都市文化共生デザイン研究室の活動
私自身はこれまで主にスペイン都市計画史の研究に携わってきましたが、思い返せばそれはまだ何の経験もない25歳の時にスペイン・カタルーニャの小都市、ジローナ市役所でインターンシップの機会を得たことが大きく関係しています。約半年間でしたが都市計画課で与えられた業務を通じて、数世紀も前に自然に形成された街の小広場や小道といった身近でありふれた公共空間が今では欠かせない地域資源として認識されていることに私は強い関心を抱くようになりました。
いま研究室でも、大きく<地域資源の新たな価値付け>、<場の創造>という観点から、身近な都市空間資源に着目し、モノとコトの共生をデザインする活動に取り組んでいます。卒業生や現役生からその主なプロジェクトを紹介していただきます。
<地域資源の新たな価値付け>
地域の見過ごしがちな価値ある風景や建築資源への認識は持続性のある町づくりにおいて重要です。そこには「新たな価値付け」という能動的行為が必要です。いま取り組んでいるのが建築家・藤井厚二(1888〜1938)による近年再発見された木造モダニズム住宅「香里園・八木邸」(1930年)の保存活用です。昭和初期の進化する新しい生活スタイルを提示するとともに、日本の風土に適した呼吸する家を考えたものです。寝屋川市の地域資源としての認識を広く共有するため、私たちは見学ガイドや公式リーフレットの作成、映像制作、建物の実測などを行っています。夏の暑い日も冬の寒い日も彼らは実測に足繁く通い、細部にわたって実測し、ゼミ室に戻っては20分の1の縮尺で図面を描いてきました。
Case 01: 八木邸実測調査
「八木邸実測調査は、調査というよりも、藤井厚二が描いた生活像を掘り起こす作業でした。実験住宅と称される聴竹居と同時期に設計されながら知られざるこの八木邸を、ゼミ仲間と慎重に実測し、少しずつ解明していったのでした。既存資料とは必ずしも一致しない八木邸独自の特徴が見出され、鋭くもあり柔らかくもある藤井の建築家としての感性を現場から感じることが出来ました。」(伊藤 良悟)
Case 02:香里園・八木邸実測プロジェクト展覧会
「八木邸実測プロジェクト展覧会は、半年を費やした実測・作図の成果報告というだけでなく、地域資源としての新たな活用法を考えるという試みでした。個々の部屋の説明パネル、軸組模型、映像制作をはじめ多くの作業を伴いましたが、予想を超える反響で、地域資源の認識が少しでも高まる機会になったと思います。」(福田 隆賢)
Case 03:香里園・地域資源見える化プロジェクト
「昭和9年日本で初めて交通安全祈願のお堂を建てたことで知られる成田山不動尊。京阪電鉄が沿線宅地開発を行い、大阪の鬼門封じのお寺として「香里園駅」に誘致したと伝えられています。本プロジェクトは、一般的に知られる駅からのアクセス以外にも住民が利用するいくつかの参拝ルートがあることに着目し、地域の何気ない魅力を「見える化」したものです。調査員を模したキャラクターが、木々や石垣、お土産屋といった「参道らしさ」を構成する要素を数えるというキャッチーな表現で香里園の見過ごしがちな地域資源を映像化しました。」(中村 清美)
Case 04:スペイン都市における地域資源研究「ジローナ 花の展覧会」
「私はスペイン・ジローナ市のTemps de Flors(ジローナ花の展覧会)という街角を活用した都市イベントを研究しています。街のあちこちに花のオブジェが設置され、街全体が一種の展示空間のようになる短期間イベントです。ジローナ市は自然発生的な街路を持つ傾斜地に形成された複雑な都市空間が特徴ですが、小さな公共空間がもつ場の個性が、ある時そこに花が展示されることで顕在化されます。見過ごしがちな都市の一角を地域資源として顕在化することは、街のイメージを豊かにし、シビックプライドの醸成につながるものだと思います。」(波多野 巧)
研究室では毎年夏に、広島国際大学の谷村仰仕先生、大阪工業大学の本田昌昭先生の研究室と「ブートキャンプ」という合同ワークショップを行っています。近年は、林業の聖地として知られる奈良県川上村に滞在し、過疎化、林業衰退という地域の深刻な課題と向き合います。川上村地域おこし協力隊員「かわかもん」の皆さんにご指導いただきながら、成果を共同でまとめる地域滞在型ワークショップは、参加する学生教員ともに実践的な学びの機会となっています。
