建築時評
環境エンジニアリングの職能
The Function of Environmental Engineer

キーワード
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すべての新築住宅における2020年省エネ法義務化、その施行が目の前に迫る。言うまでもなく建築性能が大きなテーマとなっている。CO2削減は国際的公約でもある。建築分野がその宿題に果たす役割は小さいものではない。そこでこうした企画も登場することとなる。しかし私の周辺を見渡したところ、多くの建築家がこの機会にこれ、すなわち建築の省エネ化に積極的に取り組もうという空気はほとんど見当たらないし、知らぬふりをしているようにも見える。

なぜだろうか。それを考える前段として環境に特化する宿題の前に建築が今抱える難題を指摘したい。まず日々目前する住宅生産の状況の確認をしてみたい。そこに誰もが抱く疑問がある。縮減する将来を見据えると今行われている建築生産が必要なのか、という問いである。現状すでに820万戸[1]を超える空き家があるといわれているのだ。住宅は明らかに過剰であり今後それは一層顕著になる。それを知ったうえで大手の住宅メーカーは投資のためと称するアパート建設を資産の維持に心悩ます小ぶりな資産家にささやく。実際、「相続税負担軽減策としてアパート用建物に投資する人が増え、貸家の着工が2016年上半期で前年同期比で8.7%増えてしばらくその好調が続くと見られる。」という現状なのだ。

図1:住宅着工戸数と空き家数並びに空き家率推移 平成25年度住宅・土地統計調査(総務省統計局)総住宅数、空き家数及び空き家率の推移並びに国土交通省総合政策局建設経済統計調査室建築着工統計調査(時系列)から作成

図1:住宅着工戸数と空き家数並びに空き家率推移
平成25年度住宅・土地統計調査(総務省統計局)総住宅数、空き家数及び空き家率の推移並びに国土交通省総合政策局建設経済統計調査室建築着工統計調査(時系列)から作成

また当初200年住宅とも標榜された国の推進する住宅制度「長期優良住宅制度」、それによる一定の性能(省エネルギー対策では断熱性能等級4)を有するという戸建住宅、それらの多くが駐車場のほかには空地を持たない、いわゆる狭小住宅であり、その敷地は相続により発生する中規模敷地を数区画に分割し数棟を林立させるという前提によるものである。人口が激減する次世代にそれら狭小住宅が健全な住環境として受け継がれる望みはほぼ皆無であろう。これら二つ、資産運用を目的とするアパート、そして狭小敷地に建つ戸建て住宅は果たして「長期」にわたり「優良」な性能を保持し、使い続けられ=持続可能であり資産としての価値さえ維持し続けるものであるだろうか。きわめて怪しいと言わざるを得ない。

相変わらず建築、特に住宅の寿命は病的に短期である。30年を経るころに古くて汚いということになる。建て替えは頻繁な風景でありそれが住宅地という居住「環境」の一層の劣化を招いていることは本当は誰もが気づいていることのはずである。もとよりCO2削減を本当の目標とするのであれば短期の建て替えをやめ、建築の寿命の長期化こそ手段でなくてはならないはずではないか。長期優良住宅の基準に即すれば住宅の装備は以前より重いものとなる。バラックと同様の資源使用量とはならない。それらがきわめて短期に償却されるとしたらそれら廃棄物の環境負荷も甚大であると考えるべきだろう。その寿命がバラック並みであるとすれば罪は以前に増したものとなる。

