これからの建築 - ココに注目!
事業実践者としての建築人
Architectural planner,also practical project organizer

わたしは、大学で建築を学んだのち建設省(現国交省)に入り、2年前に退官して、現在、公立大学法人長岡造形大学の理事長の職に就いている。そうなったのは、長岡市長が大学及び国交省の先輩だった縁によるものであり、本業の大学経営にあたりながら、長岡市の施策立案のお手伝いもいくつかしている。例えば、地方創生の総合戦略、中心市街地の建物更新やリノベーション、空き家対策、景観計画、文化財の活用など。
久しぶりに自治体行政の現場近くに身を置き、上述のような分野の施策立案に関わってみて、実感していることがある。それは、人口減少、床余りの時代に入った今、建築界あるいは建築人に求められているのは、①そもそも何をつくるか、何に使うか、②どう事業を組み立てるか、どうやって事業資金を調達するか、③どう運営するか、どこと連携するか、④市場や産業の仕組みをどう整えるか、といったことを立案し、実行する能力だということ。建築人は、空間創造力や建築技術の錬磨に加えて、企画やマーケティング、事業計画作成、運営、仕組みづくりなどの能力を備える必要があるということである。そのへんの事情は、他のデザイン分野でも同様であろう。
長岡市内に摂田屋(せったや)という醸造の町がある。そこには、色あでやかな鏝絵蔵を有する機那サフラン酒本舗などの文化財が点在している。機那サフラン酒本舗の建物群や庭園は大掛かりな手入れが必要な状況にあるが、そこを訪れた誰もが、このような素晴らしい建築遺産が長岡にあるとは知らなかった、ぜひ残してほしいと言う。保存を願う市民の声に応えるためにどうするか。求められるのは、建物群をどのように活用すれば将来にわたって残すことが可能となるのかを構想し、さらに、その活用構想の実現に向けて事業計画や仕組みをデザインする能力である。これからの建築人は、この例のような拡張したデザインの領域とプロセスに一貫して携わるべきである。

図1

図2

図3

図4

わたしは、機那サフラン酒本舗の建物群と庭園を、摂田屋という町全体の観光の拠点として活かすべきと考えている。有志で勉強会を行い、昨年末に、町おこし会社による観光・文化事業、レストラン事業、売店事業及び教育研究事業の実施を提案した。摂田屋から少し足をのばせば、錦鯉発祥の地である山古志(やまこし)まで車で20分ほど、そこには棚田・棚池の風景がのびやかに展開しているし、途上には新潟県で総合満足度第2位の蓬平温泉(よもぎひらおんせん)もある。目指すべきは、国内外から訪問客をいざなう一級品の観光ルートの形成である。

図5

ちょっとローカルな話題が長くなったが、言いたいことは、地方都市こそ、企画やマーケティング、事業計画作成、運営、仕組みづくりなどの能力を備えた建築人を必要としているということ。それは、東京から出かけてくる評論家ではなく(残念ながら、わたしも、ほぼ同類である。)、地域に腰を据えて仕事をする事業実践者である。とくに若い世代から、事業実践者としての建築人が育っていくことを期待している。

水流潤太郎(つる じゅんたろう)

公立大学法人長岡造形大学理事長。鹿児島県出身。1981年東京大学大学院修士課程修了。同年建設省入省、2014年国土交通省退職。同年9月より現職。自治体の勤務経験は、埼玉県与野市(現さいたま市)、千葉県、東京都。木造建築士。

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