建築作品小委員会選定作品
《御所西の町家》 / 森田一弥建築設計事務所
《MACHIYA house in GOSHO-NISHI》 / Kazuya Morita Architecture Studio

fig1 土間から庭へと地続きにつながる

fig1 土間から庭へと地続きにつながる

fig2 格子で覆われた路地奥のファサード

fig2 格子で覆われた路地奥のファサード

fig3 格子越しに古いファサードが透けて見える

fig3 格子越しに古いファサードが透けて見える

fig4 玄関の土間

fig4 玄関の土間

fig5 玄関脇の上がりの間

fig5 玄関脇の上がりの間

fig6 上がりの間と玄関

fig6 上がりの間と玄関

fig7 畳の部屋から土間の眺め

fig7 畳の部屋から土間の眺め

fig8 庭から土間を見返したところ

fig8 庭から土間を見返したところ

fig9 土間から庭への眺め

fig9 土間から庭への眺め

fig10 土間から二階へ上がる階段

fig10 土間から二階へ上がる階段

fig11 土を叩き締めただけの原始的な土間

fig11 土を叩き締めただけの原始的な土間

fig12 茶室内装は土壁の塗り回し

fig12 茶室内装は土壁の塗り回し

fig13 二階の茶室からの庭の眺め

fig13 二階の茶室からの庭の眺め

fig14 上がりの間の奥にある浴室

fig14 上がりの間の奥にある浴室

図面

図面

■作品解説

京都市中心部の路地奥にある町家の改修である。築年数はおそらく90年から100年くらい。その後、伝統的な町家の例に漏れず、住宅に限らず色々な使われ方をされてきたらしく、前の所有者は西陣織の作業場としてここを使っていたようだ。今回の改修は、東京在住のクライアントがセカンドハウスとして使用するためのもの。寝室などとして用いる畳敷きの居室を最小限にとどめ、多数の来客も訪問可能なように大きな土間空間を設けた。

建築が扱うことができる「時間」を拡張するための、小さな試みの一つである。一般的には改修された建物に現れる「時間」は、その建物が経てきた時間という限界があるように思われる。ところが、この町家が建てられるずっと以前から、「町家」という建築形式は存在しているし、「土壁」の工法は、町家の成立よりずっと前からの建築の歴史とともに存在してきた。ここでは既存の空間が経てきた時間だけでなく、建築を構成する各種の「形式」や「工法」のもつ「時間=歴史」にも着目して、未来だけでなく過去に向けてそれぞれに操作を加えることで、単なるモノの新旧の対比だけでなく、より多元的で深みのある時間の堆積を感じられる空間が立ち現れることを目指した。
京都市中心部の路地奥の町家を改修した住宅である。建てられた頃の用途は不詳であるが、数年前まで機織りの職人が作業する工房として使われていた。改修後は、東京在住のクライアントがセカンドハウスとして使用するために、寝室などとして用いる畳敷きの居室を最小限にとどめ、多数の来客も訪問可能なように大きな土間空間を設けた。
町家の土間を京都では「走り庭」と呼ぶように、土間は町家内部における準外部空間(ニワ)であると同時に、道路や路地から地続きの準公共空間である。ここでは旧来の町家の平面形式の主要素でありながら、現代の改修によって失われがちな「土間」を、建築の内部空間における公共空間として再定義し、むしろ拡張させることで、町家を単なる「住宅」という機能に留まらず、より公共的な場へと進化させている。ファサードの格子は、もとの町家には無かった要素だが、路地から室内への視線を制限しつつ通風を確保し、空調や給湯器の室外機を隠蔽するために幅/奥行き/間隔を伝統的な町家のそれから変化させ、ファサード全体を覆った。
平面や格子という形式を現代や未来に向けて進化させる一方で、改修に用いた工法については、あえて原始的な工法への遡及を行っている。たとえば土間工法では、土を固めただけの原始的なタタキ工法を用いた。新規土壁部分には荒壁や大直し塗り、中塗りなど、本来は下地として用いられていた層をそのまま見せることで、土壁のレイヤー状になった工程と同時に工法の歴史的な進化の過程をも可視化させている。
この空間で過ごす時間が、建築の長い歴史の追体験のようなものに感じられたら嬉しく思う。