念のため付言する。現在国が新築住宅に要請する守るべき1次エネルギー消費量がある。この数値はなんと日本の住宅が消費している実質のエネルギー量のデータを上回る数値であることをご存知であろうか。また2013年に改正された省エネルギー法も計算方法は変わったものの、求められる外皮の断熱性能レベルはほぼ据え置きで設備性能に重点が置かれた改正である。もちろん実質のエネルギー消費量の少なさは現状住宅の快適さが低水準であり、冬の生活室温が低く、そのため諸外国より極端に暖房エネルギー使用量が少ないためである。結果としてヒートショックなどの危険をはらむいわば我慢の多いものであることは明らかな問題ではある。2011年で約17,000人(交通事故死亡者数の3倍以上)がヒートショックに関連して亡くなっている[2]。この住宅性能で人々が我慢をしなくなったらエネルギー使用量は膨大なものになるだろう。いや「ざる」のような断熱性能の家は暖房も冷房もまったくその効果を発揮しないであろう。ただ現況、わが国の住宅が消費するエネルギー量が現況きわめて膨大であるということでないことは指摘できるのである。このことはその他の建築物にもいいうるかもしれぬ。
一例だが文部科学省、環境省がエコスクール事業、学校エコ改修事業というプロジェクトを実施している。現況、日本中の小中学校校舎のほとんどが温熱レベルで見ればまったく貧困な環境にあることこそ問題であることは言うまでもない。この事業によりエコスクールとして改修された小中学校の事例の多くは改修の後のエネルギー消費量が増大しているのである[3]。エコスクールは「今の基準に合った新しい学校」という意味もあり、改修されたことで照明等の施設水準の違い、教室のオープン化を活用した学習形態の違い、最新施設を多数導入(改修前はエアコンもない校舎が多い)等の原因により、このような事態になっている。またエコスクールと言っても特に温暖地域では断熱材が施工されていない校舎が全体の2割弱あり、断熱材が施工されていても住宅の水準を下回っている、サッシは単板ガラスの一重アルミサッシがほとんどで断熱性能が低くなっており、設備に重点を置くばかりではない建築全体での省エネルギー対策が必要である[4]。現状の住宅がガマンを前提にエネルギー消費が少ないのと並んで学校もエネルギー消費が少ない。住宅、学校ともに快適化すると、エコハウス化、エコスクール化するとエネルギー消費が増える傾向にある。ただし我々の試みはそうはならない成果を上げている。巻末に学校、住宅の事例を挙げたので参照して欲しい。

CO2削減の号令も持続可能社会の号令もすべては現況の建築生産システムの維持、建築生産に関わる教育、設計、生産をまたぐシステムを前提にするものであることから逃れられていない、そしてこのシステムは人口増を伴った高度経済成長期に根差すものであり、今となっては明らかに大きすぎる。システムの維持を無理やりもくろむのはきわめて無理筋である、どちらが鶏でどちらが卵かは明らかである。生産システムの過剰、しかしながらその規模の維持を願うもの、つまりこの産業に生きるわれわれが建築の大量生産大量廃棄システムをやめられない。省エネルギー、CO2削減すらその根拠とする強引さで、である。結果数十年を経ずして経済的理由のみを根拠とする超高層ビルの解体といった事態にまで至るのである。まして文化財的価値を建築に求めることなど夢のまた夢だ。建築生産システムの矛盾、これが私の目下の嘆息である。そしてその無理筋は膨大な国の負債のさらなる増加にまで及んでいるはずである。われわれはその矛盾の渦中に生きている。短期の建築消費がいかに大量のCO2発生を伴うかはいうまでもない。

舵を大胆に切らなければならない。行く手はこれまでの航跡とまったく異なる新たな目的地でなければならない。それが本来目標とすべき2050年の姿のはずである。その2050年まであと三十数年ほどしか残されていない。人口問題研究所の発表ではその時の人口は9000万人台であり2100年の推計値は6000万人ほどではなかったか、そうした国勢への緩やかな移動と100年を寿命とする建築のあり方は大きく連動することは間違いがないはずではないか。3,11による人工的災禍は明らかにこうした課題を加速させるはずである。

