作った伏図の調査をし、事故を起こさないで協働する仕組みをつくろうということでチェック項目をつくってきました。
4号建築物の軸組み工法だと仕様規定があり、3階建てや性能表示になると構造計算、ツーバイフォーも告示とうとう厳しいものがあります。(図-6)

(図-6)

(図-6)

軸組み工法だと、仕様規定で3つの計算、壁量計算、四分割法、N値計算方法などと仕様だけ守れば、確認が通り図面もできます。(図-7)

(図-7)

(図-7)

建築基準法には水平構面の具体的な規定や梁のかけ方の規定は当然出てきません。
許容応力度計算だと、梁成や接合部の検討や水平構面の検討が出て来ますが、基本的に梁の組み方などはどこにも規定がありません。極端なことを言うと、現状の架構はプレカット工場のCADオペレーターに任せているといった実状ではないでしょうか。(図-8)

(図-8)

(図-8)

そもそも、木造軸組み工法は、簡単な構造ブロックでできています。多分、S造やRC造では当たり前ですが、木造では設計の段階で間取り優先になってしまっていて、構造ブロックの中で設計していくことがなかなか行われていません。本来、軸組み工法では柱梁があって、壁がある。しっかり耐力壁と耐力壁を水平構面でつながらなければいけない。(図-9)
そして基礎がしっかりしていなければいけない。こういうことを考えるのが構造計画であると思うが、今の木造住宅の設計では、構造計画の部分が抜け落ちていると思います。

(図-9)

(図-9)

設計事務所や意匠事務所、プレカット工場のCADオペレーターに、この図を使って、柱と梁と桁の直方体があって出来ているこういう説明をしています。横に間取りが続く場合は、構造計画では間仕切り壁と柱が必要になります。上下の場合は、一致していなければならないが、なかなかそういう考え方はされていません。(図-10)

(図-10)

(図-10)

例えば、L型の平面を設計するとき、構造ブロックで考えると、2つの立体がくっついたものとして考えながら設計するべきですが、平面的にだけ考えると接続面に開口部を設計してしまう。そこは、構造ブロックでいうと、本来は柱があった方がいいところです。なくても成り立たせることは可能ですが、構造的にはあった方がより合理的というところであります。(図-11)

(図-11)

(図-11)

ですが、もし同位置にどうしても開口部が必要になったときは、3つの構造ブロックでできていると考えれば構造的に合理的になることになります。こういった工夫を考えるのが本当の構造計画だと考えますが、残念ながら今の木造住宅の設計には抜けていると感じています。(図-12)

(図-12)

(図-12)

LDKの図面を見た時、柱があるべきところに開口があり、柱が抜けていることが多々ありますが、開口の工夫により克服することができます。しかし、プレカット工場で作成される図面にはそういったものは少ないと思います。(図-13)

(図-13)

(図-13)

では、どういうふうにチェックすればいいのかというと、直下率があります。定義されているものではありませんが、ハウスメーカーの研究所に所属していたメンバーが事故調査をして編み出したものです。以前は、大橋先生などが耐力壁の直下率というものを使っていたらしいのですが、それとは違い、壁と柱の直下率の手法を取り入れてやっています。(図-14)

(図-14)

(図-14)

直下率のチェックはピンクのマーカーとブルーのマーカーと赤青色鉛筆を使います。2階の間仕切り壁をピンクのマーカーで、1階の間仕切り壁をブルーのマーカーで色分けし、重なるところは紫色になるというものです。紫色になっているところは1、2階に間仕切り壁が通っているということになります。また、2階の柱を赤丸で、1階まで通っているものは中を青く塗ります。更に、2階の平面図に1、2階通っている柱に青丸を付けます。つまり、青丸のついているものは1階まで柱が通っているが、ないものは梁で柱を受けているということになります。

単純で四角い部屋ばかりの図面で何も問題なさそうであるが、チェック図を描くと、こういう状況にあります。設計するときに、1,2階を重ねて設計することは当たり前だとは思いますが、結果を見るとなかなかそうなっていないと思います。内部はほとんどあっておらず、壁の直下率は52.9%、これはほぼ外周があっているから直下率が高いだけで、中があっていない。柱も36.2%。2階の柱がどれだけあっているかは直下率でわかりますが、外周の柱は1階まであるものが多いが、内部はほとんど梁で受けているということです。
今まで、蟹澤先生の所で、662件調査しましたが、平均値は、壁の直下率が59.4%、柱の直下率が54.2%という結果になっています。(図-15)

(図-15)

(図-15)

これが分布で高いものもありますが、低いものだと30%、20%、一番低くて壁が23.2%、柱が12.9%という結果になります。(図-16)

(図-16)

(図-16)

例えば、2階の柱が50本あったら、そのうちの10本も一致していないということになりますし、酷いものは7、8本しか一致していないということもあります。当然、柱と壁の直下率は相関関係があります。
しかし、壁の直下率が高くても、内部に柱がない物件など数字だけでは見えてこない部分もあります。
そういうことで、間取りを作った段階でチェックする項目を作りました。(図-17)

(図-17)

(図-17)

この今年調査した例は、1階と2階の間仕切りを重ねるとほとんどあっていませんでした。壁の直下率は19.8%、柱の直下率は26.8%。ではこれが、即事故になるのかというと、そうとは言えない部分があります。木材の材料強度の安全率が高いこともあり、即事故になるかというと、そうでもない。地震が来たから即倒れるかというと、そうとは言い切れないが、直下率が高い方がいいだろうと思います。
実際に熊本地震で倒壊した耐震等級2の物件のチェック図をみて見ると、壁の直下率は52.1%、柱の直下率は46.7%で平均の52.1%よりも若干低い。外部を除いた、内部の柱の直下率は28.6%とかなり低い。3割もない。倒壊した理由のひとつとして2階の耐力壁である筋交いが梁上耐力壁になっているところが原因ではないかと考えています(その後の建築学会の調査では、直下率の低さが倒壊の要因になっている可能性は低いということが示されています)。実際には、プレカット工場が梁の架方を決めれば建物が出来てしまうので、今回は構造計算ではなく、仕様規定の方で、耐震等級を満たしていたと思われます。最近は2階建てで許容応力度計算を使用しています。耐震等級3を長期優良住宅で取って欲しいとの依頼が多く、私も、許容応力度計算を行いますが、2階建ての住宅全体と比べるとまだまだ少ないといった状況です。
平成23年に2階建て100棟を許容応力度計算したらどうなるかという調査を蟹澤先生と協働で行ったことがありますが、結果は100棟すべてにエラーが出ました。(図-18)さらに、残念なことに、壁量規定も満たしていない物件もありました。

(図-18)

(図-18)

4号特例制度はあくまでも図書省略で計算をしなくてもいいということではありません。そこを誤解している方が若干いらっしゃる。(図-19、図-20)

(図-19)

(図-19)

(図-20)

(図-20)

結果はというと、100件で何かしらのエラーがある。(図-21〜24)

(図-21)

(図-21)

(図-22)

(図-22)

(図-23)

(図-23)

プレカット工場から図面を入手しました。意匠設計者が構造伏図を書いていれば当然平面図などと一緒にプレカット工場に届くことになりますが、100件の内、意匠設計者による伏図がなかったのが84件。あったものが16件。つまり、意匠設計段階で伏図が考えられてないということが明らかになっているのです。(図-24)

(図-24)

(図-24)

