「働き方を考え、働く『場』とは何かを考える。テクニックよりも思想を育てる研究室」
はじめに
本研究室の最大の特徴は、建築学科ではなくデザイン経営工学の建築系研究室であることです。具体的な違いは、学生達が経営を学んでいることです。そのためか、建築を作品として作ることよりも、建築で何を実現するかに興味の核心があります。そして、私たちが今目指しているのは、建築で日本を元気にすることです。
1.研究室テーマ「日本を元気にするワークプレイス」
当研究室の研究分野は、建築計画、建築設計、アルゴリズミックデザイン、CAD、BIM、デジタルファブリケーション、エディトリアルデザインなど多岐にわたりますが、活動の中心は『ワークプレイス』です。
今、日本のオフィスに求められる価値が変化していることをご存知でしょうか? 現代では、イノベーションを生むことが企業存続の必須課題になっています。そこで企業は、効率を追う空間としてだけではなく、イノベーションの創出を支える場としてオフィスを求めるようになりました。それは、イノベーションが個人のデスクワークから生まれるものではなく、多様な知識の交流から生まれるものだからです。また近年、ライフスタイルの多様化に合わせた働き方の変化が求められています。そのため、働く時間の多くを過ごすオフィスも、働き方に合わせた変化が必要です。しかし、一般に見られるオフィスや働き方は依然として画一的なままです。これらは、大量生産・消費社会に合わせて生まれたものだということに気付かなければなりません。
そこで、企業のイノベーション創出を支え、多様な働き方に最適化された場のことを、私たちは「ワークプレイス」と呼んでいます。研究室では『日本を元気にするワークプレイスの実現に向けて出来ることはなんでも行う』という方針のもと、実際に企業と共にプロジェクトを行っています。
2.教育方針
最大のポイントは、実務の実践と理論構築の両方に取り組んでいることです。教育プログラム化された「ままごと」としてのプロジェクトではなく、実際の現場の課題を解くプロジェクトに参加して結果を出すと同時に、その経験を論理的に構築して論文としてまとめます。
また、当研究室では、教員から方法論やコツを教えることはほとんどありません。「知識をどう使うかは人や状況により様々で、一般解や定石があるわけではない」という考えから、学生には「自分のやり方を自ら考え、実践する機会」の提供を第一にしています。
具体的には、企業とのプロジェクトへの主体的な参加機会の提供です。学生が活動の主体となり、教員はそれをサポートします。そうした状況下で学生は課題に対して根気強くトライ&エラーを繰り返します。必要な知識を自ら学ぶ、過去の論文・プロジェクト・研究室メンバーの集合知に触れる、などを経て、少しずつ提案の質を上げていきます。学生が自ら学び行動し、いかに実践するかまで考える、ということが、研究室活動の中心となっています。
研究では、プロジェクトの経験から社会的な価値のあるテーマを着想し、プロジェクトの現場をフィールドとして、研究をまとめます。字数の都合から詳細は割愛しますが、ホームページから論文を見ることができますので、興味のある方はぜひご覧ください。
(仲研究室論文リスト:http://naka-lab.wix.com/index#!paper/cee5)。
3.オフィス改革とプロジェクトの紹介
プロジェクト内容は時々刻々入れ変わり、一年未満で終わるものから、10年計画で進めているものまであります。ワークプレイスに関することが多いため、今回は「オフィス改革」のプロジェクトを紹介します。
3-0. オフィス改革とは
オフィス改革とは、オフィスのレイアウトを変更して、効率的な作業空間を作ることではありません。オフィスのスペース(空間)・ツール・ワークスタイル(働き方)などの視点から、各企業の掲げるゴールを目指すための場を作ることです。また、社員の性質なども含めた現状に合わなければ良いオフィスはできません。例えば、社員が固定席を持たず自由に席を選ぶ「フリーアドレス」は、空間効率や資産効率も良く、営業部門などオフィス滞在時間が少ない社員には有効ですが、フリーアドレスによる働き方が合わない社員もいます。こういった事態を避けるには、社員自身が「自分たちの働く環境はどんな状態で、どんな場が欲しいのか?」を明確にするプロセスが必要です。働いている当人でも、自分たちの働き方・働く場の俯瞰は難しいことです。そこで、アンケート、ワークショップ、諸調査を通じ、徐々に明確にしていきます。また、社員自ら働き方と向き合うことは、求める働き方や空間に気づくだけでなく、企業の理想や課題を改めて認識することにも繋がります。企業のゴールと社員の現状を結び、達成するためにオフィス改革があるのです。
3-1. 株式会社ウエダ本社:『働く人が考える、ユーザー参加型ワークプレイス構築』
2015年度より行う、京都に本社を持つ「株式会社ウエダ本社」とのオフィス改革の紹介です。「行う」と言っても研究室が一方的に提案、指示するのではなく、どうすればよりよい改革になるか、社員の方と学生が共に考えます。具体的には、現状調査、ワークショップ(以下WS)、それらの分析を通じた意識変革やコンセプトメイク、レイアウト提案などを行ってきました。