図4:人口の推移グラフ 出典「平成22年度国土交通省国土の長期展望に向けた検討の方向性について」

図2:人口の推移グラフ
出典「平成22年度国土交通省国土の長期展望に向けた検討の方向性について」国土交通省

とはいってもいま新たに計画される建築はなんらかの環境的問題解決を前提にする、いわゆる「環境建築」であるべきことは言うまでもない。構造計画が建築の前提であり建築のクオリティを左右するものであるように環境も建築の前提であり建築のクオリティを左右するものであることは言うまでもない。ただ構造に比し環境ファクターは主題が多彩であり、しかも評価が多様でとらえることが難しい領域であることは指摘できよう。特にコンピュータ出現以前においては。
気候、風向風速、日照、湿度、などの諸条件は地域ごとに異なり、それらの解析が導き出す姿を根拠とするデザイン、そしてそれらを支えるプログラム、適応技術の多くはここ数十年のごく短期間のたまものといっていいのである。そしてその精度は急速に向上しつつある。そうした技術開発の裏にはいうまでもなくそれを求める社会、共有するコンセンサスつまり社会の共有する要請が必須である。明らかにこうした技術工夫はヨーロッパおよびアメリカにおいて先進した。エンジンの一つとなったのは1986年のチェルノブイリの事故であろう。再生可能エネルギー社会の模索はこれにより焦眉となったのではないか。1996年にヨーロッパの著名な建築家が連名で著した持続可能社会を目指す「憲章」はそうした共有する機運を表す[5]。この国のこの分野における遅れは極めて甚大である。

「環境建築」を成立可能とする技術の開発と展開についても彼らは先んじている。理論的先駆けとしてのレイナー・バンハム、エンジニアとしての先駆けは言うまでもなく構造家から転じたオーヴ・アラップであろう。多くの建築家は彼との共同により自らの建築を 環境的評価という視点においても強い耐力のあるものにしていった。そう考えていいだろう。そしてその耐力ある「環境建築」はそれを作り出した建築家にとってもそれを受け取る社会の側にとっても面白いものとなった、とも考えられよう。前提となるのは建築一つの寿命は一個人の寿命に比べ圧倒的に長いという彼らの共有する社会的合意、コンセンサスにある、そう思う。

顧みるにこの国である。ここでは環境エンジニアはこれまでほぼ不在であったといえよう。短期で消滅する建築に省エネのための技術、それに伴うコストはかけられない、それがこの国のクライアントのコンセンサスであったととりあえず言っておこう。その前提ではエンジニアは育たぬ、育つ土壌がないのである。大学教育においても実務に寄り添う環境エンジニアの育成はほぼされてこなかった。この国の環境配慮型オフィスビルの嚆矢は「NCRビルディング」吉村順三(1962年)であるという。世界初のダブルスキンを採用した建築である。ダブルスキンのコストは単純にシングルスキンの二倍ほどと考えられる。それによりランニングのコストが40パーセント削減でき オーバーヒートを緩和するなど快適性の向上があるという。こうした利点は短期に建築を消費することを習慣とする風土では歯牙にもかけられないのである。このクライアントはアメリカ人である。

写真9:NCRビルディング外観

写真1:NCRビルディング外観

図5:NCRビルディング二重サッシ図

図3:NCRビルディング二重サッシ図

図6:NCRビルディング空気の流れ図 二重のカーテンウォールの間をリターンエアゾーンに使用。リターンエアゾーンは夏期は熱線吸収ガラスが捉えた熱を運び去ることで室温の上昇を抑え、冬期は冷たい外気との間を排気が遮断しバッファーゾーンとなる。

図4:NCRビルディング空気の流れ図
二重のカーテンウォールの間をリターンエアゾーンに使用。リターンエアゾーンは夏期は熱線吸収ガラスが捉えた熱を運び去ることで室温の上昇を抑え、冬期は冷たい外気との間を排気が遮断しバッファーゾーンとなる。

この状況はいまだ変わることはない。この国の社会において、変わるべきであり、そうあってほしいことは設計という行為をもっと重要なものと思うことである。そうなるか否かというところにすべては行きつく。ただ現況は残念ながら逆向きに動いている。建築家の設計という仕事はますます均一化しルーテイン化している。新たな工夫や配慮などに時間をかけてくれという要請はない。その結果、設計にかかるフィーもきわめて少ない。環境エンジニアが育ち活躍する風土は不毛である。結果としての建築に様々な環境的欠陥が現出する。しかしそれらは建築家個人がすべての責を負うべきものでないことはこれまでの検証から明らかであろう。それは手足を捥がれたうえで なにかをなせ、欠陥がある、と言われているに等しいのである。