壁量規定のエラーが出たのが若干数あります。梁成が足りないなどの部材のエラーは92棟。梁の仕口のせん断などの接合部のエラーは87件。水平と垂直どちらも含めた構面のエラーは94件。エラーの総数でいうと、100棟やって2637件のエラーが検出され、1棟当たり26個くらいはエラーが出るという結果になりました。(図-25)

(図-25)

(図-25)

先程の46条の壁量が足りていないものに関しては、あくまで、プレカット工場での図面をもとに調査しているので、筋交いのマークのみです。実際の現場では、外周部は合板を貼っているかもしれませんが、図面上では壁量が足りていない。あとは、耐力壁と見なせない壁もありました。例えば、筋交いを用いる場合は、900mmの壁を基本としますが、600mmの細長い壁に筋交いが入っていたり、階段の下に入っていたり、そういうものが7件ありました。そもそも図面上で足りていないものは9件。壁量規定では、600mmの壁でも耐力壁としてカウントでききますが、工学的には細長い壁に筋交いを入れても何の意味もありません。
鉛直方面では、1階より2階の方がエラーは少なかった。

地震と風では同じくらい。
水平構面では、2階の方が多い。なぜ、こうなるかと言えば、最近は、1階は厚板合板を用いているので何もしなくても強いというのが挙げられます。(図-26)

(図-26)

(図-26)

一方で、2階の小屋組みは構造合板など貼らず、大体火打ち梁などで取ることになります。火打ち梁が少なかったり屋根勾配が急になったりすると、屋根面は弱くなります。その分火打ち梁を多く配置しなければなりませんが、実例はそれが非常に少ない。特に首都圏では、北側斜線による急勾配の屋根面や勾配屋根によるエラーが多くなっています。構造合板のエラーは少ないのが現状です。(図-27)

(図-27)

(図-27)

火打ち梁を入れる場合は、プレカット工場でいれてしまうため、指示はされないが、プレカット工場の方も構造専門でやっている訳ではないため、全般的に火打ちが少ない。あと、梁上耐力壁が非常に多い。(図-28)それが接合部などにもエラーが出てくる原因になります。

(図-28)

(図-28)

仕様規定を満たしていない物件は、姉歯事件以降の物件であり、木造住宅の安全性が疑われることになります。(図-29)
木造住宅においては、仕様規定と令82条の計算がダブルスタンダードになっていて、許容応力度計算に問題はあるが、仕様規定では問題がないために建てられるということが良くあります。あくまでモデル化の問題や材料の安全率の問題などで、エラーが出たからと言って即問題になるかというとそうではなく、詳細に検証する必要があると思います。

(図-29)

(図-29)

構造計算をしても、事故になってしまうケースもあります。構造計算はあくまでしっかりと構造計画がなされた物件の確認をするということだと思いますが、現状では木造住宅では間取りをとりあえず作ってあとは伏図をプレカット工場にお願いする、構造計算もソフトで行うケースが多い。それ故に、ソフトには数値を入力すればできるため、それが正しいのかどうかは不確かだと思います。また、構造計算には適用範囲があるため、それがしっかりできているのかどうかを見極める必要もあります。床の不陸事故が起きている物件で、長期優良住宅で耐震等級2のための構造計算をしていますが、プレカットの伏図で見ると、3次梁になっているところの床が下がっています。計算しているため、2間ない梁の成が390ある。ところが事故になって、その原因は何かというと梁の組み方であるということになります。2階の間仕切りがある、本来ならば荷重を掛けたくないところに小屋梁が掛かってしまっています。(図-30)

(図-30)

(図-30)

なぜ、3次梁が危ないのかというと、柱は下がらないため3次梁のたわんだところから2次梁がたわみ、1次梁は2次梁がたわんだところからさらにたわむということです。構造計算は支点から支点の間でどれだけたわむかを計算するもので、実際の変位とは開きがあります。現在の計算ソフトはその支点間のみのたわみを計算するものでたわみの累積は考慮されていません。(図-31)

(図-31)

(図-31)

また、1階まで柱が通ってない間隔の狭いところだと、それを考えて梁を小さくしがちであります。本来、1,2階通っているところに小屋荷重を掛けていかなければならないところを、プレカット工場の方は梁を小さくしがちであるということです。(図-32)

(図-32)

(図-32)

そこで、プレカット工場の現状がどうかのアンケートをしました。(図-33)

(図-33)

(図-33)

昨今ではほぼ全ての伏図をプレカット工場が作るようになり、壁量計算、N値計算、金物の拾いなどのほとんどをプレカット工場が行うケースが多いというのが現状です。壁量計算はするが、N値計算をプレカット工場に任せる設計事務所も増えてきています。(図-34)

(図-34)

(図-34)

これは、名古屋・東海地方のプレカット工場の27名を対象にしたアンケートです。(図-35)

(図-35)

(図-35)

意匠図に伏図が添付されている割合はやはり16%で2割に達成していません。プレカット工場のCADオペレーターは1ヶ月18棟、年間200棟くらいの伏図を作っているので、どんなプランが来ても多分梁を架けられるスキルがあります。そんな訳でどんなプランでも梁を架けることは可能ですが、それが構造的に大丈夫かどうかはまた別問題であります。
意匠図に伏図があった場合でも3割ほどは変更しなければならないし、伏図通り入力できない場合がほとんどです。それなら、むしろない方が良いという意見もあるくらいです。極端な話、変な位置に柱が設計されていると梁が架からない、むしろ下手な位置に柱を設計されるよりも、柱の位置も設計者は示さなくても良い、という意見です。見直しの依頼については、間取りに関わる変更はしないし、競争が激しいプレカット工場で下請けという状況下では言えないのです。工務店は、伏図の内容ではなく、とにかく安いプレカット工場に発注するのです。プレカット工場側が、建物の安全を考え小屋梁を大きくした場合なども、工務店には受け入れられない。ただし、柱の移動や追加などは受け入れられる。現場監督の伏図を見る能力が落ちてきているのです。(図-36)

(図-36)

(図-36)

プレカット工場のCADオペレーターがちゃんと建築の知識、構造の知識があるかどうかというと、資格を持っているのは3割くらいしかいません。無資格または建築の教育も受けたことがないCADオペレーターは半分弱います。とにかくコンピューターができる、CADができるという条件で募集して、先輩に教わりながら見様見まねでやっていく、といのが現状です。(図-37)

(図-37)

(図-37)

それ故に、構造責任をプレカット工場が負っていない、というより、負いたくない部分があります。設計者が確認して、設計者の責任において建てるのが本来の姿だと思いますが、先ほどの物件は設計者が本当に責任を負っている自覚があるのか怪しい。
プレカット工場も構造の責任を取っていない、設計者も構造の責任を取っていない、では、木造住宅は誰が構造の責任を取っているのか、という部分が曖昧で非常に危険な現状であります。(図-38)

(図-38)

(図-38)

プレカット工場では、経験で梁成を決定したりしているところが多い。最近は、何かあった時のために自分の所でCADの梁成の計算などだけするところが多くなってきましたが、まだ全部ではない。そういうことで、事故が起きたり、地震で被害が大きくなるというケースにつながって来ます。(図-39)

(図-39)

(図-39)

今の2階建ての木造住宅は設計者が間取りを決めてプレカット工場が伏図を作成しています。本来責任は、資格を持っている建築士が取らなければなりませんが、ほとんど丸投げという状況が非常に多い。一方で、資格を持っているプレカット工場も少なく、どちらかというと責任を取ろうとしないケースが多い。工務店においても、構造や伏図のことがわかる方が非常に少なくなってきていて、責任を取ることができない。(図-40)

