建築思想図鑑 第1回
近代建築の五原則

ウェブ版『建築討論』に、新しい連載が始まります。建築に関わるさまざまな思想について、イラストで図解する「建築思想図鑑」です。古典から現在まで、欧米から日本まで、古今東西の建築思想を、若手建築家、建築史家らが読み解きます。イラストでの解説を試みるのは、早稲田大学大学院古谷誠章研究室出身のイラストレーター、寺田晶子さんです。

この連載は、主に建築を勉強し始めたばかりの若い建築学生や、建築に少しでも関心のある一般の方を想定して進められますが、イラストとともに説明することで、すでに一通り建築を学んだ建築関係者も楽しめる内容になることを目指しています。

イラストを手助けに、やや難解な概念を理解することで、さまざまな思考が張り巡らされてきた、建築の広くて深い知の世界に分け入るきっかけをつくりたいと思っています。それは「建築討論」に参加する第一歩になるでしょう!

初回はやはり、近代建築の巨匠ル・コルビュジエによるマニフェスト「近代建築の五原則」からスタートします。今後、約2週間に1度、新しい記事が更新されていく予定です。また学芸出版社により、2017年度の書籍化も計画中です。

「建築思想図鑑」の取り組みに、ぜひご注目下さい。

伝統、構造、疾病・・・建築をあらゆるものから解放したマニフェスト

<近代建築の五原則>
産業革命以降の技術革新の意味を的確に察知したル・コルビュジエ。彼が提唱した五原則は、構造や様式の制約から解放された明るく自由な住まいのイメージを象徴した。建築家たちはより自由な建築をつくり始め、現代の建築文化を生み出していった。
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重厚な壁に包まれ、各層同じ平面が続く伝統的な建物には、どれも同じような斜めの屋根がかかっていた。地下の物置はいつもじめじめ。衛生的にも問題だった。

近代建築の巨匠ル・コルビュジエ(1887-1965)は、そんな伝統に対し、20世紀初頭からようやく一般化された鉄筋コンクリートの技法を適用した新しい建築の可能性を考え、住環境の改善をめざした。そして1927年、近代建築を構成する次の5つの原理を提唱した。なお、「近代建築の5原則」として知られるこのマニフェストだが、その原題は「新しい建築の5つのポイント」である。

1.ピロティ:地面から建築を解放し、交通と植物、運動のための場に。
2.屋上テラス(庭園):屋上と空を解放し、日光浴、運動、菜園の場に。住居を湿った層で保護。
3.自由な平面:部屋の形や配置を構造壁から解放。間仕切り壁で自由につくれる。
4.横長の窓:自由に大きい窓がつくれるため、建物内部を一様に明るくできる。
5.自由なファサード:絵画を描くように自由にデザインできる。(上記4つからの直接的な結果)

これまで活用できなかった地面を開放し、屋根を平らにすることで、2倍の面積が新たに生まれる。ル・コルビュジエはまた、車社会の到来を予測し、地上の空間を開放して交通の連続性を確保した。さらに、屋上の庭園化はコンクリートの劣化を防ぐ意味でも有効だ。健康的な生活を屋上でも送れる新しい住まいのスタイルは、当時のヌーディズムの思想とも密着に結びついている。伝統、構造、疾病…あらゆるものから解放された、明るく自由な住まいのイメージを、ル・コルビュジエは実現したのだ。


関連作品

サヴォア邸(1931:写真)
言わずと知れたル・コルビュジエの代表作

photo:林要次

photo:林要次


クック邸(1926) 
ル・コルビュジエが五原則を実現した最初の作品

photo:林要次

photo:林要次


関連文献

「近代建築の五原則」に触れているル・コルビュジエの著書
– Le Corbusier, Précisions sur un état présent de l’architecture et de l’urbanisme, Éditions Crès, Collection de “L’Esprit Nouveau”, 1930(再販版:Altamira, 1997)
(邦訳版:ル・コルビュジェ(古川達雄訳)『闡明 プレシジョン 建築及都市計画ノ現状ニ就イテ』二見書房,1943,ル・コルビュジエ(井田安弘・芝優子訳)『プレシジョン─新世界を拓く建築と都市計画(上)』(SD選書185)鹿島出版会,1984,ル・コルビュジエ(井田安弘・芝優子訳)『プレシジョン―新世界を拓く建築と都市計画(下)』(SD選書186)鹿島出版会,1984)
Le Corbusier & P. Jeanneret, Œuvre complète 1910-1929 publiée par Willy Boesiger et Oscar Stonorov, Les Editions d’Architecture Artémis, 1974 (1929)
(邦訳版:ウィリ・ボジガー編(吉阪隆正訳)『ル・コルビュジエ全作品集 第1巻 1910-1929』A・D・A EDITA Tokyo,1977)

その他関連書籍
– Jacques Lucan (ed.), Le Corbusier: une encyclopédie, Editions du Centre Pompidou, 1987
(邦訳版:ジャック・リュカン(監修)(加藤邦男監訳)『ル・コルビュジエ事典』中央公論美術出版,2007)
– Le Corbusier, Vers une architecture, Éditions Crès, Collection de “L’Esprit Nouveau”, 1923(文庫版:Collection de Champs Arts, Editions Flammarion, 2008)
(邦訳版:ル・コルビュジエ(宮崎謙三訳)『建築藝術へ』構成社書房,1929,ル・コルビュジエ(吉阪隆正訳)『建築をめざして』(SD選書21)鹿島出版会,1967,ル・コルビュジェ‐ソーニエ(樋口清訳)『建築へ』中央公論美術出版,2011)
– Le Corbusier, Urbanisme, Éditions Crès, Collection de “L’Esprit Nouveau”, 1924(文庫版:Collection de Champs Arts, Editions Flammarion, 2011)
(邦訳版:ル・コルビュジエ(樋口清訳)『ユルバニスム』(SD選書15)鹿島出版会,1967)

林要次:文

建築学者/yoji hayashi + a.d.s
神奈川県生まれ。博士(工学)(横浜国立大学大学院都市イノベーション学府)。
専門:設計意匠学、近現代フランス建築都市学、近現代建築教育。
主なル・コルビュジエ研究に、大戦間の活動に着目した訳書『パリの運命』(共訳、彰国社、2012)、「ル・コルビュジエとポール・ヴォーティエ」(日本建築学会関東支部研究報告集所収、2014)など。
最近の研究に、「中村順平とエコール・デ・ボザールの特例」(日本建築学会関東支部優秀研究報告集所収、2016)など。

寺田晶子:イラスト

イラストレーター
茨城県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学大学院修士課程修了。
広告や雑誌の挿絵、建築サイン、企業/店舗のVIのイラスト・デザイン等を手がける。
<主なイラスト掲載>
雑誌『新建築住宅特集』、戸田建設広報誌『TC』、書籍『ようこそ建築学科へ!』(学芸出版社)、書籍『図解 東京スカイツリーのしくみ』(NHK出版)、東急ハンズ店内壁画(ライブペイント)、錦糸町駅ビルテルミナ壁面装飾・広告、「京都梅小路・みんながつながるプロジェクト」メインビジュアル など

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