私があえて建築の環境分野の面白さに足を突っ込んだのは石油ショック後の社会が一時的に共有した価値観によるのではないかと振り返る。当時はそんなコンセンサスがあった。石油に代わるエネルギーを求める、太陽エネルギーに着目することはブームですらあった。太陽熱による空気暖房と換気そして給湯をコンピュータシミュレーションに基づく根拠を伴って日本各地の気象データを裏付けとしながら作る、その開発は面白く作業の試行錯誤は楽しいものであった。2010年COP10をきっかけに環境省が作成した冊子、『世界に伝える日本の環境取り組みの優れもの』
http://www.noz-bw.com/diary/2016/kankyokenkyu.pdf
には 別子銅山の環境改善に始まり自動車用リチウムイオン電池に至る戦後のわが国が開発し実用化した世界に誇る12の環境技術事例が掲載された。その中にこのわれわれの太陽熱利用システムは登場する。建築分野での「優れもの」は残念ながらただこれ一つのみである。

コンピュータを駆使し環境分野の諸条件を解析しそれを手立てに設計することは主に欧米のエンジニアにより開発されたソフトが活用され わが国でも普通のこととなっている。ますますそれは進化し 深いものとなることは間違いがない。それに伴い急がれるのは要求される性能をクリアする各種建築部品、建築素材の開発がある。それなしにはプログラムが示す水準に現実がたどり着かないことになるからである。ここにも本当なら実に面白い研究開発領域がある。そして何よりそれは新たな商売になるのである。ドイツの建材メッセなどで活発な開発競争を見るにつけこの分野の支えが何より力になる、と思ったことがある。開発者一人一人がアントレプレナーとして面白がっているのだ。ひょっとするといまだ存在しない新たな技術製品は彼を億万長者におし上げるかもしれないのである。再生エネルギー社会を夢に見るコンセンサスがこうした起業を伴う。一例をあげる。ヒートブリッジに対応するパーツである。数年前にこの工場を訪れたことがある。訪れたときこのパーツはなんとEU諸国でその使用が義務付けられつつあった。「EU基準」である。振り返ってこの国、日本では建築の内外、例えばバルコニーと室内側の躯体などが一体につながることはいまだにはなんの問題もない。実はここからかなりの熱損失が存在しているのだ。断熱レベルが一定以上向上すると躯体を通じて失われるエネルギー比がきわめて大きなものとなる。もちろん結露などの問題もそこから派生する。いわゆるヒートブリッジの熱損失、これを極端に削減するパーツの開発は建築のディテールを激変させたのである。ちなみに余談だがこれをわが国に導入しようとの動きの中で認可にかかる手間と時間そしてコストは仄聞するところ実に甚大なものであったようだ。もちろん地震国への躯体にかかるパーツの導入である。慎重であることはよくわかる、が、しかしドイツでの材料の実験評価とこの国のそれとの違い一つ一つを障壁としていたのでは日本での技術開発自体がガラパゴス化するではないか。こうした事例は多く存在する。熱交換換気システム、開口部材、断熱材、通気シート、などなど気が付いてみると、今日、環境先進国による開発部材に頼らなければ環境配慮は難しいところにたどり付いているといっても過言でない。明らかに一周以上遅れている。それらの国は気が付けば「個人」が面白いものを面白く考え個人で「発明」する、いわば規範、慣例を絶えず更新し続ける社会であるように思う。基準、規範、事例、前例などが過度に重んじられ軛になる社会の沈滞を考えざるを得ない。

居直ることは可能か?30年ほどで住宅を建て替え続けるダイナミズム、変転し続ける郊外、消費物としての住宅、これを肯定的にとらえることは可能か?蒸暑気候エリアのことを考える。ダイキン無しを前提にすればそうした地域では建築、特に戸建て住宅の類においてはその寿命は日本の比ではないほど短いものであろう。そしてその資源使用量も比ではないはずだ。素材は地産地消、そのほとんどは土に帰る、ここでは無論、資源使用量はなんら問題にならない。わが国の伝統は実はこれに近い。だから短寿命であり、エネルギー使用量が実は低いのであろう。建築という工学ほど無意識の慣習に支配される工学はないのかもしれない。エンジニア、研究者、建築家、すべてが自らの慣習としての無意識の基準から逃れることがなく、慣習が専門性を脅かすことについて無自覚、無関心である。