(図-40)

(図-40)

では今後はどうするのか。まず、設計者の構造の意識を高める。そうしないとなかなか現状は変わっていかない。本来建築物とは、先ほど説明した構造ブロックを用いて設計するものであると思いますが、そうではない。ちゃんと根拠のしっかりした計算や特殊な場合は、ちゃんと計算するので問題が少ないと思われるが、そうではなく、ただ組み立てだけでやるケースが多いのではないかと思います。また、プレカット工場が上下の関係から提案が出来なかったり、そもそも責任を持とうとしていない。木構造のわかる技術者の育成が必要であったり、4号特例など制度の改革が必要であると考えています。設計者だけでなくプレカット工場なども含めた意識の改革が必要だと思います。(図-41)

(図-41)

(図-41)

蟹澤:私も危機感を感じています。状況は年々ひどくなっているような気がします。プレカット工場の方に聞いても、来る物件は年々ひどくなっていると話していました。プレカット工場に来るのは、以前は梁と柱だけであったが、今では業務が複雑で膨大になっています。部材の大半をプレカットで、大工さんが何もしなくても建てられる状況になっているため、何とかしなければとは思います。この前、あるプレカット工場の方から、建て替え費用4000万円を請求されたと相談された。それは、図面に押印した建築士の責任でプレカット工場に責任はないと応えましたが、そもそも認識の違いがあると思います。熊本地震で新築にも被害があったのは、そういうこともあったのかなと考えています。

布野:アプリケーション・ソフトはないんですか。誰かが本気でやるべきではないんですか。直下率や壁率もうまく組み込めないですか。

村上:チェック項目は、先ほどの30項目を用意していますし、CADに取り込むこともできます。

蟹澤:CADは、チェックはできるんですが、入力しているとエラーばかり出てしょうがないから切っているという例が多いそうです。

布野:しかし、架構があって施工するという前提が崩れているということは大問題ですね。調査の実態はいい方だと思えばいいんですか、それとも悪い方だと思えばいいんですか。

蟹澤:いい方です。調べたプレカット工場は中国木材という大手?ですから、まともな業者さんです。

布野:木造二階建て住宅はいま何棟/年くらい建っているのですか。

村上:30万棟ほどです。

布野:その30万棟の内の90%がプレカットを使っている訳でしょう?良い方が今報告いただいた例ですか?

蟹澤:恐らくまともな方です。

布野:まともって、もうそれはもう建築じゃないんじゃない?

蟹澤:いろんなプレカット工場に図面を出してチェックさせてくれと言っても出さないですから、出してくれるということはまだまともということです。

布野:愕然としますね。

長谷部:事務所を開設し、初めて4号建築物を設計している時に、プレカット工場と直接話しがしたいと思ったことがあります。契約形態の問題もあり、まだ施工者が決定していない設計期間においてはそれが出来ないということです。そんなこともあり、今はプロパーで住宅設計をするときは、構造家に頼んで、一緒に架構を検討しています。
また、最近始めたんですが、少し前から工務店の設計支援というか、営業設計の仕事をやっているんですが、それではBIMを使って壁量計算や直下率をソフトに計算させます。ソフトだと判定出来ない部分もありますので、構造家が入り、梁で受ける耐力壁等や、筋交いの数等は別にルールをつくってやっています。また、直下率もチェックしていて壁と柱はそれぞれ60%以上をキープするというルールも設定されています。町場の設計士もプレカット工場頼りではなくてそこまで行ってますよ。

布野:基本的に「建築」じゃなくなってるんじゃないですか。

長谷部:いや、みんな、建築になるようにやっているわけですよ。

村上:もちろん、やっている方もいますし、そうじゃない方もいる。

布野:とんでもない話になりそうですが、蟹澤先生お願いします。

蟹澤宏剛

蟹澤宏剛

工務店と大工育成問題:蟹澤宏剛(芝浦工業大学)

蟹澤:今日は村上さんの話題がメインです。我々が調べたところは、そもそも図面を提供してくれるところで、今ではほとんどが中国木材であるからまともなところである、という前提を持ってください。中国材は高いので。
5、6年前この研究を始める時に我々は、元々の先入観もあり、大卒で1級を持っている建築士より工務店が優れていると思っていて、それを言いたかった。また、東京よりも伝統のある地方の方がいいと言いたかった。5年前は、まだ手刻みかプレカットかの論争をしていたので、手刻みがいいよねということを言いたかった。結論から言うと、ほとんど全部反対でした。
僕は、工務店のこういう場で話をするときに「みなさん聞いたでしょ、チェックしてあげるから図面見せてくださいよ」というと、その場ではみなさん「いいよいいよ」といいますが、その後、絶対に図面を出してくれません。僕が付き合っているのはかなりまともな、何とかの会に入っているようなところですが、ほとんど出してくれません。でそういう集まりに行くと僕はまず工務店の人たちに「君たち認識がだめだよ」というためにまずこの写真を見せます。(図-42)

(図-42)

(図-42)

これ、ベトナムの町場の建設現場です。チューブハウスで、施工者はサンダルを履き、麦わら帽子を冠り、変な足場に乗って作業しているんです。
これも今の標準的な足場ですが、こんなところで、ビーサンTシャツ、ノーヘルみたいな感じで作業をしているし、現場は汚い。この写真を見せるとみんな笑っています。

布野:ヴェトナムの住宅はまだ型を持っているからいい。施工の問題はある。

蟹澤:今日はそういう話ではなく、みんなこうして笑っている。そのあとに日本の建て方の絵です。よく見てください、これ全部表に出せない。(図-43)

(図-43)

(図-43)

これ全部安衛法違反です。足場が足りない、誰も安全帯していない、親綱ない、ヘルメットを冠っていない人もいる。ほんとは工務店が好きでこういう研究をやっていたんですが、現場の実態なんか見ると、よく工務店がよくてハウスメーカーやゼネコンはブローカーだなんていうけど、ゼネコンの安全はものすごくちゃんとしています。工務店の相当優秀なところは、さすがに最近は足場を組むけど、こんな感じで、これ最近ネットから拾ってきたやつです。安全帯や親綱張ったら建物出来ないだろというのですが、実際にこれで落っこちて亡くなっている人も数名毎年います。ノーヘルでこの2階の梁から落ちますと確実に死にます。厚労省も言っていましたが、モッケンと言う注意物件だと。工務店というのも、職人から工務店の社長になった人はほとんどいません。昔からの問題だったのですが、大工と工務店の関係を見てみると、工務店はみんなウチの専属の大工だとかウチの大工だと言って、作業着まで着ているのですが、全国で大工さんが社員である例は一桁社くらいしか知りません。みんな外注。みんな外注なのだけど、自分のとことで専属でやっている、自分の所の下小屋を使っている、作業着を着ている。場合によっては名刺まで持っている場合もありますが、あれ全部が社員じゃありません。ほとんどが。そういうのを偽装請負というのですけどね。賃金は相当いい工務店でも日当2万円もらっていればいいところで、1万いくらが主流ですよね。2万円だとしても20日働いて40万、年間500万行かないくらいですから、大体そんな感じ。また、設計力の問題。それから、現場に立脚しているのが工務店の強みなのでしょうが監督が現場を理解しているのか、そもそも現場に来ているのかなどの問題があります。今日は話しませんが、簡単な安衛法のクイズをこういう監督の集まる講習会でやったのですが、半分くらいできるかなぁと思っていましたが、ほぼ0点でした。足場の高さや手すりの高さと言った問題でしたが、そういうのが実態としてあります。
(図-44)

