食堂付きアパート / Apartment With A Small Restaurant
解説文
この建築は、5つのSOHO住戸、食堂、シェアオフィスからなる。老朽化したワンルームアパートの建て替えを依頼されたが、地域性を考慮し、多用途が複合した建築とした。
敷地は商店街で有名な下町にあり、ちょうど商業地域と住宅地域の境界に位置する。前面道路は駅への近道になっていて、人通りが多い。
各戸へのアクセスは、街路から螺旋状にのぼっていくように設けられている。このアクセスの空間は共用廊下と玄関前のテラスを一体化させたものであり、両者の間は仕切っていない。そのため、一見したところ、幅3mの路地のように見える。この立体的な路地に対して、SOHO住戸は「スタジオ」を介して開放される。スタジオは、ダイニングキッチンであると同時に、仕事や趣味の場所である。寝室やサニタリーといったプライベートな空間はスタジオの奥に配置されている。
食堂は、アパートと外部の双方に開かれたお店である。街路側はカウンター主体のフロアとなっており、半階上がったアパート側は大きなテーブルのある落ち着いたフロアである。10坪というとても小さな食堂であるが、それゆえ運営上のチャレンジもしやすい(注)。SOHOの住人やシェアオフィスの利用者は、広めの打合せスペースとして使える(かつ、おいしいコーヒーが飲める)。食堂にとってもアイドルタイムに人影があれば店の印象が良くなるので都合が良い。加えて、シェフが建物のエントランスに常に居ることで、維持管理上のメリットも生まれる。
食堂は街とアパートの中間であり、スタジオは住宅と外部の中間である。つまり、内外やプログラム間の境界を緩めて、相互に浸透するような中間領域をあちこちにつくった。このようなハードのデザインをする一方で、食堂とSOHOあるいはシェアオフィスが互恵関係になるような運営管理上の仕組みをデザインした。ということで、シェアハウスでもないことはもちろん、ラーメン屋が1階にあるアパートでもない。
情報技術の進展で、住み方や働き方が多様になり、また、趣味や特技をシェアして楽しむ。このような現代において、プライバシー至上主義でつくられた住宅は、「生活」がもつ広がりを矮小化していないか。仕事や商売はもちろんのこと、楽しみを伴うやりとりを通じて人と関わる行為—「小さな経済」と呼んでいる—に着目することで、生活が内包する多様な営みやつながりを許容するような、豊かな生活環境をつくりたいと思っている。
所在地 東京都目黒区目黒本町5丁目
主要用途 共同住宅
建主 個人
設計監理 仲建築設計スタジオ
構造 鈴木啓/ASA
設備 ZO設計室
照明 岡安泉照明設計事務所
施工 小川建設(目黒区洗足)
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