オープンビルディングという考え方はわれわれが学生のころすでに知られていた。オランダのニコラス・ハブラーケンの唱えたものだ。集合住宅の構成要素をサポートとインフィルの二つの要素としてとらえる。サポートは長寿命な「支え構造」である。インフィルは「分離ユニット」と特集した『都市住宅』では翻訳された。

図7:ハブラーケンの特集 『都市住宅』1972年9月号鹿島研究所

図5:ハブラーケンの特集
『都市住宅』1972年9月号鹿島研究所

清家清の著述に類似の認識がある。彼はこれを「架構」と「舗設」と言っていたと記憶する。サポート=架構は長寿命であり室内気候を担い、インフィル=舗設は生活の形、用途に合わせ適宜改変される部位という考え方である。この考え方を演繹すれば蒸暑気候エリアの建築はサポートがいらぬインフィル=「舗設」が裸で建っているような建築であると考えられよう。過去、多くの日本において冬はかろうじて我慢できる、我慢すべきものであった。そして 夏は南方並みの蒸暑気候が続くのである。それが「夏をもって旨とすべき、、、」という建築観を形作ったといえようか。短期の建て替えという習慣は建築をインフィルとして理解する蒸暑気候地域としての日本の気候による。そしてその習慣は実に根深いものであると考えることもあながち無理のないことかもしれない。そうであれば「我慢」を条件に再度バラック=インフィルに近い資源使用量の少ない建築を同じように作っては壊す、このことが高断熱高気密を知ってしまったわれわれに容認されようか。
確かに日本の戦後建築、特に木造モダニズム住宅においては より少ない資源使用量で見事な造形を作り出していた。ヨーロッパおよびアメリカのモダニズムを標榜する建築家たちはそれらに驚いたのである。まさにLESS IS MOREはこの国において顕現したのであった。
考察するに環境に負荷をかけず、しかし質の高い建築の社会総体としての実現は膨大な既存建築群の評価を伴う縮減と既存改修による高性能化によるしかないであろう。これは間違いないのでないか。そのためにはまだいない環境系エンジニアが地域ごとに必要だし、建築家、施工者の路線変更をも必要とするだろう。これが可能なのか?残念だが私はこの難問の答えを持たない。

巻末 事例紹介

・ソーラータウン府中

東京都長寿命環境配慮住宅モデル事業「ソーラータウン府中」では太陽熱利用した省エネルギーな住宅を16棟、中央に園路を共有する町をつくった。園路は地役権という考え方を用いて、各所有者が土地を共有することで、豊かな緑の環境を維持することができ、それによって屋外の平均放射温度が低く夏季涼しい熱環境をつくっている。(写真4)住宅単体の性能としてはその後の首都大学須永研究室の実測調査により、年間エネルギー消費量が関東地方南部の一般戸建て住宅の約50%である。これは太陽光発電自家発電分を含まない購入エネルギー量である。自家発電分を含むと一般戸建住宅の60%となる。

図6:ソーラータウン府中配置図 各住戸の敷地を園路に供出している

図6:ソーラータウン府中配置図
各住戸の敷地を園路に供出している

写真2:季節によって色づく樹種を選定 2015年12月撮影

写真2:季節によって色づく樹種を選定 2015年12月撮影

写真3:園路の様子 2015年10月撮影

写真3:園路の様子 2015年10月撮影

写真4:外部環境のサーモカメラ画像 2014年8月18日13時 日射を受けた近隣のアスファルト舗装は50℃以上 ソーラータウン府中のMRT(平均放射温度)が常に低く特に樹木の日射遮蔽効果が高くMRTが8℃異なった。

写真4:外部環境のサーモカメラ画像 2014年8月18日13時 日射を受けた近隣のアスファルト舗装は50℃以上
ソーラータウン府中のMRT(平均放射温度)が常に低く特に樹木の日射遮蔽効果が高くMRTが8℃異なった。