(図-44)

(図-44)

木造住宅が特に東日本大震災後に変わって、その前は割と木造が好きな人たちと付き合っていて、そこ頃はまだ魔法瓶みたいな住宅に住んだら健康に悪いとかジンカン材も結局強度が弱いとか、プレカットの継ぎ手は丸っこいから弱いと言っている人はいたし、実際、雑誌にもそう書いてありました。そんな時代が急激に変わって、もう魔法瓶みたいな住宅なんかにしていたら相手にされないよねというくらいになった。プレカットも9割の時代になりました。
よく2極化していると言われますがが、僕は4極化していると考えています。まず、本当に設計施工ができるところ。調査したところでは、1割いるかいないか。かなり有力な何かの会に属している工務店でも、プランくらい描いたら、あとは例えばパナソニック電工の営業マンが来て自社の製品を全部入れて仕上げてくれるとか、そういう設計やっているところがかなり多いと思います。自分の所の住宅部品を使ってほしいから、ちゃんと清書してくれる。その場合は部品メーカーですから、恐らく伏図のチェックはしません。それか、大手の下請けになり、施工専業でデザインビットビルドしているという工務店もいっぱいいます。恐らく、いま国交省と一緒に調査中ですが、工務店の名前の木造の建設業許可を受けている工務店の半分は0棟工務店と言って、1年間に新築を1棟もやっていない。長期優良をやったことあるかというともっと少なくて、4分の1いるかいないかというようなことになっています。(図-45)

(図-45)

(図-45)

こんなことを検証しながら今まで村上さんたちと、こういう研究をやってきたということです。疑問に思ったのは、大工は木のプロだから、何でも知っていると思っていたが、どうも地方の木造住宅を見てみると、むしろ構造的に良くないものはいっぱいある。村上さんとよく言うのは伝統で平屋は設計したことがあっても2階建ては設計したことないんじゃないかということです。実際のデータでも、1973年まで、2階建てが少なかった。(図-46)

(図-46)

(図-46)

だから今の大工さんでも2階建てをやり始めて1世代か2世代前くらいということになります。よく日本は何千年も木造の歴史と言いますが、社寺建築は別に中に人は住まないので、特に五重の塔がどうのこうの言われても、あんなのは全く人が入るスペースがないし、構造体だけでいいのは決まっている。そういうことでいうと、多分大工さんを買い被り過ぎなのかぁという感じがします。当然知識はありますが、大工さんの癖のようなものもある。例えば、負いの木組みを嫌う。枕梁を使って開口部で受けるなど、実際に大工に習った本当に木を愛する建築家は、割とそれをやる。指摘すると逆に怒られて、こういうこところも議論の論点かなぁと思います。
これからどのくらい大工が減っていきそうなのかということですが、多分このくらいかなぁと思うのですが、これは国勢調査に基づくものですが、ピークに比べて半分。(図-47)

(図-47)

(図-47)

65-69歳を除くと、2030年には、だいたい今の半分くらいになります。実際、2010年の国勢調査の10代の大工は1000人ちょっとしかいません。(図-48)

(図-48)

(図-48)

若者自体が2030年には2割が減るので、これから大工が減るのは確実。また、賃金も安く重労働なのでいまどきの若い人が職人になるのは無理があるんだろうなと思います。(図-49)

(図-49)

(図-49)

工務店を応援したいが、ハウスメーカーやパワービルダーは大工を社員化している。あるハウスメーカーは東京と横浜で300人ほどを社員にしているし、あるパワービルダーも土建組合の訓練校に新入社員を送り込み、訓練して、大工を社員化するということを始めています。ゼネコンも名義人の囲い込みや子会社を作って直接施工することなども検討しています。これに比べると、ほとんどこの辺に工務店は気づいていないのが実態。(図-50)

(図-50)

(図-50)

大手ゼネコンの協力で、職長の意識調査をしました。仕事にやりがいを感じているかと訊くと、9割くらいが感じていると、内容も満足化と訊くと8割くらい。賃金に満足しているかと訊くと半分くらいです。(図-51)

(図-51)

(図-51)

他方で子どもにその仕事に就かせたいかと訊くと、はいが1割です。賃金も安く年500万円くらいです。それから悲惨なのが休めないことですね。土曜日に休めるのが3%。特に偉くなると、いろんな作業があり自分はさぼれないと。職人になりたくないという理由を聞くと、子どもの運動会に行ったことがない、それくらい行きたいと、家族旅行に定期的に行きたいと、不定期な仕事はしたくないというのがあります。(図-52)

(図-52)

(図-52)

大工の賃金ピークは年450万円くらいでずっと変わっていません。これは比較対象で土工のものです。大工との差はほとんどない。これはまた電工で、電工の賃金はいい。また比較対象で町工場の鉄を削る旋盤工でこれも比較的いい。これは高卒で1000人規模のゼネコンに行った時で、調べた時は一番低い時期でしたが、それまではずっと1千万を超えていました。一番の問題は、職人の賃金ピークが早いことです。これは統計でどこを取っても30代後半から40代前半にピークを迎えます。それに比べてゼネコンや旋盤工や電工は50代までいきます。ここで皆さんに考えていただきたいのは、よく職人になるには最低でも10年かかると、熟練になるには20年で一生勉強だといいますが、大工を見ると18歳くらいで入職して10年たってようやく熟練したかなと思っても、賃金が下がってしまうということです。(図-53,-54)

(図-53)

(図-53)

(図-54)

(図-54)

ようは、評価されているのは体力しかないじゃないかと。こんな時代に、見て覚える仕事なんて若い人が10年続くわけがないので、とにかく1年でも2年でも早く仕組みが「必要じゃないかぁ」とあちこちで言っています。

昔は違ったといいますが、統計を見る限り、昔から変わっていません。これも我々の勘違いだったかなぁというところがあります。プレカットになった時代にどうやったら大工が稼げるか。昔は親方になれば儲かるというが今はないですし、本当のことをいうと親方というのは搾取のビジネスで、弟子から搾取をすればするほどもうかる、ことから修行の期間が長いのではないか。そう考えると合点が行きます。(図-55)

(図-55)

(図-55)

昔は材料で稼げました。銘木で当たれば原木の10倍の値段で売れましたが今はありません。また、墨付けは儲かった。下小屋作業がなくなり現場の直行直帰が増えてしまったのが今の大工。それから、設計をやらせてもらえなくなった。徒弟がいなくなって、管理監督する立場がなくなり、60や70になっても労働者になってしまう。昔はB to Cであったが、B to Bになってしまった。これを改善しなければ、大工になりたい人は出てこないので、とても難しい問題であると思います。(図-56)

(図-56)

(図-56)

アーキテクト・ビルダ―は誰が担うのか。大学で木造を教える。これ僕は大切なことだと考えているんですが、今、大学で木造を教えられる先生は何人いるか数えられますよね。また、大半が設計を教えている先生ではなく、構造を教えている先生なので、これが結構問題です。じゃあ、大工に構造を教えるか。これはもしかしたらあるかもしれません。しかし、日当月給で働いている大工に学校に来てもらって教えるのも難しい話ではある。その他の職人でも左官屋がいないとか、建具も大切だけど建具屋さんもいないだとか、左官組合の役員はみんな80歳以上でそういう時代。手刻みと銘木で設けられる時代でなくなった今、大工にどういう夢を持てるのかということ。どんどん新しい技術が出てきて、省エネ対応になってきた時に、毎日毎日直行直帰で現場で働いているだとか、中小工務店が大手にどうやって負けない知識を持ち続けていけるかが大きな問題だと思います。(図-57)