現状調査では、「①在席率や部署間コミュニケーションの量などをチェックする行動観察調査」と、「②現状のオフィスに対する満足度や知識創造活動の頻度などについてのアンケート調査」を実施しました。
次に、調査結果を分析し、現状を数値的、データ的に見たうえで、3日間のWSを行いました。WSでは、まずオフィス改革とはどういうものか?なぜ自分たちにオフィス改革が必要なのかを考えてもらうために、先進的なオフィス事例の紹介などを行います。そして、現状の働き方を整理するWS、改革を自分事として考えやすくするWSなどを行い、ウエダ本社のオフィスコンセプトを作成しました。そのコンセプトからさらに理想的なスペース・ツール・ワークスタイルまで落とし込み、提案を行いました。
現在は、社員の方の意識、オフィスコンセプトを提案内容とすり合せ、より理想的な改革へするための最終調整を行っています。
3-2. 富士ゼロックス社:『企業とお客様との価値創造の場の構築』
次は、2008年度より続く、富士ゼロックスお客様共創ラボとの共同研究の紹介です。このプロジェクトでは、主に顧客との価値創造を目指す『共創空間』について考えてきました。特に昨年度は、社内チームと共に「シリコンバレー」のような空間(写真4)づくりに向けて活動してきました。主な内容は一週間かけたWSの開催で、学生の視点・発想を加えつつ、トライ&エラーを繰り返しながら空間の仮想構築に取り組みました。
社員掲示板(写真5)やコワーキングの実施など、コミュニケーションやコラボレーションを促す仕掛けを自分たちで作製し、実際に使い、学生ならではの視点を加えたアイデアの提案(写真6)が行われました。社員の方にとっては非常に奇抜な取り組みでしたが、働く環境における自由度や社内コミュニケーションの重要性を再認識してもらえる機会となりました。プロジェクトとしても、イノベーションの場の土壌づくりを達成でき、今後はこのWSで生まれたアイデアを検討し、具体的な空間構築を進めていく予定になっています。
3-3.週刊ワークスタイル
2011年からFacebookで『週刊ワークスタイル』というウェブマガジンを発行しています。ここでは「働き方」や「働く場」に関する記事を、ネットニュースなどから週3回ほど紹介しており、最近では記事の閲覧数が1000を超えるものあります。
情報の集積としての価値以上に、学生の学習を価値と考えています。記事を端的にまとめ、さらに意見や感想を伝わりやすい形で文章にするのは、口で言うほど簡単な事ではありません。はじめは支離滅裂な文章を書いていた学生が、先輩同輩からの指摘を受けながら次第に文章力を向上させ、「ワークスタイル」に対する感度を高めていきます。
ぜひFacebookで『週刊ワークスタイル』のページに行ってみてください。気になる記事だけでなく、学生の成長や、研究室のキャラクターが見られるかもしれません。
3-4.その他のプロジェクト
その他、研究室で進行中のプロジェクトについて、簡単ですが紹介します。
・中西金属工業株式会社:10年計画でオフィス改革を継続中。現在は新社屋の基本設計中。
・株式会社神戸製鋼所:総合技術研究所におけるワークスタイル変革。現在はコンペ実施中。
・マツダ株式会社:商品開発本部、デザイン部門のワークプレイス改革提案。
・西予市役所:産官学連携でのオフィス改革(仲研究室×戸梶研究室×株式会社オープン・エー)
・長崎県庁:オフィス改革。現在はチェンジマネジメントの段階。建物建設中。
・株式会社キョーライト:展示会用ブースのデザイン。
・京都府府民生活部府民力推進課:ワークプレイスデザイン。
・小田原市役所:オフィス改革補助。
・京都工芸繊維大学Kyoto Design Lab:新校舎のワークプレイスデザイン。
・日東電工株式会社:オフィスの効果分析。
・株式会社ジェネラル・サービシーズ:経営視点でのワークプレイスコンサル手法の共同開発
・新世代ワークプレイス研究センター:「生命化ワークプレイス」「行動センシング」の共同研究。
・MIT:長倉教授との共同プロジェクト「Digital Heritage」。
・リスボン大学:José Pinto Duarte との共同プロジェクト「Mass Customization」。
このように、様々な分野の企業、また市役所などの行政と連携したプロジェクトも行っています。
4.終わりに
以上が研究室の紹介です。この記事を読んで、オフィス改革や改善に興味を持った企業の方がいらっしゃったら、ぜひご連絡ください。また、教員の一人はカナダ人で、社会人の入学者や留学生がいたこともあります。多様ながら仲のいい組織です。今年は研究室始まって以来初めてなのですが、院の新入生がおりません。院生を真剣に募集しておりますので、興味のある方はいつでも遊びに来てください。
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