・熊本県和水町三加和小中学校

文部科学省のエコスクールパイロットモデル事業で認定校となっている熊本県和水町三加和小中学校(2013年竣工)では、地元の木材を最大限利用、断熱性能の高い外皮、日射をコントロールする深い庇、太陽熱利用を組み合わせた計画である。

写真1:手前が校舎、奥が体育館

写真5:手前が校舎、奥が屋内運動場

写真2:重ね束ね材による21mスパンの大架構が印象的な屋内運動場

写真6:重ね束ね材による21mスパンの大架構が印象的な屋内運動場

写真3:教室内観

写真7:教室内観

写真4:地形を生かした階段状の音楽室

写真8:地形を生かした階段状の音楽室

・愛農学園農業高校

愛農学園農業高校(2010年竣工)では減築することにより軽度な補強で耐震化し、温熱改修、太陽熱利用、木質化により築46年のRC校舎を再生させた。後に減築した面積分を木造校舎として増築した。当初はRC校舎を全て壊し、1500㎡の木造校舎として新築するプロポーザルであったが、設計者選定後に、居ながら改修で減築+必要な分だけ増築のプロジェクトに合意形成し、解体や建築時のCO2を大幅に削減するプロジェクトに舵を切った。改修後の調査により、夜間の室温を底上げし安定した温熱環境をつくっており、灯油使用量は改修前の6割削減した。

写真5:改修前RC校舎

写真9:改修前RC校舎

写真6:手前が増築した木造校舎、奥が減築したRC校舎

写真10:手前が2013年増築した木造校舎、奥が2010年に減築したRC校舎

写真7:3階減築中のスラブがカットされる様子

写真11:3階減築中のスラブがカットされる様子

写真8:地元の木材による樹状トラスの木造校舎

写真12:増築した木造校舎、図書室内観。地元の木材による樹状トラスの大空間

図2:2012年12月のデータ 外気温が零下になる時でも夜間の冷え込みが抑えられている。 2012/10/8~2013/05/26の間、集熱が行われ校舎全体の集熱量は44.3GJであった。

図7:改修後のRC校舎 2012年12月のデータ
外気温が零下になる時でも夜間の冷え込みが抑えられている。
2012/10/8~2013/05/26の間、集熱が行われ校舎全体の集熱量は44.3GJであった。

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図8:2012/01/20の教室(RC校舎)のサーモカメラ画像 外気温6度雨。教室は均質な温度分布を示している。旧校舎と同時期に建設され同様の構造である別の敷地内建物が右下図である。

  1. 平成25年度住宅・土地統計調査(総務省統計局)

  2. 東京都長寿健康医療センター研究所調査

  3. 池澤知子、須永修通(2009)「アンケート調査によるエコスクール認定校の実態把握-環境調整手法とエネルギー消費量-」『日本建築学会環境系論文集』第74巻第641号、783-788

  4. 池澤知子、須永修通(2009)「アンケート調査によるエコスクール認定校の実態把握-環境調整手法とエネルギー消費量-」『日本建築学会環境系論文集』第74巻第641号、783-788

  5. http://www.eurosolar.de/en/images/stories/pdf/Herzog_European_Charter_Architecture_mar96.pdf

野沢正光

建築家。1944年、東京都生まれ。東京藝術大学美術学部建築科卒業。大高建築設計事務所入所ののち、1974年に野沢正光建築工房を設立。これまで、武蔵野美術大学客員教授、東京藝術大学美術学科建築科、横浜国立大学工学部非常勤講師ほか。2001年「いわむらかずお絵本の丘美術館」で日本建築家協会第3回環境建築賞最優秀賞、2007年「木造ドミノ住宅」でグッドデザイン賞、第6回エコビルド賞、「市川市庁舎」で2012年日本建築学会作品選奨、「熊本県和水町三加和小学校」で第19回木材活用コンクール農林水産大臣賞など。著書に、『地球と生きる家』(インデックス・コミュニケーションズ)、『住まいは、骨と皮とマシンからできている』(農文協)、『パッシブハウスはゼロエネルギー』(農文協)など。

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