(図-57)

(図-57)

付加価値の低い労働と見なされていることに関しては、やはり知識労働化という部分は認めていかなければいけないのだろうと思います。だから、富士の静岡に大卒の大工を雇っていますという工務店がありますが、あそこは実にうまいビジネスモデルで、大工、大工と言っているが大工ではない。監督兼見積もり兼プレカットですから少し修行すればあとは誰でもできるので大工ですが、そういう意味では知識労働も取り入れている、上手い例であると思う。工務店は社員化しないで外注に都合のいいことを言っても無理があるということ、それから、現場を見てもわからないのだから現場監督はいらないというのであれば、大工と現場監督を一緒にすればいいじゃないかという議論もあります。(図-58)

(図-58)

(図-58)

進みすぎた分業体制を改める。大工が出来ることはいっぱいある。パワービルダーでいうと、現場の7,8割は全部大工がつくっています。外壁も張るし便所も付けるしシステムキッチンも施工するしサッシも取付ける。大工が全部やる。それでも賃金は安い。建築業法上の技術者に職人がなれるように一生懸命働きかけて、これはもうじき実現しそうです。基幹技能者という制度がありますが、それを取ると建設業法上の技術者、主任技術者にしてくれるように制度改正がもしかしたらなりそうです。それから、固定給でどのように稼ぐかということを考えねばなりません。そのために努力している工務店はいっぱいって、新築のことだけ考えていると固定給は辛いが、雨が降ったらリフォームに行く、雨が降ったら下小屋で家具を作るなど、やることはいっぱいあります。点検も含めて、今までは努力もせず雨が降ったら職人は休みだというビジネスモデルに胡坐をかいてきたのが木造の業界ではないかと思います。どのように仕事をするか、高い稼働率を考えなければいけません。また、賃金を上げるためには生産性も上げなければいけないので、やはり賃金を倍にするためには生産性も倍にしてあげないといけないので、住団連でも「賃金2倍、生産性2倍」を標語にしようよと言ったら取り入れてくれました。高付加価値労働にしていかなければならない。そのために教育訓練や教え続けていく仕組みなどを作らねばならないなと考えながらいろんなことをしています。(図-59)

(図-59)

(図-59)

今日は是非、お初にお目にかかる方も多いので、いろいろ議論できたらなぁと思います。

布野:火をつけられた気がします。

安藤:蟹澤先生のキャリアパスのこと、どうやったら技能者の将来を設計できるかについて話がありましたが、私はこの話はいずれもう一回してもらいたいと思います。とくにキャリアパスに関しては、ここのところ保険管理問題ということで、蟹澤先生が頑張って非常に大きな進展があったと思うんです。これをもう少しみてみたいと思います。特に諸外国の制度とも比べてみたいと思います。

布野:斎藤先生はご存知ないかもしれませんが、僕と安藤先生は内田祥哉先生に言われてサイトスペシャルフォーラム(SSF)から始めて「職人大学」をつくるのを手伝わされたんです。ものつくり大学として実現するんですが、蟹澤先生はものつくり大学で先生をされていました。職人の問題は、基本的にそう変わらないんじゃないですか。ただ、高齢化の問題は致命的になっていることでしょうか。親方が搾取するというけれど、重層下請の構造は変わらない。末端ではいろいろの問題が歴史的にある。建設業界は現在好景気だけど、構造的問題は一貫している。それよりまず、前半の村上さんの話が、ショックですね。職人が高齢化していなくなるのはいかんともしがたい。ヴェトナムで建設技能を教えて日本に連れてくるといったことが行われていますね。少子高齢化の中で日本が移民をどうするかという議論がある。労働力として考える。だけど、建築家はいなくなってもらっては困る。在来の木造建築の世界では既に悲惨な状況になっている。昔から職人は基本的に馬鹿にされてきたんです。古代ギリシア、ローマだって手仕事は一段低い仕事と思われていたんです。しかし、そうした職人の中から建築家はでてくるんです。ルネサンスだとダ・ヴィンチだとかデューラーだとかみんな職人ですよね。コルビュジェは時計職人の子だし、ミースも石工の子でしょう。現場の総合的な知恵みたいなものを持っている現代版がアーキテクトビルダーだとすると、そういうのは絶対必要ではないかと思う。労働力としての職人問題はちょっと置いておくとして、建築現場の知恵の体系が気になります。建築あるいは住宅をつくる知恵の部分が解体されている、ということがすごく気になる。職人養成は大手の建設会社はちゃんとやっているんですよ、という。全体システムとしては疑問ですが、まずは、建築家、設計者が問題だと思う。長谷部先生みたいにちゃんとやっているのがどのくらいいるのかということですよね。全体の体制はどうなってるのか。30万戸を誰がどう建てているのか。そこらへんをもう一遍整理しなおす気になりました。蟹澤先生が国交省で職人問題について頑張っているのを僕も知っていますけども、今日は住宅の設計とその体制みたいなところをテーマにしたらどうでしょうか。意見とか質問とかあれば出して頂きたいのですが、いかがですか。

鈴木あるの

鈴木あるの

不都合な真実

鈴木:気になったのですが、構造のモデルを作って構造設計に入れましょうとしたときに、お客さんの方で、そんな余計な設計料を払いたくないと言われるのか、それより間取りの方を優先させてほしいと言われるのか、それともそこまで危ないとお客さんがまだ気づいていらっしゃらないだけなのか、ちゃんと言えば、ちゃんと気を付けてくれるのか。

布野:お客さんも一緒ですね。世の中に建築とか住宅の構造の問題は理解されていない。間取りを描けば住宅はできる、そういうもんと思っている。。

蟹澤:だから我々は、さっきのチェック図なんて誰でもできるから、お客さんに教えちゃおうか、と思っている。

鈴木:そう、見せたほうがいいと思うのですが。

村上:私は建てて住んでいる方といろいろ直接お話ししたことはないのですが、多分一般の人は、設計士に任せておけば、普通に安全な家ができると思っている。当然ですよね。こんなに地震も多いし、頼めば、大丈夫だと思っているはず。それがこういう現状になっているというのはわからない。

蟹澤:ひとつ補足してお考えいただきたいのは、間取り優先だからと言っていい間取りかというと、そうではないんですよ。柱こっちにしてこれ逆にした方がいいんじゃないとかね、絶対そっちの方がいいんですよ。間取り優先だからしょうがないっていうけどね。

布野:そういうのを組み込んだソフトできないんですか。

鈴木:チェックできても、それが法律で4号建築物の要件が満たされている以上、そのままで良いと言われれば、止められないですよね。

村上:10月か11月の熊本地震のNHKスペシャルに私と蟹澤先生がちょっとインタヴューで出演させてもらったのですが、プレカット工場の方も違法じゃない、基準法は守っていると言います。今回は基準を守っていても倒れてしまったというところがあるので、それをお施主さんはどうするか。じゃあ、震度7が2回来る確率はどうか。

布野:直下率とかではなく、建築のシステムが崩壊している、ことが大問題ではないですか。どうやって建てるか、せめてこれだけはやってくれというのは何か。壊れても、地震が続けて2回来て壊れても、人は死なないという指針ですね。許容応力度を計算したって壊れるものは壊れるでしょう。結局は壁率かなぁって横尾先生が思ったのは、壁を決めて左右前後バランスよく入れてくしかない、ということですね。しかし、どうすれば身につくのか、大学で誰が教えているんだということになりますね。