Case 05:滞在型ワークショップ Bootcamp in 川上村
「キャンプといっても、それはレジャーキャンプではありませんでした。2016年夏、私たちのグループに与えられたミッションは、川上村で育った原木ヒノキの活用方法でした。仮想の課題ではなく、持ち主であり現地住民の方からの地域の持続性を考えた真剣な要望でした。最終的に、原木のヒノキには、山火事から生き残った生命力のある木、という地域の記憶とのリンクがあることに着目しました。樹齢100年を超えるこの原木ヒノキを苗木の植木鉢に活用できるよう細分化し、原木の遺伝子が循環していくことで、ヒノキの生命力や地域の山への愛着を継承するアイデアをまとめました。“もやもや”を形にすることの難しさを知ったのと同時に、発言力・人前でしっかりプレゼンすることの意義を実感しました。」(内上 沙樹)
<場の創造>
研究室ではモノとコトの共生を考えた実践的なデザイン課題にも取り組んでいます。地域の文脈、土地の履歴、場所の個性をスタディした上で、発想の転換を意識し、デザイン思考を培おうというものです。
Case 06:地域屋台Caféプロジェクト
「大学のタグラインを名称にしたSmart and Human Caféは、概して負のイメージを伴いかねない町工場に着目し、同じ地域を拠点とする大学生とコラボレーションすることで、寝屋川の一つの地域資源としての価値認識を目的としたCafé運営プロジェクトだ。特に寝屋川市で激減している木材を扱う町工場に着目し、木を用いた屋台デザインの可能性をコンペで決定した。選ばれたのは、木製ブロックの組み合わせにより、形態が変化する屋台デザイン。木材加工工場と金属加工工場に協力していただき、私たちも職人さんの指導を受けながら制作した。サイズや重量という点から何度も模型検討や原寸試作を重ね、また衛生面でも保健所の審査をクリアするため、検討は営業に使用する物品のレイアウトなどにも及び、何もかもが新しい挑戦だった。企画運営は経済学部の野村佳子先生や学生さんとも協力しながら、2012年の冬に大学の正門に開催した。期間中は学内外のお客さんで賑わい、寝屋川の地域資源からこのような人々の集う場が生み出される可能性を共有することができた。」(永宗 紗季)
Case 07:空間プロジェクト 〜紙管でつくる「現代の茶室」〜
「フォリー建築を設計施工する狙いがありましたが、もう一つは、グラスゴー大学からの来客のおもてなしとして、日本の伝統的空間である茶室を簡易で現代的な材料(紙管)を用いて制作しキャンパスに設置するという空間プロジェクトでした。茶室の要素をそぎ落としつつ、茶室固有の空間に対する身体感覚と緊張感、おもてなしの振る舞いを念頭に計画しました。紙管は敢えて加工せず、接合部は麻ひもで結ぶ方法をとりました。3畳程度の空間に入ると、互いの関係が深まる距離感と同時に緊張感を得ることになります。開口部は高さを抑えて視界を遮り、自然と頭を下げ敷居をくぐらせることで、特別な空間に入るという感覚が得られます。」(金原 直也)
Case 08:ラボデスク・プロトタイプの制作 〜二枚脚方式の机〜
「研究室単位で多人数が使用する作業デスクのプロトタイプを提案しました。誰もが再現できるよう材の大きさや組み立て方法も図面化し、容易に解体できることがデザインの条件でした。比較的重量のあるパソコンやプリンタなどを載せるため、強度が弱くなっても急な破壊に至らない構造デザインとするため、樹種の選定、材の寸法、接合方法やボルト締めの本数など、模型も用いて試行錯誤を重ねました。本当は地域の材を用いることが理想だと考えています。家具の設計施工は、素材と形と技術の問題を現実的に解決する訓練となりました。」(柳瀬 貴行)
私たちの研究室の活動は、街づくりから家具づくりまでスケールは様々ですが、愛着が持てる豊かな場の創造に向けて、都市空間の履歴、地域の文脈、場所の個性をしっかりと踏まえた上で、地域資源の新たな価値付けを考え、モノとコトの共生をいかにデザインするかという課題と向き合っていきます。
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