建築家自邸シリーズ 003 木下道郎邸
「ドッグハウス」という建築家の家
【dog house】= The Architect's house

ドッグハウスについて

2005年4月の竣工以来50ヶ月が経過しました。竣工までのことはいろいろなところで文章にしているので今回は竣工後実際に生活が始まってからのことを書いてみたいと思います。
この家の最大の特色は家全体が屋外空間によって家族棟と個人棟の二つに完全に分断されているという常ならぬ平面構成にあります。四つの個室はこの囲われた屋外空間からのみ出入りするようになっているほか、洗面所、浴室、今、食事室、厨房もここに開いています。
単に中庭とかデッキとかいう言葉では現しきれない「外の廊下」とでも「家族の広場」とでも言えそうな独特の空間に、よく遊びに来る隣人が「アッラペルト」all’a perro と名前を付けてくれました。イタリア語で「屋根のない」という意味だそうです。ただ外部空間が身近にあるというだけでなく、家族の結びの領域が実体として認識されやすくなっているという空間構成が「アッラペルト」を独特な空間にしているようです。「アッラペルト」に焦点をあわせて竣工後のわが家の成長の様子を書いてみます。
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身近な外部空間としての「アッラペルト」

竣工写真を撮った時点では植えられていなかった植物が竣工直後の夏に植えられ、シマトネリコを成長頭にジューンベリー、チョークベリー、ブルーベリーなどが著しく成長しました。下草や鉢植えのバラなども年々数を増やし、春から秋に書けては緑が溢れています。一年目に枯れてしまって植え替えてもらった檸檬だけは花の数が年ごとに減ってかなり苦戦をしているようです。もともと植物嫌いでは有りませんでしたが、日常生活の場の中でたくさんの植物をすぐ近くで見る事ができるようになって、植物に対する感心が飛躍的に高まりました。芽が出たり、蕾ができたり、花が咲いたりだけではなく、そこに飛来する蝶や虫、かれらのタマゴや幼虫などがかなり細かいモノにまで目がいくようになり、季節の移り変わりを細やかに楽しむ事ができるようになりました。
普段は私は裸足で人によってはサンダルで屋内屋外を行き来しています。雨や雪の時は出入りのところで履き替える必要があるので、足ふきマットが随所に出現します。よく話題になる「家の中で傘」は一度もやっていません。傘がほんとうに必要な程の距離がないからでしょう。猛烈な雨は永くは続かないので少し待つ事になります。その手の大雨は年に1、2回しかありません。積もるような雪は4冬で2、3回。除雪シャベルを用意しておいて朝一番に雪かきをして通路を確保しました。あえて雪止めはつけなかったので、屋根に積もった雪の滑落は劇的です。積雪地域には適していない家です。天候の変化には敏感になりました。天気予報も頼りにはしていますが「アッラペルト」から伝わってくる気配でおおかたの予測はできるようになっています。「アッラペルト」は東西に細長いので太陽の動きがよくわかります。太陽が一日中様々な方向から差し込んでくるので「アッラペルト」の雰囲気は劇的に変化します。生活は太陽中心にかなり早起きに変わりました。夜中にトイレに行く事もあります。冬ならば外は寒いのでいい歳になってきた私などにはからだに良くないようですが、深夜の夜空の下の夜気もまた格別です。太陽、天候、季節。自然の細やかな動きに敏感な暮らしを楽しんでいます。
幸か不幸か扉が全て引き戸なので、犬も猫もいつでも好きなときに屋外に出る事ができます。勝手気ままに出入りを繰り返し「アッラペルト」でごろごろと寝そべっている彼らの姿を見るとわが家を一番享受しているのは動物たちのような気もしています。

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家族の結びの領域としての「アッラペルト」

家族構成は犬の「群れ」に新旧の出入りがありましたが、猫はまだ矍鑠としています。人間も歳をとりでたり入ったりしています。4人それぞれの個室の扉は型板ガラスの框戸ですので部屋のなかの気配がほどよく家族棟のほうに伝わって来ます。個室は収納を含めて4畳半と一日中籠っているのに十分な広さではないということもあり、「アッラペルト」への出入りは頻繁です。各個人の独立性は重んじながらも賑やかな楽しい暮らし、という狙い通りになっています。わが家ができてから最大の変化はなんと言っても来客の飛躍的増加でしょう。雑誌やテレビなど取材での来客だけでなく、友人・隣人など多くの人がわが家に遊びに来てくれました。たいした広さではない家族等が「アッラペルト」と連続することで、予想以上に多くの人を許容する空間となります。普段の暮らしと人がたくさん集まる時とでは空間に求められるものが異なっています。そうたびたびあるわけではないパーティのような機能を「アッラペルト」が補ってくれているように思います。大人達の集いであっても「アッラペルト」に姿を現した子どもたちは自然に集まりに顔を出すことになって何かしらの出会いが生まれます。ここでの様々な出会いが私たちの家族の暮らしを楽しくしてくれているのだと思います(建築雑誌2009年8月号 掲載より)

概要
所在地:東京三鷹市
敷地面積:195.26m2
構造:木造
階数:地上1階
竣工:2005年4月
設計者:木下道郎/ワークショップ
施工者:平野建設

木下道郎

ワークショップ主宰。日本大学生産工学部非常勤講師。2003年あたたかな住宅コンペ特別賞受賞。2008,09,10,12年グッドデザイン賞。1999年三鷹市「みたか市民プラン21」起草委員。2010年『集まって住もう』彰国社(共著)。

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