蟹澤:震度7が何回っていうのは今関係なくて、いまツーバイフォーでMホームが何十回揺らしても大丈夫だとやっているが、あれはツーバイフォーだからスパンは飛ばせないだとか壁の位置があっているからですよ。軸組みだってちゃんとしてれば、持つんです。

四号建築物

齋藤:五條さんが来ているので解説というかコメントをお願いしたいんですが。

五條渉

五條渉

五條:僕の想像を遥に上回る話を伺いました。こんな話になるんだろうなという想像と今日の議論はかなり違いました。今の報告と少し違うことかもしれないですけれど、熊本地震があって、木造が注目されていて、ご存知の通り、国土交通省主導の委員会の益城町の調査で、新耐震前と、新耐震以降2000年までと2000年以降との3つを比べると、倒壊の比率にものすごく差あって、やっぱり昔の旧耐震時代は壁量が少ないからそうとう壊れてしまい、新耐震以降2000年までも接合部などでいろいろな問題があり、かなりのものが倒れてしまったけれども、2000年以降は接合部などが良くなっているので、一部倒壊したものはあったけども、非常に少なかった。倒壊しているものは数えるほどしかないんですけれど、それを調べていくと、本当に原因がわからなくて、良い設計をしたかもしれないが壊れたというものもある。基準と設計と建てる方などいろんな方の努力でだんだんとそれが良くなって来ました。じゃあ、そういう中で何故壊れたかとのはどういう話があって、直下率という話題が出ていたのでそのようなという流れを想像していたのですが、設計とか建築の話が上がったので、じゃあなんで2000年以降のものの倒壊が少なかったのか疑問に思うくらいで、こういうことを言ったら失礼ですけど、もっと倒れていれば社会的に問題が大きくなって、何とかしようと。4号建築というのは、ちゃんと見ろというのが姉歯事件の審議会などで決まっていて、国土交通省も止めると言ったのが経済的な理由かなにかで、やめようという声はほとんどなくなっていて、それを問いなおす熊本地震でも、それほど倒壊していないので、そういう声は出ていない状況にある。

布野:設計者の立場でちゃんとやっていますという話はある。地方では、職人さん工務店、建築設計者がきちんとやっている伝統とか体制はまだある。結局東京のような大都市圏の問題なのか。

村上:そうではなく、私が思うに、工法と材料が良くなった、それから架構と工法は外周部に構造用合板を使う。ただ、九州は筋交いのみというところが多いので今回はそういう被害になったと思うんです。最近は構造合板と2階は厚床合板直張りです。当然、基準も厳しくなっているというのもあるので、あと性能表示制度とかもあるので、相対的には多分、建物が非常に強くなっている。私どもにいろいろ教えていただいた方がいるのですけども、何十年も前は未乾燥材で割れたり反ったりしていたけれど、今は人工乾燥材、集成材、材料が非常によくなった、プレカットが出てきたことで加工の精度が良くなった、ただ一つ、設計というのがまったくよくなっていない、逆に悪くなっている、というんです。確かに、直下率が悪いから倒れる訳ではない。

布野:そこなんですよ。建築学科でそれを教えているはずなんだけど、建築学科で教えた層が在来木造の世界で働いていないというのが実態としてかなりある訳ですよね。

蟹澤:建築学科を出た人とプレカット工場のオペレーターは別ですよ、あれは大手のプレカット工場で、中小まで入れると資格者なんてほとんどいないと思うんです。

布野:まずは体制の問題ですね。そして建築教育、そもそも人材の問題もある。

設計教育の問題

蟹澤:設計教養の問題はあると思います。僕は芝浦工大で、村上さんにも非常勤で手伝ってもらって、学生に木造の伏図が描けるようにと非常に大変な授業をやっているんですが、当初はわかってくれる意匠の先生とわかってくれない先生がいて、僕らはグリッドで設計させるなというのが二人いました。この研究始めたときは、そんなこと言うから自由な設計ができなくなっているんだろうという先生が大半だったんですが、教育効果があると最近は笑っていますからね、5年前にそんなこと言っていた人が。

布野:我々の世代は、グリッドとか建築資料集成は見るなというのが当たり前だった。しかし、構造を考えるのは前提だった。

安藤正雄

安藤正雄

安藤:木造住宅のことは教えられてなかったんですね、我々の頃は。ちょうど吉田さんもいらっしゃいますけど、深尾さんとか布野先生それから私、そして大野勝彦さんがいて、木造住宅生産組織研究会が85年まもなくだと思うんですが、その時、大学は木造を教えていなかった。さっき、舛添君も話題に出ましたけども、木造生産組織研究会がある時期で終わっちゃたかと思いましたけども、蟹澤君がついでくれて細々とこうして続けてくれて言うというのは、一つよかったなと。ただ、木造をきちんと教えるということについてコンセンサスはないと思いますね、建築界の。

布野:木造は教えなくてもいいんだけれど、建築をちゃんと教えてほしい。ただ、教えてもそれを使う体制にちゃんとなっていないということが今日わかった。

安藤:だからその、現場の職人と設計者のどっちに知識や知恵があるべきかということですけれども、どこでもどういう知識を習得するかは、もう少しきちんとしたマッピングがあっていいと思うんですよね。大学でという話は必ずしもないと思うし。

在来木造住宅再考

布野:蟹澤先生のプロジェクトを立ち上げて、体制たてなおさないと相当やばいんじゃないですか、かつての住宅生産組織研究会のような。東京だって、東京オリンピックまでは2階建がせいぜいだったんですよね。なんとなく1階にリビングがあって広くて南面でという形式が定着したけれども、北海道みたいにね、雪があるからって、2階にリビングという形式だってあり得たんですよ。そういうのは誰も考えていない。それがいまはプレカットで、なんでもできちゃうっていうのにすごくショックを受けた。

中村良和

中村良和

中村:セキスイハイムでの立ち位置ではなくて、もともと僕は、大工の構造上がりで、実をいうと直下率の松留先生の研究会にご一緒させていただいて、今回の二人のお話を聞いて、ほんと同感だし、その通りだと思います。で、一番驚いたのは、布野さんをはじめ、今日話していることに驚いている先生方がいることに驚きました。考えられない。これが本当に実態だと思うし、ひとつ、教育というか教える話はすごく大切だと思うんですよね。設計の人は大学でなんて教えなくていいんだというけど、設計事務所の設計者は建築学科を出ている人が多い訳じゃないですか、プレカット工場にはいないかもしれない。設計者に、直下率うんぬんもチェックもなんですよね。そうではなくて、プランニングをするときに架構を考えながらプランニングをしろよ、という基本のところが抜けてきてるんです。大工さんも、クレーンが出来てから、梁の上に登って順番に架構していく作業をしていないんです。だから、2次梁、3次梁みたいに真ん中がなくなっちゃうみたいなものは、普通は、柱と梁の上に上がっていると考えながら配置するので、ありえなかったんです。そういうことの延長線上にプレカットだとかCADとかBIMとか、がある。それは別にいいんだけども、布野さんが、ソフトでチェックすればいいんじゃないかというのは最低で、ブラックボックスにしちゃダメなところはダメなんですよ。

布野:そりゃそうですね。ソフトで計算したらOKという、ことではない。確かに、中層のRCの建物についても、ソフトで計算したらOKとなっている建築指導の窓口はおかしい。