■素材解説

新旧木部
町家の木部は、弁柄と松煙を混ぜた顔料で塗装されるのが基本であるが、新しい木部は、基本的には塗装なしの状態で残した。完成時期の新と旧の対比と同時に、工程の後と前という、二重の意味での対比関係が現れている。

既存壁
中塗り壁の上に一部大津壁が塗られた既存壁は、長年の経過を経て黒ずんでいる。完成した時期は古いが、工法的には新しく、工程的にも最後(最新)にあたる。

既存壁剥がし
中塗り壁の上に塗られた大津壁を、上塗りだけ剥がしたものである。通常は壁の塗り替え時に現れる状態を、柱際の痛んだ部分だけ補修して、そのままにしてある。既存壁の完成は古いが、上塗りを剥がして補修するという最後の工程は最新のもの。

荒壁
痛んでいた古い既存の壁を撤去し、断熱材を充填して再び竹小舞を編み、荒壁を塗った。本来は一番目の下地となる荒壁は、あちこちがひび割れ、町家という形式が成立する以前の古い建築の名残を見せる。完成は新しいが、工法的には最も古い壁。

たたき
既存の建物のコンクリートの土間や板の間を撤去し、土を叩き締めて土間とした。完成は新しいが、にがりと石灰と砂利を混ぜた三和土(たたき)よりも工法的には古く、土間の起源ともいえる土間。

杉皮と杉の柱
この町家の既存の柱は基本的に杉材が使われ、新しい柱にも同じ材を用いている。庭の塀には杉を製材する際に必ず生まれる杉皮を張ることで、ある素材が建材になる工程を可視化している。

ぱらり壁
外トイレの天井には、原始的な漆喰の一種である「ぱらり壁」を塗ってある。石灰の粒が混入して表面に浮かび上がった、洗練されない独特の表情。完成は新しいが工法的には古い壁を、同じく「新」しくて「古」い素材である杉皮と取り合わせてある。

階段
階段箪笥の遺伝子に「台所と一体化した階段」という条件を与え、この町家の環境に適応して成長したかのように設計した。形式的には古く、工法的、機能的には新しい、階段ダンスの子孫としてのキッチン階段。

■データシート

建物名称/御所西の町家
所在地/京都市上京区大峰図子町
主要用途/専用住宅
家族構成/女性一人

設計
森田一弥建築設計事務所 担当/森田一弥 木村俊介

施工
エクセル住宅建設 担当/藤居武司 岸本周治 山内裕二郎
大工 熊谷工務店 担当/熊谷良生 柴田雅嗣 楯孝義
左官 中井左官工業 担当/中井稔二
解体 甍建設 担当/大橋幹生
塗装 岩本建装 担当/山口隼人
板金 日下部ルーフテクト 担当/日下部智晃
瓦 長本瓦店 担当/長本俊植
建具 足立建具店 担当/足立孝之
タイル 三光タイル 担当/安藤晴康
畳 渡辺畳店 担当/渡辺靖英
鉄骨 庄司鉄工所 担当/庄司寿男
サッシ・ガラス 三永工業 担当/水谷信治
材木 近治材木店 担当/神田一美
電気 堀部電工 担当/野口清秀
水道 アクアライフ 担当/田村正茂
ガス キョウプロ 担当/中村康夫 古川茂昭
土壁 宮部左官 担当/宮部友之
土間 久住左官 担当/久住誠
造園 佐野造園 担当/佐野健介

その他
構造・構法 木造
主体構造・構法 木造
基礎 御影石
階数 地上2階
軒高 2710mm
最高の高さ 4790mm
敷地面積 79.96m2
建築面積 64.64m2(建蔽率81% 許容60% 既存不適格)
延床面積 81.48m2(容積率102% 許容200%)
1階 64.64m2
2階 16.84m2

工程
設計期間 2012年11月~2013年5月
工事期間 20013年5月~2013年11月

敷地条件
地域地区 第二種住居地域 準防火地域 高度15m 旧市街地美観地区
近景デザイン保全区域 既成都市区域

森田一弥

建築家。1971年愛知県生まれ。1994年京都大学工学部建築学科卒業。1997年京都大学工学部建築学科修士課程修了。1997年−2001年京都「しっくい浅原」にて左官職人として修行。2000年森田一弥建築工房設立。現在、森田一弥建築設計事務所代表。滋賀県立大学、京都精華大学非常勤講師。

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