これからの建築-ココに注目!
軒先商売に学ぶレジリエントな木造振興

学校では木構法を教えているのだが、最近、中山間地域でのまちづくりやバイオマス利用に関係する仕事が多くなった。地方創生というやつである。木造推進の目的は持続可能な社会実現であるので、この流れは当然と言えば当然だ。

そのため、どこに行っても人々の暮らし方が気になるようになった。台湾の地方に出かけた時は、小さな村々の活気づいている様子が気になった。確かに高齢化率も15%程度で、日本の30%に比較すればだいぶ有利な状況ではあるのだが、それにしても、観光地でもなく、若者が闊歩しているわけでもない小村である。なぜ商店や食堂、小さな工房が軒を連ねるのだろうか。

長らく腑に落ちなかった問いに、台湾の大学で教える友人が答えてくれた。それはね、台湾では大企業への就職志向が弱いんだよ。大企業に就職することを経済的リスクと捉え、家族の誰かしらは小さな自営業を営むらしい。商売は小さい程、在庫リスクも少なく、売れ筋を狙ってさっと品種変更をすれば良いのだとか。確かにそうだ。お惣菜屋さんはグローバル経済からは縁遠く、軒先商売をサブシステムとした地方経済は打たれ強い。大都市の超高層ビル群が林立する風景と、地方の軒先商売の併存が魅力的に見えた。

そこで日本の木造振興に思いが及ぶ。ご存知のように、大型建物の木造化が注目を浴びている。戦後の拡大造林とその後の木材離れの結果として過剰蓄積された木材を伐採して山の更新を図ろうとする環境的意図と、木造住宅着工減を非住宅分野で多少なりとも取り返そうという経済的意図が背景にあるようだ。そこで専門誌を賑わすような耐火木造や多層階木造など、大型化のための技術開発が推進されることになる。

しかし、先の台湾での話に例えれば、この大型志向はまさに脆さが懸念される恐竜タイプということになりはしないか。確かに物件あたりの経済効果は魅力的ではあるが、頓挫した場合の影響も大きい。また、これだけ社会の動向も早いテンポで変わる中では、技術的な準備に長期間を要し、利害関係者の多い大型建築では咄嗟の方向転換がきかない点もリスクの一つだろう。そもそも高度な技術的ハードルを乗り越えられる企業は一握りであり、木造建築を通して地域に富を還元するという効果も疑問である。

これまでにない人口構造の変化、待ったなしの循環型社会の実現。このような価値観の転換期に必要なものは、変化に対応しやすいフレキシブルな社会の仕組みであるはずだ。なにも木造に限った問題ではないのかもしれないが、新たな建物をイノベーションするのではなく、建物を作り出す社会の仕組みをイノベーションの対象とすべき時期と感じる。先進工業国とはいえ、ブリコラージュを許容する柔軟な生産社会とは共存できないものか。

そもそも、人材と木材は地域供給が可能な資源である。それが木造をして自立型建築であるとされる所以である。木造を産業支援の視点から見るのもよいが、なぜ木造建築なのか?という問いかけに対し、社会の危機管理という視点を忘れることはできない。
最後に、私の好きな写真である。スイスの建築家カミナダの建物をアルプスの山村に訪ねた道中で目にした小さな製材所である。斜面にへばりつく様にして、地域の生活を支えてがんばっている零細製材所に感動した。一方、麓にあった大型製材所は、拡大投資の数年後には潰れてしまったと聞いた。

網野禎昭

あみのよしあき
1967年静岡県生まれ。法政大学デザイン工学部教授。
早稲田大学理工学部卒、東京大学大学院修士課程修了、スイス連邦工科大学ローザンヌ校博士。ウィーン工科大学アシスタント・プロフェッサーを経て、現職。

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