中村:プレカット工場が始まった頃手伝ったことがあって、その頃は若造というか大学直後くらいだったので、上手くできなかった。架構していく順番だとかは結構大工さんによって違うじゃないですか。やったら最初駄目じゃないかと言われた、言われたんだけど、どうしていいかわからなかった。その辺どうしてされてますか。

村上:やはり、大工さんの癖というか、工務店ごとに違う。構造的に悪かったとしても、いや、ここの工務店はこういうやり方でやるからと言われる。私も、プレカット工場にいた時、構造的にこういうやり方の方がいいのに、なんでそういうやり方をやるのですかと言った時に、工務店がこういうやり方だからこれでいいんだよ、と言われてやっていた、というのが現状ですよね。それは、きちんと教えれば、プレカットで工務店さんに言ってくれればちゃんと聞いてくれるようになる。大分そうなってきていて、プレカット協会というところでプレカット工場のCADオペレーターに建築や構造の知識をいろいろと教えている。

中村:質問は、大工や工務店の癖みたいなものをオペレーターが入力するときに、マニュアル化されているのかということです。

村上:それはCADオペレーターの頭の中だけですね。工場によっては、担当があるところもあるし、そうではなくて、まんべんなくやっているところもあります。この工務店イコールこの人になると、その人の頭の中にしかない。だから、建て方基準の統一化というか、すればいいが、大工さんの癖などで、できないというのが正直なところです。当然プレカット工場のCADオペレーターは建て方手順を必ず考えて、伏図は組んでいるので、ではそれが、構造的にいいかはまた別の問題で、建て方手順は必ず先輩から教わるものなのでそれはかならず出来ていると思います。それがマニュアル化できているかというとそんなことはありません。

布野:柳沢先生がたまたま来ているけれど、住宅設計ではプレカット使っているでしょう。

柳沢究

柳沢究

柳沢:名城大学の柳沢と言います。私はリノベーションから入って、事務所での修行もせず、3年目くらいで新築住宅を初めて設計したのですが、その時に伏図の書き方がわからなかった。テキストを見て、まさに今日の直下率や構造ブロックの考え方を知りました。そういったことを大学で教わった記憶はありません。設計事務所で働いていたとしても、体系的に教わることはまずないと思います。もちろん、自分が勉強する気になればテキストもあるのでそれなりにできますが。そのため設計者の中でも知識のばらつきはかなり大きいと思うんです。まずはそういうことを大学でも教える必要はあるだろうと思います。一方で、どの業界でも意識の高い低いはあるものなので、今日のお話のようにその差が評価されて社会からもわかるようになれば、多少は是正する力が働くのではないでしょうか。それがすぐには難しいとしたら、僕はなるべく頑張って伏図まで考えますが、難しい時には構造設計を依頼するので、そのように構造設計者が住宅の設計に関わることがより一般的になる、という方向はないのでしょうか。

村上:本来は、計画している段階でプレカット工場と梁のかけ方などを計画するべき。構造事務所も計算だけして、伏図は納まりなどを考えるのが非常に難しいので、プレカット工場にいくと、1台1000万くらいの3DCADでやっている。納まりによって梁成が変わったり梁のかけ方が変わったりというのがあるので、私はプレカット工場と設計事務所が、対等に話ができるシステムがいいと思って、ずっとやっているんですが、やはり仕事の上下の問題、あと木造には商流の問題もやはり出てきて、プレカット工場が直接工務店や設計事務所から受けていない場合がある。材木店が入って建材商社が入って、非常に遠いところもある。本来は地域ブランド化、国交省がやっている地域ブランド化は同じテーブルでいいものを建てていきましょうね、という取り組みだったはずなんですけど、やはり商売の方が優先になってしまうのですよね。あとは、正直、構造やっている方はわかると思いますが、木造は儲からない。木造の構造計算ははっきり言ってコストが安い。

長谷部:この前工務店と話していて、びっくりしたことがあって、僕は木造住宅にも構造設計者に関ってもらいたいので、構造を入れて設計したいと言います。するとお金がかかるからやりたくないっていうんですよね。なんとかして入れないとこういう空間出来ないよと話をすると、あそこに頼むと遅いし、配筋が多くなるという。そうすると職人が逃げると言うんです。

村上:2階建てだと地中梁とかが出てきちゃうからだと思うのですけど、構造サイドから言うと、工務店のつくる住宅の基礎は鉄筋コンクリートではない。そのくらい構造が成り立っていない。

長谷部:今僕が永井拓生さんとやっているのも、4号建築ですけど、基礎はSRCです。

村上:3階建ての構造計算の申請は、関西の方に行くと、1棟10万とか15万でやる。それで構造の責任も持つという。

布野:会場から一言ずついかがですか。

中谷正人

中谷正人

中谷:僕は、「土佐派の家」と20年つき合っているんです。手刻みがいいと思い込んでいる人がいっぱいいるんですが、彼らの話を聞いて、プレカットについて考えてみたら、カッターの関係で踏ん張りがきかないというんです、回転が掛かった時に。今のプレカットの形ってみんな伝統工法の真似をしているだけですよね。もっと有効な形はないのかな。例えば、梁を柱にぶつけるときにね、ダボを2つにしちゃいけないの。

村上:いまプレカットだとやろうと思えばできます。

中谷:できますよね。ならもっと、有効な形があるんじゃないかなという気がします。今回非常におもしろかったんですけれども、住宅だけじゃないですよね。国交省だって、商業建築は低層木造建築にしようだとか、林野庁は2020年までに50%にしろっていうでしょう、もっと全部木造にしちゃえよって思う訳ね。構造計算だって小さいから儲からないわけでしょ。構造家も、中規模、小規模だけじゃなくて、大規模で大胆なものばかりじゃなくて、住宅レベルを広げていけば、さっきのチェックリストを使っていけば結構うまくいくんじゃないの。

村上:設計できる人がいない。構造計算できる人が少ない。怖いところは、非住宅は今増えているんですけど、四号建築物で扱って建てる人が結構多いですよ。500平米いっていないと計算しなくてもいいので、スパンが10m飛んでいても、「平屋の事務所で壁量計算だけでいんでしょ、じゃあ、伏図、プレカットでお願い」という例が結構多いですよ。非常に怖い。それこそ、構造事務所に頼んでも、今暇な構造事務所はないので、頼んでも2か月先になるとか、、、

亀谷信男

亀谷信男

亀谷:わたしはリタイアしてから5,6年たつんだけれども、『建築文化』と『ディテール』という雑誌で編集を3,40年やってきました。60年代後半から、90年代半ばまでがわたしが活動した時期で、ディテール編集部に配属されてまもなく、年4冊だと、もう少し稼げということで、『木造の詳細』という別冊を作らされて、木造在来の基本的な構造と仕上げ、それから白井晟一設計の『呉羽の舎』をやって、建築学科出身でもなく、何にもわかってないのにやらされてもいいんだろうかというのが驚きでした。もう一つは、自分が『建築文化』の編集長になって、構造デザイン特集を30年間やっていないっていうんで、斎藤先生に出ていただいて、そのあとはオブアラップの特集をやったりしました。リタイアしてから気づいたのは、建築ってなんだろうと、建設業ってなんだろうと、それできょうの話を伺って、想定外の話を聞かされて3000円では安かった、あるいはこんなくだらない話に3000円は高いなぁと、2つあるんです。まずは、大学の建築教育が悪い。まるで、木造住宅のことを教えていない。造船大学だったら、あれだけ機械化されたタンカーなどを設計させるのに、卒業するまでに必ず帆船航海をさせるんですよ、ボートを漕がせるんですよ。だけど、なんで建築学科はやらないんだろう、まず木造って基本じゃないのかというのが勝手な感想。それから、あとは、『建築設計』って根本は受注産業だったんだということ。受注産業でないようにすると、プレハブ住宅じゃないが、ビルダーの話が出てきて、きょうの話を聞いていると、どうもこの業界は鍋料理の世界、それもごった煮、ときに闇鍋じゃないかと思う。木造の教育は設計者の問題というより、大学建築教育の教える側の問題だということが分かった。いきなりRCに行っちゃうんだから。

布野:ちなみに、大学の先生という方、手を上げて。あ、結構いらっしゃる。

亀谷:申し訳ない。だけどね、基本になる木造の設計技術を教えて、そのときに「尺貫法」もぜひ教えてていただきたい。地震や台風など自然のさまざまな状況に対応できる技術をまず身につけてもらう。わたしが彰国社に入った5,60年前は、医学部の次に頭のいい人が建築学科に入ったんですよ。しかし、業界の実態は土下座して仕事をいただく大先生とか紫の風呂敷包みを持っていかないと次の設計図をくれない先生がいるとかね、そんな話が出てきちゃう。そんな中で、中谷さんもいたとおもいますが、日本建築学会大会に呼ばれて、『建築ジャーナリズムにはなぜ、批評性がないのか』というシンポジウムをやらされたわけ。『建築家のみなさまから言われる筋合いはない』と蹴とばしたんだけれども、例えば、九つを誉めて一つを批判してもトラブルにつながりかねない。建て主がいて読みますから。建築雑誌のせめてもの批評性は、まず取材して載せるか載せないか、ページ数を割くか割かないか、それとその時の編集部のテーマはどこにあるかなどで、一般的な意味での批評性はないのでしょうね。今回の『新国立競技場』の問題もそうだけど、ザハは憤死したんですよ。2回目に参加できなかったことも、わが業界の闇鍋性ですし、安藤忠雄ほどの建築家が審査委員長をやりながら、逃げ回っていた醜態は一般社会に通用するものではありませんでした。

安藤:確かに、建築は木造をもっと教えるべきだったかもしれないですけど、今回の議論でもうちょっときちんと教えないといけないとか、建築の技術を極めなければいけないとか、もっと建築をしっかりつくるために規制をしっかりしなきゃいけないとか、こういう議論だけになるのはちょっと違うんじゃないかなぁと。特に四号建築物に関してはですね。建主は何も言わなかったんですかとか、設計士にはなんとか言わなかったんですかとかことですけれども、そもそも設計料を払っているような四号建築物ってどのくらいあるんでしょうか。それから、ほんとは注文主が応分の責任と負担を取るというのは杭の問題もあるしもちろん検査のこととか、法規のとこもありましたし、設計料のこともある。構造設計の設計料を出せないというけど、それは金出せないからでしょう。それだから私は、技術、技能者その他に教えること、供給側の応力を高めることももちろん大事だと思いますけれども、発注者とかユーザーを教えていくことがいま社会に欠けていることで、今日の熊本のことも、ユーザーや発注者に訴えかけていかなければと思っているので、繰り返し議論があるときには、供給側の議論だけじゃなくて、使う側の議論もしてもらいたいなと思います。

布野:いったん占めます。社会的に大きい問題ですのでこの場も開いて、一般紙の記者さんにも来てもらったらいいですね。

斎藤:議論は終わりそうにないですが、今回第4回でですね、一番難しいところに入ったかなと思っています。最初の1回2回が新国立の問題がかなり熱くまだ余韻が覚めていないんですけれども、新国立と住宅が同じフォーラムで語れること自体が建築が幅広いことだと思います。もともと、アーキテクト/ビルダー研究会が、人にまず拘っているところがあると思うんですが、この場所はA-Forum、アーキニアリング・デザイン・フォーラムということで、アーキテクチャーとエンジニアデザインの問題を中心テーマにしています。その中には人も非常に重要な核になりますが、仕組みであるとか、仕掛け、モノづくり、デザインの問題をフラットにしゃべろうということですね。木造軸組構造は一つの重要な切り口だと思います。大壁にしてしまえば壁の中はどうでもいいじゃないかという世界、なんでハウスメーカーは壁だけあればどんなプランもできちゃうのとか、コストは一体どうなっているんだとか、一方で軸組みの木造はなぜハウスメーカーに負けないで残っているんだとか、仕組みとしては何が根本的に違うのとか、そういうあたりの話もできそうですので、また次回以降にやりましょう。今日は本当にありがとうございました。

布野:次回は4月上旬に、松村先生も体調が回復されつつありますので、前回のご案内のテーマでやろうとおもっています。

(原稿整理 長谷部勉:文責 布野修司)

村上淳史

村上木構造デザイン室代表。早稲田大学建築学科卒業、早稲田大学大学院建設工学専攻修士課程卒業、住宅メーカー、プレカット会社などを経て、現職。一般社団法人木造住宅デザイン研究会ユア・ホーム代表理事、NPO木の建築フォラム理事、芝浦工業大学非常勤講師。

蟹澤宏剛

芝浦工業大学工学部建築工学科教授。千葉大学大学院博士課程修了、工学博士 工学院大学、法政大学非常勤講師、ものつくり大学専任講師などを経て現職。専門は、建築生産システム、構工法 年度 講座名 2009年。

布野修司

建築討論委員会委員長。日本大学特任教授。1949年松江市生まれ。工学博士(東京大学)。建築計画学、地域生活空間計画学専攻。東京大学工学研究科博士課程中途退学。東京大学助手、東洋大学講師・助教授、京都大学助教授、滋賀県立大学教授、副学長・理事を経て現職。『インドネシアにおける居住環境の変容とその整備手法に関する研究』で日本建築学会賞受賞(1991)、『近代世界システムと植民都市』(編著、2005)で日本都市計画学会賞論文賞受賞(2006)、『韓国近代都市景観の形成』(共著、2010)と『グリッド都市:スペイン植民都市の起源、形成、変容、転生』(共著、2013)で日本建築学会著作賞受賞(2013、2015)。

斎藤公男

構造家。A-Forum代表。日本大学名誉教授。1938年群馬県生まれ。日本大学理工学部建築学科卒業(1961)。日本大学大学院修了(1963)。日本大学理工学部建築学科教授就任(1991)。日本建築学会・第50代会長(2007〜2008)。日本大学名誉教授(2008〜)。日本建築学会賞(業績)(1987)。松井源吾賞 (1993)。IASS Tsuboi Award(1977)。Pioneer Award(2002)。BCS賞(1978,1991,2003)。日本建築学会教育賞(2009)。IASS Torroja Medal(2009)。主な作品に,岩手県体育館(1967)、ファラデーホール(1978)、酒田市国体記念体育館、天城ドーム(1991)、出雲ドーム(1992)、穴生ドーム、船橋西台前駅(1994)、唐戸市場、山口・きららドーム(2001)、静岡・エコパスタジアム、京都アクアリーナ(2002)、金沢駅・もてなしドーム(2004)ほか。著作に「建築の構造とデザイン」(共著、1996)、「つどいの空間」(共著、1997)、「空間 構造 物語」(2003)。「建築の翼」(監修、2012)、「風に向かって」(2013)、「新しい建築のみかた」(2014)ほか。

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